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第四章~大人扱編~
♀094 親になる準備
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――獣人化が解けてから二度目の朝、
「んっ……んっ……ぁっ」
快感から逃れようとする身体を捕えてギシギシとベッドを軋ませながら甘く優しく私を抱き続けるフェルディナンがふと動きを止めた。一瞬だけ他の何かに気を散らした彼の心を取り戻そうと私がもっとそれを欲しがると、フェルディナンはそれに応えて腰を緩やかにゆらしながら射精と挿入を再開した。
「あっ……」
荒く息を吐き出して全身から滴る汗がフェルディナンの鍛え抜かれた筋肉を伝って私の上に落ちてくる。互いの汗が混じる度に結合が深くなるのが嬉しくて抱かれている間中、ずっと私はフェルディナンの熱い肉棒を素直に受け入れ続けた。
それからようやく長時間に渡ったセックスが終わって、少しだけ仮眠を取る。
まだ疲れが残る身体で、それでも先に起きたのは私の方だった。
そうして隣で寝ている夫の顔を見る度に何時も同じ事を考えてしまう――この人、寝てるだけなのに色っぽいんですけど……
確かに、フェルディナンの方がモブキャラ要素しかない私より数倍。いや、数百倍は綺麗だし。だから寝ているだけなのに周囲に色気を振りまいてしまうのは仕方がない。そう認めるしかない位の美貌を眺めながら私は声を圧し殺して笑った。
「もしかしたら、貴方の眠っている顔を見たくて早起きしちゃうのかも」
とりあえず気を取り直して私は彼の眉尻にある古傷に軽く口づけた。
「起きてる? 狸寝入り? それとも本当に寝てるだけ?」
返事はない。フェルディナンの顔に掛かっている金髪を指先でクルクル絡めとりながら、おでこをツンツン突っついて反応を確かめるも。彼はちょっとだけ顔を顰めただけで起きてくる様子はない。そうして眠っているのを確認すると、私はフェルディナンから離れてベッドをそっと下りた。
「そのまま起きなくていいからね~」
お気楽な口調で振り返り、私はもう一度夫の綺麗な寝顔を眺めた。それから何も身に付けていない身体にシーツを一枚巻き付けると、その格好でペタペタと大理石の床を裸足で歩き出す。そうしているとまるで小さな子供にでもなった気分になる。伝わってくる硬質のひんやりとした冷たい感触が足裏に心地良い。
そうして白いシーツを引きずりながら、私はフェルディナンが普段から使用している机の前まで来た。机の上には古い本が一冊、無造作に置かれている。
「本当はね。まだ見たくないの、結良さんの……ううん、お姉ちゃんの日記……」
フェルディナンに取り上げられていた日記に目を落とす。日焼けとその痛みで少し変色した表紙を愛おしげに指先でなぞる。ざらついた手触りに眉根を寄せながら日記を手に取り胸元にギュッと抱きしめた。
「でも読まないと先にはきっと進めないから――」
そうだよね、お姉ちゃん……?
「お願い……私に勇気を分けてほしい」
先に進む勇気を――そうポツリと零した言葉は誰にも聞かれていない。そのはずだったのに。祈るような気持ちで胸元に抱え込んでいる日記ごと、突然後ろからガバッと包み込むように抱きしめられて私は動けなくなってしまった。
「えっ?」
振り向くとそこには心配そうな顔をしたフェルディナンがいた。腰にシーツを巻き付け上半身を露わにした彼の分厚い胸板が背中に当たって、そこからじんわりと伝わって来る力強さと温かさに心が安らいでいく。フェルディナンの胸板に後頭部をコツンと当ててそれからフェルディナンを見上げると額に優しくキスされた。
「フェルディナンもう起きたちゃったの?」
「起きたら君が隣にいなかった……」
「うーん、それはフェルディナン朝弱いから仕方ないよね。いつもわたしの方が起きるの早いでしょ? それにほらっやっぱりまだ眠い顔してるよ? 目が半分しか開いてないもの」
「眠くない」
「そうなの?」
嘘ばっかり。言っているそばからフェルディナンは目を瞑ってあむあむと私の肩口を甘噛みしている。そうして眠気を振り払おうと必死のようだが、これでは立ったまま眠ってしまいそうだ。その寝惚けた様子が可愛くてクスクス声に出して笑いながら私は胸元に抱えている日記をコッソリ隠そうとした。――のだが、また以前の時のように取り上げられてしまった。
「――あっ!」
「君が朝隣にいなかったのはそれが原因か」
日記をひょいっと片手で摘み上げたフェルディナンの表情が怖いものになっている。彼の視線は絶えず日記に注がれていた。つまらないものでも見るような酷く冷たい視線に寒気を覚えてゾワッと肌が粟立ってしまうくらいに怖い。
「フェル、ディナン……?」
恐々名前を呼ぶ私を無視して、フェルディナンは独り言のように呟いている。それもとても物騒なことを。
「こんなものは捨ててしまおうか……?」
「ちょっま、まって! それはやっちゃダメなの! もうっまだ寝ぼけてるの? 早く返して!」
小学生か! と言いたくなるようなフェルディナンの言動。それも本当に日記を捨ててしまいそうな彼の様子に、日記を取り返そうと慌てて手を伸ばす。そうして勢いよく伸ばした私の手を難なくかわしたフェルディナンは日記をポイッとベッドの上に放り投げてしまった。
「なぁっ!? な、な、……なんてことするの――っ!」
バサッとぞんざいに扱われた日記が幾つかのページを折り曲げながら開いた状態でベッドの上に落ちた。それを目で追い、続いて行こうとしたら後ろから抱き上げられて目の前にある机の上に乗せられてしまった。
互いに向かい合う恰好で視線を交わし合う。丁度同じ位の高さに視線が揃うとフェルディナンは両手を机の縁に付けて体重をかけるようにしながら前のめりに私の顔を覗き込んできた。
何が起こっているのか分からなくて。えっえっと目をパチクリさせながら私は手足をジタバタ動かした。机から下りようとしたら止められて唇が重なり合うくらい近くに寄られてしまう。
そうして私の動きを観察するフェルディナンの瞳の色が変わったように感じるのはきっと、瞳孔が大きく開いているせいだろう。紫混じった青い宝石のような瞳の色よりも黒い面積の方が多い。その瞳の中に困ったような顔をした自分が映り込んでいる。
「フェルディナン……もしかして私に構ってほしいの?」
「あんなものに君の心が度々占領されるのは面白くない」
「……占領って」
まさか、日記にまで嫉妬しているとは。驚きを通り越してもう呆れるしかないではないか。
「あのね、フェルディナン。日記にまで嫉妬してどうするの?」
「そんなものはしていない」
「……しているよね。明らかに」
「うるさい」
私はハァッと溜息を付いて、宥めるようにフェルディナンの頭をポンポン叩いた。
「なんだそれは」
語尾を強く不服そうな顔をしているフェルディナンは何時にもまして厄介だった。
「あやしているんですよ」
「俺は子どもか?」
「とっても大きなね」
「……君は俺を揶揄っているのか?」
「いいえ、ちっとも」
「…………」
段々と話し方が本格的にお母さん口調になりつつある私の肩に、フェルディナンはポフッと突っ伏した。
「フェルディナン?」
少し心配になって彼の名前を呼ぶと、フェルディナンは私の肩に顔を伏せたまま話し出した。
「……俺にはその日記の内容を読む事は出来ない。だが、君がそれを読んでいる間もずっと君の傍にいることなら出来るだろう?」
その姿がおそるおそる様子を伺いながら話し掛けてくる子供のようで、私は肩に乗っているフェルディナンの頭を優しく撫でた。フェルディナンの綺麗な金の髪がサラサラと掌で流れるように動く。その柔らかい感触を指先で楽しみながら頭を撫で続けていたら、フェルディナンが顔を上げてジーッと何かを訴えるように視線を合わせてきた。
「えと、あのぉ~? フェルディナン、さん……?」
久しぶりにさん付けで呼んでしまった。彼の名をそんな風に呼んでいたのはまだ恋人になる前の、この世界に来たばかりのとき以来だ。
そうして返事を渋って戸惑いを見せる私に、フェルディナンは何時もと同じ変わらぬ冷静な顔で、返事は? と、傍にいる許可を求めて迫ってくる。何だかんだで結局最後は何をするにも許可を求めてしまうフェルディナンの欲しがるような視線が妙に心地良い。
「……フェルディナン。日記、取って来てくれる? それと読んでいる間はフェルディナンも一緒に――私の傍にいてくれる?」
フェルディナンは素直にコクリと頷くと、それからすごく嬉しそうな顔をしてゆっくりと微笑んだ。
*******
ベッドの上に放り投げられた日記を回収してフェルディナンは机の上に座っている私の元に戻ってきた。観念した様子で私に日記を手渡したフェルディナンはひとまず椅子に座ってみたものの、机の上に座ったままの私の膝に触れたり腰に手を回してキュッと抱き付いてきたりと行動が定まらない。
日記と私の組み合わせがフェルディナンにとっては最低最悪の組み合わせというのは間違いないだろう。どうにも落ち着かない心境にあるようだ。
そして一方の私もちゃんと椅子に座って読めばいいのにそれをしなかった。何故かというとあまり深刻な気持ちで読みたくなかったからだ。普段なら机の上に座ったりとかそういうお行儀の悪いことはしないのに。今はこの位開放的な姿勢の方がかえって気持ちが楽になって丁度いい。
落ち着かない気持ちを紛らわそうと私にひっついている可愛いフェルディナンの反応に笑いを噛み殺すと。その頭を撫でながら私は日記を読み始めた。今は日記に専念することにしたい。そう思っていたのに……そうして日記を読み始めてから数分後、やはり問題が起きた。
ようやく日記を読める。そう思っていた矢先。それまでなんとか大人しく私にひっついていただけだったのにとうとう我慢が出来なくなったらしい。フェルディナンが読んでいる私の身体に手を出してきた。
お互いにシーツを一枚巻き付けただけの格好だったから、気付けばそれをするりと剥かれていとも簡単に足を大きく左右に開かせられてしまった。
「えっ? あっちょっと待っ……」
外気に晒されている私の秘所にフェルディナンは手を当てると、遠慮無くそこをくぱあっと開いてそこに肉棒を擦り付けてくる。隠されていた蕾が露になったそこへフェルディナンは巨大な肉棒を間に挟み込むようにして半ば中腰になりながら腰を動かしている。
互いの性器を擦り合う行為は今までだって数え切れないくらい沢山してきたけれど、まさかこんなに卑猥な光景をこうもハッキリと見させられる日が来るとは。
朝日が眩しい今の時間帯に窓辺に近い場所でそれをされては、今までなるべく見ないようにしていたものが全部丸見えになってしまう。
「きゃっ! あっあっ……ッ!」
あまりの羞恥に言葉が出てこない。ベッドで横になるわけでもなく、机の上で。それも互いのアレが見える体勢でそんなことをされてしまうとは思ってもいなかった。
フェルディナンはエッチな事に関してはものすごく素直だ。お腹に赤ちゃんがいなければ今頃はもっと激しく突き上げているはずの衝動を抑えながら、それを補う形で何時になく大胆な姿勢でのセックスを強要しようとするフェルディナンの行動力には本当に感心する。
「ふあぁっやっ、やだぁっ! やっ……きゃあっフェルディナンっ!」
小刻みに腰を動かしながらくちゅくちゅと外側を掻き回すように性器で愛撫されては、嫌でも身体が反応して期待にそこから甘い蜜が溢れてしまう。涙目になりながら必死にフェルディナンの手を押さえにかかった拍子に今度は持っていた日記を落としてしまった。
「あっ!」
床に落ちていく日記を追って伸ばした私の手をフェルディナンは難無く捕えて咎めるような目を向けてくる。
「……今は駄目だ」
「だ、ダメなのは日記じゃなくてエッチでしょ!? 今はエッチ禁止なのっ!」
私は日記を読むんだからと主張して床に落ちた日記にばかり視線を向けていたら、視界から日記を隠すように机の上に押し倒されてしまう。
「きゃっ! もうっダメだってばっ! エッチは禁止っ! 日記にまで嫉妬したりしないの!」
「そんなものはしてない」
フェルディナンは何食わぬ顔でシラッとそう言いきったけれど絶対に嘘だ。
「じゃあ日記読ませて!」
「俺に抱かれながら読めばいい」
「えぇっ!? フェルディナンとエッチしながら読む、の……?」
それはいったいどんなプレイだ。
「ああ、君が朗読してくれるなら、ちゃんとしながら聞くぞ? とはいえ喘ぎ声とよがり声に紛れて朗読されてはいくら君がその可愛らしい唇で必死に言葉をつむいでくれても、結局何を言っているのか全く聞き取れないだろうが」
「――っ!」
「俺は朗読よりも君が感じている声の方を聞きたい」
真剣な顔でそんなことを言ってくるものだから、一瞬でボッと顔が火のように熱く真っ赤に染まってしまった。不味い、油断していた。そんな恥じらっている顔を見られたくなくてツーンとそっぽを向くと、顎を捕えてまた視線を戻されてしまう。
「……フェルディナンのばか」
ぽつりと蚊が鳴くような声で文句を垂れると、フェルディナンは確認するように聞いてきた。
「このまま抱いてもいいか?」
「…………」
フェルディナンは優しく頬を撫でながら顔を覗き込んでくる。
「返事が無いならこのまま抱くぞ?」
いいとも駄目とも言わない私の耳元でからかい混じりにそう言って、くすくす楽しそうに笑っている姿はやんちゃな子供にしか見えない。ついさっきまであんなに真剣な顔をしていたくせに。どうしてそう悪戯出来るような機会があるとすぐ童心に戻れるのか。
「……男の人っていつまでたっても子供のままなのね」
私の答えを聞かぬまま、フェルディナンは足を閉じようとする私の股間にその綺麗な顔を埋め込んできた。
「きゃっ」
ちょっと待って。つい数時間前にもあんなに沢山エッチしたでしょ? そう言って非難の目を向けても私の両手を押さえながら花弁に舌先を差し入れて愛撫を始めてしまったフェルディナンはそれに気付いていない。
行為によって若干緩んだ手の拘束を解いて私は股間に埋まるフェルディナンの髪の毛を引っ張った。
「ん……やぁっダメっていって……──えっ?」
蜜が溢れているそこからフェルディナンが唇を離してやっと顔を上げた。荒く息を吐き出しながら興奮に頬をピンク色に染めて唇の端に滴る愛液と唾液の入り混じったものを手の甲で乱暴に拭うと、フェルディナンは金色に光る髪の毛を引っ張っている私の両手を再び捕らえた。
次いで抱き締めるように私の胸元にひっつくと。胸の先端を口に含みながら柔々とそこを揉み始めた。
「甘えん坊……」
優しい目で見つめてそれからフェルディナンの額を流れる汗を唇で吸い取ると、彼は少しだけ拗ねたように目を細めた。
「もうっ! 分かったから。そんな顔しないの。可愛ぃけど……」
「俺は可愛くない」
「はいはい、そうね。ああもうっそんなにムスッとしないのっ。眉間に皺を作らない。あっ! またそんな顔してっ……本当にフェルディナン手の掛かる子供みたいね」
クスクス笑ってそう言うと益々フェルディナンの機嫌が悪化した。
「俺は子供じゃない」
フェルディナンは仏頂面でジーッとこちらを見ている。
「ほらっいつまでも拗ねてないで、構って上げるからきて……」
仕方ない。フェルディナンの綺麗な顔を私は自身の胸の谷間に押し付けて抱え込むと誘うように腰を動かした。
そうしてようやくエッチの許可をもらえたフェルディナンは先走りの白濁した液体で濡れた熱い肉棒を入り口に押し当ててきた。ぐちゅぐちゅと擦り合わせながら愛液と混ぜ合わせるように動いて、しっとりとそれが全部濡れきると花弁を押し開きながらゆっくり中に入ってくる。
「んっ……」
ゆさゆさと身体を揺らして射精と挿入を繰り返し、全身に汗をかきながらフェルディナンはひたすら突き上げ続けている。私にからかわれた余韻が残っているせいか真顔で突き上げを繰り返しているフェルディナンの真剣さがちょっとだけ怖い。
「ひっ! あっ、あんっ、あんっ……あっやぁっ……ぁっ」
力強くそそり立つそれが最深部に到達するようにフェルディナンが私のお尻を掴んだ。そうして何度も身体と局部を強く引き寄せられる。
受け止めきれずに花弁から漏れ出た精液と愛液に濡れた互いの股間から立つくちゅくちゅとそこが交わる水音を聞きながら、必死にその巨大な肉棒を受け入れ続けているのにフェルディナンにはまだ足りないらしい。みっちりと隙間無く膣内を占領している肉棒を震いだたせて更に大きくすると、雄々しく起立したそれの存在を主張するように何度も深々と突き上げてくる。
「ふぁっあっ、あっまた、おっきくなって、る……あっきもちいぃ……」
このまま食べられてしまいそうなくらい激しくされているのにもっと欲しくなる。
身体にくわえられる振動に胸をプルプルと揺らしながら、もっとちょうだい? とフェルディナンの身体に足を巻き付け腰を動かして促すと、それに反応して熱い肉棒が弾けた。
「あっ!」
私が身体の中に広がる熱いものの感覚に身体を震わせ必死で快感に耐えているというのに。射精した直後にもうフェルディナンは動き出していた。
こういうことにかけては本当に休むことを知らない人だ。フェルディナンは再び起立した肉棒をパンッと音が出るくらい強く私の股間に打ち付けて、ガクガクと腰が揺れる位に激しく貪るように子種を植え付け抱き続けている。
「あっ……やぁっ」
「……前に抱いたときにも思ったんだが」
激しく突き上げている最中にフェルディナンは突然、何か思い悩んででもいるような声で話掛けてきた。少しだけ挿入する力と速度を落としてゆるゆると腰を動かし出し入れを繰り返しながら行為を続けてはいるもののあまり熱が感じられない。どうやらエッチをすること以上に今のフェルディナンには気になることがあるらしい。
「えっ?」
「少し君の胸が大きくなってる気がする」
言われて見てみると確かにちょっとだけ大きくなったように思う。それも胸だけでなく全体的にふくよかになったような気がした。
「やだっわたし太った? 丸い?」
敏感に反応して思わず胸を押さえるとフェルディナンは苦笑して首を横に振った。
「大丈夫だ丸くない。君は可愛いし変わらず綺麗なままだ」
サラッと少しも照れずにそんなことを言えるのはこの人の特権のようなものなのだろうか。フェルディナンは平気でそういうことを口にする。
「それに君の身体が少しずつ変わってきているのはきっと妊娠したからだろう。身体がそれに順応してきているだけだ。自然のことだから気にする必要は無い」
「そうなの――ってどうしてそんなにフェルディナンは妊娠に詳しいの? それもわたしみたいに産まれてからずっと女として生きてきた人間の身体なんてよく分からないんじゃ……あっ! もしかしてククルちゃんの出してる異邦人に関する本とか読んで出産のこととか勉強したの?」
「まあそんなところだな……」
「そっかぁ~フェルディナン、お父さんになる準備ちゃんとしてるんだね」
エライエライと褒めて頭を撫でたら首筋を強く吸われた。そこにある赤い痣は私がフェルディナンのものである印。ずっと途絶えることなく付け続けている印に唇を這わせながら、フェルディナンは私の身体をキュッと抱きしめた。
「君のことはずっと最後まで俺が守る――お腹の子供も君も。そう約束する」
「うん、……ありがとう」
きっとフェルディナンは優しい父親になる。誰よりも素敵なお父さんになれる。そう思っていたところで私はあることに気付いてしまった。
「アレッ? そういえばわたし、まだお母さんになる準備とかなんにもしてない……」
肝心の心の準備とやらを全くしていなかった。妊娠してからというもの、ゴタゴタと色んな騒動が勃発していたからすっかり抜け落ちてしまっていた。まあ妊娠する以前からゴタゴタは日常茶飯事だったが。
心細げに眉尻を落としてフェルディナンを見上げると彼は慰めるようにコツンとおでこをくっつけてきた。
「君は今のままでも十分立派な母親になれる」
だから変わる必要はない。そのままでいて欲しい。
そう優しく諭すように言われて、焦燥感に駆られていた心が安らいでいく。
「フェルディナンの?」
「……違う。そうじゃない」
「そうなの?」
「月瑠、こんな話をしている時にからかうな。まったく、君はどうしてそうなんだ?」
「だってフェルディナンの反応がいちいち可愛いからつい……」
「月瑠!」
「は~い」
ずっとこのまま時が止まってしまえばいい。
「ねぇっ子供の名前、なにがいい?」
「そうだな……」
この瞬間を手放したくない。
それくらい今、この刹那に過ぎ去っていく時間が大切で幸せで。一緒にいるこの人を何よりも愛しているから。これからもずっと一緒にいたい。そう強く思った。
「んっ……んっ……ぁっ」
快感から逃れようとする身体を捕えてギシギシとベッドを軋ませながら甘く優しく私を抱き続けるフェルディナンがふと動きを止めた。一瞬だけ他の何かに気を散らした彼の心を取り戻そうと私がもっとそれを欲しがると、フェルディナンはそれに応えて腰を緩やかにゆらしながら射精と挿入を再開した。
「あっ……」
荒く息を吐き出して全身から滴る汗がフェルディナンの鍛え抜かれた筋肉を伝って私の上に落ちてくる。互いの汗が混じる度に結合が深くなるのが嬉しくて抱かれている間中、ずっと私はフェルディナンの熱い肉棒を素直に受け入れ続けた。
それからようやく長時間に渡ったセックスが終わって、少しだけ仮眠を取る。
まだ疲れが残る身体で、それでも先に起きたのは私の方だった。
そうして隣で寝ている夫の顔を見る度に何時も同じ事を考えてしまう――この人、寝てるだけなのに色っぽいんですけど……
確かに、フェルディナンの方がモブキャラ要素しかない私より数倍。いや、数百倍は綺麗だし。だから寝ているだけなのに周囲に色気を振りまいてしまうのは仕方がない。そう認めるしかない位の美貌を眺めながら私は声を圧し殺して笑った。
「もしかしたら、貴方の眠っている顔を見たくて早起きしちゃうのかも」
とりあえず気を取り直して私は彼の眉尻にある古傷に軽く口づけた。
「起きてる? 狸寝入り? それとも本当に寝てるだけ?」
返事はない。フェルディナンの顔に掛かっている金髪を指先でクルクル絡めとりながら、おでこをツンツン突っついて反応を確かめるも。彼はちょっとだけ顔を顰めただけで起きてくる様子はない。そうして眠っているのを確認すると、私はフェルディナンから離れてベッドをそっと下りた。
「そのまま起きなくていいからね~」
お気楽な口調で振り返り、私はもう一度夫の綺麗な寝顔を眺めた。それから何も身に付けていない身体にシーツを一枚巻き付けると、その格好でペタペタと大理石の床を裸足で歩き出す。そうしているとまるで小さな子供にでもなった気分になる。伝わってくる硬質のひんやりとした冷たい感触が足裏に心地良い。
そうして白いシーツを引きずりながら、私はフェルディナンが普段から使用している机の前まで来た。机の上には古い本が一冊、無造作に置かれている。
「本当はね。まだ見たくないの、結良さんの……ううん、お姉ちゃんの日記……」
フェルディナンに取り上げられていた日記に目を落とす。日焼けとその痛みで少し変色した表紙を愛おしげに指先でなぞる。ざらついた手触りに眉根を寄せながら日記を手に取り胸元にギュッと抱きしめた。
「でも読まないと先にはきっと進めないから――」
そうだよね、お姉ちゃん……?
「お願い……私に勇気を分けてほしい」
先に進む勇気を――そうポツリと零した言葉は誰にも聞かれていない。そのはずだったのに。祈るような気持ちで胸元に抱え込んでいる日記ごと、突然後ろからガバッと包み込むように抱きしめられて私は動けなくなってしまった。
「えっ?」
振り向くとそこには心配そうな顔をしたフェルディナンがいた。腰にシーツを巻き付け上半身を露わにした彼の分厚い胸板が背中に当たって、そこからじんわりと伝わって来る力強さと温かさに心が安らいでいく。フェルディナンの胸板に後頭部をコツンと当ててそれからフェルディナンを見上げると額に優しくキスされた。
「フェルディナンもう起きたちゃったの?」
「起きたら君が隣にいなかった……」
「うーん、それはフェルディナン朝弱いから仕方ないよね。いつもわたしの方が起きるの早いでしょ? それにほらっやっぱりまだ眠い顔してるよ? 目が半分しか開いてないもの」
「眠くない」
「そうなの?」
嘘ばっかり。言っているそばからフェルディナンは目を瞑ってあむあむと私の肩口を甘噛みしている。そうして眠気を振り払おうと必死のようだが、これでは立ったまま眠ってしまいそうだ。その寝惚けた様子が可愛くてクスクス声に出して笑いながら私は胸元に抱えている日記をコッソリ隠そうとした。――のだが、また以前の時のように取り上げられてしまった。
「――あっ!」
「君が朝隣にいなかったのはそれが原因か」
日記をひょいっと片手で摘み上げたフェルディナンの表情が怖いものになっている。彼の視線は絶えず日記に注がれていた。つまらないものでも見るような酷く冷たい視線に寒気を覚えてゾワッと肌が粟立ってしまうくらいに怖い。
「フェル、ディナン……?」
恐々名前を呼ぶ私を無視して、フェルディナンは独り言のように呟いている。それもとても物騒なことを。
「こんなものは捨ててしまおうか……?」
「ちょっま、まって! それはやっちゃダメなの! もうっまだ寝ぼけてるの? 早く返して!」
小学生か! と言いたくなるようなフェルディナンの言動。それも本当に日記を捨ててしまいそうな彼の様子に、日記を取り返そうと慌てて手を伸ばす。そうして勢いよく伸ばした私の手を難なくかわしたフェルディナンは日記をポイッとベッドの上に放り投げてしまった。
「なぁっ!? な、な、……なんてことするの――っ!」
バサッとぞんざいに扱われた日記が幾つかのページを折り曲げながら開いた状態でベッドの上に落ちた。それを目で追い、続いて行こうとしたら後ろから抱き上げられて目の前にある机の上に乗せられてしまった。
互いに向かい合う恰好で視線を交わし合う。丁度同じ位の高さに視線が揃うとフェルディナンは両手を机の縁に付けて体重をかけるようにしながら前のめりに私の顔を覗き込んできた。
何が起こっているのか分からなくて。えっえっと目をパチクリさせながら私は手足をジタバタ動かした。机から下りようとしたら止められて唇が重なり合うくらい近くに寄られてしまう。
そうして私の動きを観察するフェルディナンの瞳の色が変わったように感じるのはきっと、瞳孔が大きく開いているせいだろう。紫混じった青い宝石のような瞳の色よりも黒い面積の方が多い。その瞳の中に困ったような顔をした自分が映り込んでいる。
「フェルディナン……もしかして私に構ってほしいの?」
「あんなものに君の心が度々占領されるのは面白くない」
「……占領って」
まさか、日記にまで嫉妬しているとは。驚きを通り越してもう呆れるしかないではないか。
「あのね、フェルディナン。日記にまで嫉妬してどうするの?」
「そんなものはしていない」
「……しているよね。明らかに」
「うるさい」
私はハァッと溜息を付いて、宥めるようにフェルディナンの頭をポンポン叩いた。
「なんだそれは」
語尾を強く不服そうな顔をしているフェルディナンは何時にもまして厄介だった。
「あやしているんですよ」
「俺は子どもか?」
「とっても大きなね」
「……君は俺を揶揄っているのか?」
「いいえ、ちっとも」
「…………」
段々と話し方が本格的にお母さん口調になりつつある私の肩に、フェルディナンはポフッと突っ伏した。
「フェルディナン?」
少し心配になって彼の名前を呼ぶと、フェルディナンは私の肩に顔を伏せたまま話し出した。
「……俺にはその日記の内容を読む事は出来ない。だが、君がそれを読んでいる間もずっと君の傍にいることなら出来るだろう?」
その姿がおそるおそる様子を伺いながら話し掛けてくる子供のようで、私は肩に乗っているフェルディナンの頭を優しく撫でた。フェルディナンの綺麗な金の髪がサラサラと掌で流れるように動く。その柔らかい感触を指先で楽しみながら頭を撫で続けていたら、フェルディナンが顔を上げてジーッと何かを訴えるように視線を合わせてきた。
「えと、あのぉ~? フェルディナン、さん……?」
久しぶりにさん付けで呼んでしまった。彼の名をそんな風に呼んでいたのはまだ恋人になる前の、この世界に来たばかりのとき以来だ。
そうして返事を渋って戸惑いを見せる私に、フェルディナンは何時もと同じ変わらぬ冷静な顔で、返事は? と、傍にいる許可を求めて迫ってくる。何だかんだで結局最後は何をするにも許可を求めてしまうフェルディナンの欲しがるような視線が妙に心地良い。
「……フェルディナン。日記、取って来てくれる? それと読んでいる間はフェルディナンも一緒に――私の傍にいてくれる?」
フェルディナンは素直にコクリと頷くと、それからすごく嬉しそうな顔をしてゆっくりと微笑んだ。
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ベッドの上に放り投げられた日記を回収してフェルディナンは机の上に座っている私の元に戻ってきた。観念した様子で私に日記を手渡したフェルディナンはひとまず椅子に座ってみたものの、机の上に座ったままの私の膝に触れたり腰に手を回してキュッと抱き付いてきたりと行動が定まらない。
日記と私の組み合わせがフェルディナンにとっては最低最悪の組み合わせというのは間違いないだろう。どうにも落ち着かない心境にあるようだ。
そして一方の私もちゃんと椅子に座って読めばいいのにそれをしなかった。何故かというとあまり深刻な気持ちで読みたくなかったからだ。普段なら机の上に座ったりとかそういうお行儀の悪いことはしないのに。今はこの位開放的な姿勢の方がかえって気持ちが楽になって丁度いい。
落ち着かない気持ちを紛らわそうと私にひっついている可愛いフェルディナンの反応に笑いを噛み殺すと。その頭を撫でながら私は日記を読み始めた。今は日記に専念することにしたい。そう思っていたのに……そうして日記を読み始めてから数分後、やはり問題が起きた。
ようやく日記を読める。そう思っていた矢先。それまでなんとか大人しく私にひっついていただけだったのにとうとう我慢が出来なくなったらしい。フェルディナンが読んでいる私の身体に手を出してきた。
お互いにシーツを一枚巻き付けただけの格好だったから、気付けばそれをするりと剥かれていとも簡単に足を大きく左右に開かせられてしまった。
「えっ? あっちょっと待っ……」
外気に晒されている私の秘所にフェルディナンは手を当てると、遠慮無くそこをくぱあっと開いてそこに肉棒を擦り付けてくる。隠されていた蕾が露になったそこへフェルディナンは巨大な肉棒を間に挟み込むようにして半ば中腰になりながら腰を動かしている。
互いの性器を擦り合う行為は今までだって数え切れないくらい沢山してきたけれど、まさかこんなに卑猥な光景をこうもハッキリと見させられる日が来るとは。
朝日が眩しい今の時間帯に窓辺に近い場所でそれをされては、今までなるべく見ないようにしていたものが全部丸見えになってしまう。
「きゃっ! あっあっ……ッ!」
あまりの羞恥に言葉が出てこない。ベッドで横になるわけでもなく、机の上で。それも互いのアレが見える体勢でそんなことをされてしまうとは思ってもいなかった。
フェルディナンはエッチな事に関してはものすごく素直だ。お腹に赤ちゃんがいなければ今頃はもっと激しく突き上げているはずの衝動を抑えながら、それを補う形で何時になく大胆な姿勢でのセックスを強要しようとするフェルディナンの行動力には本当に感心する。
「ふあぁっやっ、やだぁっ! やっ……きゃあっフェルディナンっ!」
小刻みに腰を動かしながらくちゅくちゅと外側を掻き回すように性器で愛撫されては、嫌でも身体が反応して期待にそこから甘い蜜が溢れてしまう。涙目になりながら必死にフェルディナンの手を押さえにかかった拍子に今度は持っていた日記を落としてしまった。
「あっ!」
床に落ちていく日記を追って伸ばした私の手をフェルディナンは難無く捕えて咎めるような目を向けてくる。
「……今は駄目だ」
「だ、ダメなのは日記じゃなくてエッチでしょ!? 今はエッチ禁止なのっ!」
私は日記を読むんだからと主張して床に落ちた日記にばかり視線を向けていたら、視界から日記を隠すように机の上に押し倒されてしまう。
「きゃっ! もうっダメだってばっ! エッチは禁止っ! 日記にまで嫉妬したりしないの!」
「そんなものはしてない」
フェルディナンは何食わぬ顔でシラッとそう言いきったけれど絶対に嘘だ。
「じゃあ日記読ませて!」
「俺に抱かれながら読めばいい」
「えぇっ!? フェルディナンとエッチしながら読む、の……?」
それはいったいどんなプレイだ。
「ああ、君が朗読してくれるなら、ちゃんとしながら聞くぞ? とはいえ喘ぎ声とよがり声に紛れて朗読されてはいくら君がその可愛らしい唇で必死に言葉をつむいでくれても、結局何を言っているのか全く聞き取れないだろうが」
「――っ!」
「俺は朗読よりも君が感じている声の方を聞きたい」
真剣な顔でそんなことを言ってくるものだから、一瞬でボッと顔が火のように熱く真っ赤に染まってしまった。不味い、油断していた。そんな恥じらっている顔を見られたくなくてツーンとそっぽを向くと、顎を捕えてまた視線を戻されてしまう。
「……フェルディナンのばか」
ぽつりと蚊が鳴くような声で文句を垂れると、フェルディナンは確認するように聞いてきた。
「このまま抱いてもいいか?」
「…………」
フェルディナンは優しく頬を撫でながら顔を覗き込んでくる。
「返事が無いならこのまま抱くぞ?」
いいとも駄目とも言わない私の耳元でからかい混じりにそう言って、くすくす楽しそうに笑っている姿はやんちゃな子供にしか見えない。ついさっきまであんなに真剣な顔をしていたくせに。どうしてそう悪戯出来るような機会があるとすぐ童心に戻れるのか。
「……男の人っていつまでたっても子供のままなのね」
私の答えを聞かぬまま、フェルディナンは足を閉じようとする私の股間にその綺麗な顔を埋め込んできた。
「きゃっ」
ちょっと待って。つい数時間前にもあんなに沢山エッチしたでしょ? そう言って非難の目を向けても私の両手を押さえながら花弁に舌先を差し入れて愛撫を始めてしまったフェルディナンはそれに気付いていない。
行為によって若干緩んだ手の拘束を解いて私は股間に埋まるフェルディナンの髪の毛を引っ張った。
「ん……やぁっダメっていって……──えっ?」
蜜が溢れているそこからフェルディナンが唇を離してやっと顔を上げた。荒く息を吐き出しながら興奮に頬をピンク色に染めて唇の端に滴る愛液と唾液の入り混じったものを手の甲で乱暴に拭うと、フェルディナンは金色に光る髪の毛を引っ張っている私の両手を再び捕らえた。
次いで抱き締めるように私の胸元にひっつくと。胸の先端を口に含みながら柔々とそこを揉み始めた。
「甘えん坊……」
優しい目で見つめてそれからフェルディナンの額を流れる汗を唇で吸い取ると、彼は少しだけ拗ねたように目を細めた。
「もうっ! 分かったから。そんな顔しないの。可愛ぃけど……」
「俺は可愛くない」
「はいはい、そうね。ああもうっそんなにムスッとしないのっ。眉間に皺を作らない。あっ! またそんな顔してっ……本当にフェルディナン手の掛かる子供みたいね」
クスクス笑ってそう言うと益々フェルディナンの機嫌が悪化した。
「俺は子供じゃない」
フェルディナンは仏頂面でジーッとこちらを見ている。
「ほらっいつまでも拗ねてないで、構って上げるからきて……」
仕方ない。フェルディナンの綺麗な顔を私は自身の胸の谷間に押し付けて抱え込むと誘うように腰を動かした。
そうしてようやくエッチの許可をもらえたフェルディナンは先走りの白濁した液体で濡れた熱い肉棒を入り口に押し当ててきた。ぐちゅぐちゅと擦り合わせながら愛液と混ぜ合わせるように動いて、しっとりとそれが全部濡れきると花弁を押し開きながらゆっくり中に入ってくる。
「んっ……」
ゆさゆさと身体を揺らして射精と挿入を繰り返し、全身に汗をかきながらフェルディナンはひたすら突き上げ続けている。私にからかわれた余韻が残っているせいか真顔で突き上げを繰り返しているフェルディナンの真剣さがちょっとだけ怖い。
「ひっ! あっ、あんっ、あんっ……あっやぁっ……ぁっ」
力強くそそり立つそれが最深部に到達するようにフェルディナンが私のお尻を掴んだ。そうして何度も身体と局部を強く引き寄せられる。
受け止めきれずに花弁から漏れ出た精液と愛液に濡れた互いの股間から立つくちゅくちゅとそこが交わる水音を聞きながら、必死にその巨大な肉棒を受け入れ続けているのにフェルディナンにはまだ足りないらしい。みっちりと隙間無く膣内を占領している肉棒を震いだたせて更に大きくすると、雄々しく起立したそれの存在を主張するように何度も深々と突き上げてくる。
「ふぁっあっ、あっまた、おっきくなって、る……あっきもちいぃ……」
このまま食べられてしまいそうなくらい激しくされているのにもっと欲しくなる。
身体にくわえられる振動に胸をプルプルと揺らしながら、もっとちょうだい? とフェルディナンの身体に足を巻き付け腰を動かして促すと、それに反応して熱い肉棒が弾けた。
「あっ!」
私が身体の中に広がる熱いものの感覚に身体を震わせ必死で快感に耐えているというのに。射精した直後にもうフェルディナンは動き出していた。
こういうことにかけては本当に休むことを知らない人だ。フェルディナンは再び起立した肉棒をパンッと音が出るくらい強く私の股間に打ち付けて、ガクガクと腰が揺れる位に激しく貪るように子種を植え付け抱き続けている。
「あっ……やぁっ」
「……前に抱いたときにも思ったんだが」
激しく突き上げている最中にフェルディナンは突然、何か思い悩んででもいるような声で話掛けてきた。少しだけ挿入する力と速度を落としてゆるゆると腰を動かし出し入れを繰り返しながら行為を続けてはいるもののあまり熱が感じられない。どうやらエッチをすること以上に今のフェルディナンには気になることがあるらしい。
「えっ?」
「少し君の胸が大きくなってる気がする」
言われて見てみると確かにちょっとだけ大きくなったように思う。それも胸だけでなく全体的にふくよかになったような気がした。
「やだっわたし太った? 丸い?」
敏感に反応して思わず胸を押さえるとフェルディナンは苦笑して首を横に振った。
「大丈夫だ丸くない。君は可愛いし変わらず綺麗なままだ」
サラッと少しも照れずにそんなことを言えるのはこの人の特権のようなものなのだろうか。フェルディナンは平気でそういうことを口にする。
「それに君の身体が少しずつ変わってきているのはきっと妊娠したからだろう。身体がそれに順応してきているだけだ。自然のことだから気にする必要は無い」
「そうなの――ってどうしてそんなにフェルディナンは妊娠に詳しいの? それもわたしみたいに産まれてからずっと女として生きてきた人間の身体なんてよく分からないんじゃ……あっ! もしかしてククルちゃんの出してる異邦人に関する本とか読んで出産のこととか勉強したの?」
「まあそんなところだな……」
「そっかぁ~フェルディナン、お父さんになる準備ちゃんとしてるんだね」
エライエライと褒めて頭を撫でたら首筋を強く吸われた。そこにある赤い痣は私がフェルディナンのものである印。ずっと途絶えることなく付け続けている印に唇を這わせながら、フェルディナンは私の身体をキュッと抱きしめた。
「君のことはずっと最後まで俺が守る――お腹の子供も君も。そう約束する」
「うん、……ありがとう」
きっとフェルディナンは優しい父親になる。誰よりも素敵なお父さんになれる。そう思っていたところで私はあることに気付いてしまった。
「アレッ? そういえばわたし、まだお母さんになる準備とかなんにもしてない……」
肝心の心の準備とやらを全くしていなかった。妊娠してからというもの、ゴタゴタと色んな騒動が勃発していたからすっかり抜け落ちてしまっていた。まあ妊娠する以前からゴタゴタは日常茶飯事だったが。
心細げに眉尻を落としてフェルディナンを見上げると彼は慰めるようにコツンとおでこをくっつけてきた。
「君は今のままでも十分立派な母親になれる」
だから変わる必要はない。そのままでいて欲しい。
そう優しく諭すように言われて、焦燥感に駆られていた心が安らいでいく。
「フェルディナンの?」
「……違う。そうじゃない」
「そうなの?」
「月瑠、こんな話をしている時にからかうな。まったく、君はどうしてそうなんだ?」
「だってフェルディナンの反応がいちいち可愛いからつい……」
「月瑠!」
「は~い」
ずっとこのまま時が止まってしまえばいい。
「ねぇっ子供の名前、なにがいい?」
「そうだな……」
この瞬間を手放したくない。
それくらい今、この刹那に過ぎ去っていく時間が大切で幸せで。一緒にいるこの人を何よりも愛しているから。これからもずっと一緒にいたい。そう強く思った。
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