魔王の懐胎 

動く山菜

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第一章 心優しき聖女

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 馬車に揺られテオは新聞を読んでいた。そこには‥‥
『ローゼンタール夫婦。二人の愛子に会う為後追い自殺?!』と不謹慎極まりない見出しが一面を飾っている。

 「酷い‥」

 「ああ、胸が苦しいよ。」

 金髪の鎧をきた男性と青い柔道服を纏った黒髪の女性が呟く。テオは羽織っているローブで口元と目を隠し物思いに耽る。エリシアから言われた『魔王』が頭から離れない。

 『俺が‥やっている事は‥』

 「お前は神の贈り物だ」父はテオを抱きしめる。「貴方は私達の希望よ」母はエルピスの頬にキスをした。他の者達はテオを「勇者」や「救世主」と呼び崇めていた事を思い出す。少年はそうやって育てられた。別の世界現れ絶大な力を使い皆を救う存在《転生者》。けれど、自分を育てた人々は彼等彼女等を《魔王》と呼ぶ。だから戦う、だから殺す。だってそれが────────

 『みんなの願いなんだ。』

 ギュとローブを掴み体を埋める。少女言葉が頭の中から消えない。消えてくれない。間違ってない。俺は頑張ってる。皆んなを助けなきゃ。そうやってテオは自分に暗示をかけながら薬を飲む。
 言葉が頭から消えてゆく。父と母。皆んなの声援が聞こえる。ローブで隠れた口の口角が少し上がり、目を閉じようとした時、

 「ねぇ、貴方‥」

 「!!!」

 顔を上げると嘆いて女性がテオに話しかけていた。何故、話しかけられたのか理解出来ないテオは黙り込む。

 「体調悪いの?もし良かったら治療するよ?」

 「こら、千歳!!お前また、力を」

 「でも、体調悪そうなんだもん!!」

 テオは千歳に──スキルを使う。結果は《転生者》。《救世主》───ゼロ。鑑定結果を確認し瞼を閉じる。二人の言い争う声が聞こえる。
 どうやら千歳は聖女らしいのだが力を使うと発熱を起こし三日は寝込んでしまうらしい。確かにそれでは《救世主》になれない。とテオは納得する。

 「お前この前も使って寝込んだじゃないか」

 「だって、ほっとけない‥。」

 「別にいらないです」

 「「え?」」

 二人の喧嘩に嫌気がさしテオは口を開く。

 「でも、顔色も悪そうだし‥!!」

 「余計なお世話です。そもそも、赤の他人に治療して貰うなんて死んでもごめんです」

 「な!お前!!」

 「リック!!」

 千歳は小さく「私は平気だから」と言ってリックを落ち着かせる。座ったリックを見てローブに隠していたナイフを収める。

 「さっきはごめんね。君辛そうだったから‥」

 「辛そう?」

 「うん、顔も汗も凄い流れてたし。体震えてたんだよ?。」

 ありえない。と言いたげな表情で千歳を見つめる。見開かれた赤い瞳を見て千歳はテオを抱きしめる。

 「ちょ!、千歳!!」

 「大丈夫。ここには"貴方を怖がらせる人はいないから"大丈夫だよ」

 緊張の糸が切れたようにテオは意識を失う。千歳は彼を寝かせ光の魔術をかける。その様子をリックは不満そうに見つめていた。

 「んで、助けるだよ。」

 「‥‥似てたからかな」

 「前に言ってた助けられた子供に?」

 「うん、それもあるけど。あんなに"怯えてる顔"みたら咄嗟に体動いちゃって。私変かな?」

 「‥‥まあ、いきなり抱きしめたのには驚いたけどよ。‥‥?!こいつよく見ればガキだぞ!?」

 「背丈見れば分かるでしょ‥。15歳前後の子供だよ。」

 スゥスゥと寝息を立てている少年にリックは驚く。先程の彼から感じた力は紛れもなく《救世主》レベルだ。肌もよく見れば千歳に近い色をしている。ならば彼は転生者なのだろうか?。───いや、違う。
 確かに力も肌の色も転生者に似ているが女神の加護を受けていない所か違和感を感じる。なんだがこの少年を見ていると心臓を掴まれているような感覚にリックは襲われる。
 
 「お、おい。その坊主なんだがやば‥「何してる」

 「あ、起きた?」

 「‥‥治療してたのか。俺を」

 起き上がってテオは体から疲れが抜けていることに気づく。千歳は少し怒ったようにテオに質問を始める。

 「君、しっかりご飯食べてるの?。休息は?。」

 「食べ物は一昨日食べた。休息は一週間前に取ってる」

 「な!!駄目よ!!死んじゃうわ!!」

 「何で驚くんだ?。食べていたし休息だって取っているぞ」

 「あのな。坊主。それは食べたとも、休息共言わん。」

 「?」

 「はぁぁ‥君予定とかあるの?」

 何故そんな事を聞く。テオは疑問に思いつつ「ない」と答える。それを聞いて千歳はテオの両肩に手を置き

 「なら、私達の住む村に来なさい!!」

 外から業者の大きな欠伸と馬のけたたましい声が馬車に響いた。

 

 


 
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