たましいの救済を求めて

手塚エマ

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第十二章 告白 

第七話 命名

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 羽藤のカウンセリングへの不信感が募っている。
 症状が悪化したと思っている。

「日常生活では、どうですか? ここにいらした当時のように、自分では買っていない物や服があったとか。知らない女性とホテルにいたり、友達とケンカになったりしていませんか?」

 カウンセリングの不満で頭を一杯にして、勢い勇んで来たのだろう。
 胸を指で衝かれたように一瞬息を詰めたあと、沈黙が訪れる。
 円らな瞳が左右に揺れた。
 羽藤の中での検証が続いていた。

「……それは。……あんまり……」
「少しはあります?」
「いえ、すみません。……考えてみたら、最近、特にそういうことは」
「謝らないで下さいね。面談している時にだけ、記憶がなくなりやすいとしても、私や院長がサポートします。あなたをずっと見てますし、話しています」
「どうしてカウンセリングの時にだけ、なるんですか?」

 麻子はここで応答を取りやめた。カウンセリングは質疑応答の場ではない。羽藤が羽藤自身についての話をする場所、時間でもある。
 そして、日常生活には支障をきたさなくなっている。
 過食と拒食は 一朝一夕いっちょういっせき、劇的に治まるような障害ではない。
 そうであっても、交代人格それぞれが、羽藤の意思に反するような言動を、起こさなくなりつつあることは、大きな成果だ。

「先生……」

 羽藤の変化についての考察を進めているうち、か細い声で呼び戻される。

「今晩は」

 現れたのは春人だ。だが、もうその名は使えない。首をすくめて猫背になるのが、春人の合図だ。

「名前ね、いろいろ考えてみたの。今、その話をしてもいいのかな?」

 春人は弾かれたように顔を上げ、瞳に光が射し込んだ。
 こちらから水を向けないと、こうして欲しい、ああして欲しいといったような要求を、自発的に出来るまでには、時間を要する。

「はい」
「私ね。響きにこだわりたかったの。何度でも呼びたくなるような、優しくてきれいな響きが、あなたに似合うと思ってて」

 面談用のスケッチブックとペンをテーブルに用意した。

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