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第九章 私はやめない
第九話 最初の関門
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「わかった。それなら僕がこの院長室にいることを条件として、任せるよ」
駒井の射るような目が和らいだ。
「長澤さんが今日の十一時から十二時の六十分間。僕はここに籠っている。鍵はかけない。万が一何かあったら、すぐにここに来て欲しい」
「先生」
「面談が終わったら、長澤さんが診察室に報告に来て。そうしたら僕も帰るから」
ちょび髭の下の口元が苦い微笑で歪んでいる。
「でも、それじゃ院長まで……」
「帰りの時間は気にすることない。僕は徒歩圏内だし。だけど、長澤さんは地下鉄通勤だったよね?」
「タクシーで帰ります。週に一度のことですから」
「領収書もらっても、通勤手当に出来ないからね。三谷さんは厳しいから」
「もちろん自費です」
経理と総務をかねた三谷を引き合いに出し、肩をすくめて笑い合う。
これでやっと、最初の関門を突破した。
主人格の羽藤柚季は今日の面談は欠席した。けれども叔母の若木が来週の面談予約を入れて帰った。
だから来週の予約日の夜に来るのか、日にちによらずに来るのかどうかはわからない。
それでも駒井は毎日待つという麻子に付き合うと言ってくれた。
麻子は思わず立ち上がり、腰からふたつに折れるようにして礼を言う。
「ありがとうございます」
「とりあえず、一度はやってみよう」
方針を詳らかにした説得が、功を奏したようだった。
これで良い方へ進むのか、ますます混乱するのかどうかは、自分が本物の羽藤柚季だという彼と面談するまでわからない。
駒井の射るような目が和らいだ。
「長澤さんが今日の十一時から十二時の六十分間。僕はここに籠っている。鍵はかけない。万が一何かあったら、すぐにここに来て欲しい」
「先生」
「面談が終わったら、長澤さんが診察室に報告に来て。そうしたら僕も帰るから」
ちょび髭の下の口元が苦い微笑で歪んでいる。
「でも、それじゃ院長まで……」
「帰りの時間は気にすることない。僕は徒歩圏内だし。だけど、長澤さんは地下鉄通勤だったよね?」
「タクシーで帰ります。週に一度のことですから」
「領収書もらっても、通勤手当に出来ないからね。三谷さんは厳しいから」
「もちろん自費です」
経理と総務をかねた三谷を引き合いに出し、肩をすくめて笑い合う。
これでやっと、最初の関門を突破した。
主人格の羽藤柚季は今日の面談は欠席した。けれども叔母の若木が来週の面談予約を入れて帰った。
だから来週の予約日の夜に来るのか、日にちによらずに来るのかどうかはわからない。
それでも駒井は毎日待つという麻子に付き合うと言ってくれた。
麻子は思わず立ち上がり、腰からふたつに折れるようにして礼を言う。
「ありがとうございます」
「とりあえず、一度はやってみよう」
方針を詳らかにした説得が、功を奏したようだった。
これで良い方へ進むのか、ますます混乱するのかどうかは、自分が本物の羽藤柚季だという彼と面談するまでわからない。
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