魔王の懐胎 

動く山菜

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第一章 心優しき聖女

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「こりゃ酷い‥」

 茶色のロングコートを着ている強面の男がデウセスの死体を確認に顔を引き攣らせる。口には硬い物を無理矢理捩じ込まれている為、顎は外れ、歯並びはおかしくなり所々抜け落ち。ベットには血肉が散乱しており酷い匂いを放っていた。

 「うっ!!!」

 スーツ姿を着た茶髪の青年は、悲惨すぎる光景と当たりに充満している悪臭に耐えきれず急いで部屋から飛び出す。その様子を見て強面の男はため息をつく。

 「仏さんの前で失礼だろ。あいつ。」

 髪をかき上げデウセスの死体を凝視する。男の瞳にはまるでゲーム画面のような表情が写っている。画面を慣れた手つきで触り"死因"を調べる。

 『抵抗は‥出来なかったのか。腕と足に少量の魔力が付着してる。縛られてから口に凶器を捩じ込まれ死亡。十中八九、あいつの仕業だな』

 近年、転生者達が何者かに暗殺されている。しかも殺されているのは転生者の中でもレベルの高い《救世主》と呼ばれる者達だ。

 「デウセス‥‥」

 男はデウセスの瞳孔の開いた瞳の瞼をそっと下ろし、口に回復魔術を行う。デウセスの顔はには固まった血は付着しているが生前の綺麗な顔に戻った。

 「これくらいしか出来ない俺を許してくれ」

 顔に白い布を被せ男は部屋を後にする。次に向かったのは妹エリシアの部屋だ。

 「可哀想に‥」

 まだ12歳だった少女の額には小さな穴が空いている。けれど死に顔はとても綺麗で今にも動き出しそうだ。

 「あのぅ‥じ、ジャックさん‥」

 「小峠。オメェは遺族の方々に今朝の事聞いてこい」

 「は、はい!!」

 男の名はジャック・ボーダイム。異世界初の探偵だ。さっきほどの茶髪の青年は小峠陽一。ジャックに命を救って貰った青年だ。この二人にはある共通点がある。それは──────《転生者》だ。
 ジャックはこの世界に転生し45年。小峠は一年前に転生してきたばかりの新参者だ。けれど二人は《救世主》と呼ばれる程強力な力は持っていない。

 『まあ、俺ら見たいな弱輩者を狙わないのは後から始末出来ると踏んでいるか──あるいは眼中にないかだな』

 ジャックはポケットに入れた拳に力を入れる。探偵として働きはや20年。浮気調査やペットを捕まえるといった平和な日常を送ってきた彼だったが、一年前から発生している《救世主殺し》の犯人の捜索を親友の《救世主》に任され何度も現場に入った。けれど‥犯人はまだ見つかっていない。

 「必ず見つけるからな。お嬢さん」

 冷たくなった頬に触れ能力を発動させる。彼女の死因と何時何分何秒に殺されたのかは分かるが──殺人犯の部分はバグっており何が書いているか分からない。

 『やっぱ分からんか。くそ‥』

 エリシアの頬から手を離し踵を返す。次は遺族から聞き込みを────

 「「いい加減にしてよ!!」」

 下から半狂乱した女性の声が聞こえジャックは急いで遺族と使用人達が集まっている談話室に向かう。ドアを開けると二人の母リーゼ・ローゼンタールが花瓶を地面に叩きつけた後だった。
 不規則な呼吸、美しい顔には血管が浮き出ており唇からは血が垂れている。メイドと陽一が落ち着くように説得しているがリーゼの怒りは止まらない。

 「許さない!!あ、あ、あ。あの子達が何をしたって言うのよ!!許さないわ!!絶対に!!見つけたら拷問にかけてやるぅぅぅぅ!!!あ"あ"あ"あ"あ"あ"」

 「奥様!!落ち着いてください!!」

 「そ、そうですよ!リーゼ様!!。と、とりあえず座りましょう?ね?手とか口から血が出てますし!!」

 「何があった!!小堺!!」

 「ジャックさん!!」

 ジャックは急いで小堺の側に近寄り状況を聞く。どうやら急に暴れ出したらしい。先程までは父レイス・ローゼンタールと同じく傷心しており小さな声で、何度も、何度も、何度もデウセスとエリシアの名前を呟いていたのだが急に────
 
 「エリシア?デウセス?あ、ああああ!!!痛かったわね?!辛かったわよね?!」

 と立ち上がり発狂してしまった。

 「はな、離しなさい!!お前達ね!!お前達が私の愛しい二人を!!殺してやるぅぅ!!」

 「小堺!!」

 「へ?え?」

 「"緩め"でやれ」

 「‥‥うっす」

 小堺は空手の構えを取り息をフッー‥と吐く。周囲の魔素が一気に薄くなりその場にいる者達は息苦しさを覚える。小堺の額から2本の赤い角が生え球結膜【きゅうけつまく】が白から黒に変わる。その姿はまさしく鬼だ。

 「すんません‥少し寝ててください」

 小堺の言葉がリーゼの耳と共に彼女は二人の愛しい子の呟きそのまま意識を失った。「フゥゥゥ‥」と角に溜めていた魔素を解放した小堺は尻もちをついた。

 「あいつつつ‥」

 「立てるか?」

 ジャックが小堺に手を伸ばす。小堺を「あんがと」と言って手を掴みジャックの力を借り立ち上がる。メイド達はいきなり眠ってしまったリーゼを見てアタフタし始めている。

 「眠っているだけなんで、すぐに起きますよ。えーーと三十分後くらいかな?」

 「おま‥!?吸いすぎた馬鹿!!」

 「‥吸う?」

 「えっと‥俺は人のマナ?とかオド?を吸えるスキル持ってて。リーゼさんのマナをすこ~し吸いました。あ、ちゃんと戻したっすよ?!」

 「す、凄い‥流石転生者様だわ」

 「い、いやぁ~それほどでも」

 照れている小峠に。照れてる場合か。とジャックは言いそうになったが唾と共に飲み込み、メイド達に昨夜の話しやその前に起きた出来事を聞く。───が誰一人として「"何もなかった"」と聞き二人は屋敷を後にする。

 「あと一時間で医療班が来るってよ」

 「じゃあメイコいるかなー」

 「なに呑気な事言ってんだ。"また犯人が見つからなかったんだぞ"」

 「‥‥だよな。ごめん」

 小峠は屋敷をチラリと見やる。窓からリーゼが涙流しながら花園を見つめている。その様子を見て胸が苦しくなり目を逸らす。

 「早く‥見つけよね。ジャックさん」

 「たりまえだ。」『じゃねえとこいつが殺されるかも知れねぇからな』

 夕日に照らされた二人は犯人を探す為また旅に出るのでだった。

 

 

 

 
 
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