体質が変わったので

JUN

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くりかえす(5)推理の時間

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 食堂には、元々ここにいた明治時代のメンバーと、僕、直、兄がいた。
 テーブルの上には食事が並べられているが、誰も手を出そうとはせず、ピリピリとした空気が漂っている。
「一体何だと言うのかね」
 前原さんが不機嫌そうに言うが、内心は不安で仕方がないというのを表すように、唇をなめ、視線を忙しく動かしている。
「何か面白い余興でも始まるのかしら」
 面白そうに尋ねるのはイネさんだ。
 そして村雨さんは、そんなイネさんを守ろうとでもいうように、斜め後ろに立って、いつでも動けるようにしていた。
 重吾さんはそわそわとして、時計を見ては溜め息をついている。
 菅井さんは顔色の悪い顔を歪めるようにして笑って、
「面白い余興。集団自殺でもしようと言うのかね。ハッ。それはいい!」
と言い、畑中さんは、ひっと短く声を上げて肩を竦めた。
 下長さんはそれに少し表情を硬くして、何かがあればすぐに飛び掛かれるようにと、マツさんを中心に見ている。
 そのマツさんは、硬い表情で、皆を見回した。
「明治8年8月8日。私達に何があったか、皆忘れているのね。この日、下長さん、村雨さん、畑中さん以外は全員毒殺され、村雨さんは下長さんと畑中さんを殺して自殺したんだけれど」
 それに、全員が怪訝な顔をした。
 数人は鼻で笑うが、その中で、下長さんが、じっと考えこんだ。
「思い出した。そうだ。毎年こうしてこの日を繰り返しては、誰が犯人だったんだろうと……」
 それを聞いてまだ笑っていた者も、やがて考え込み、そして、フミちゃんとチヨちゃん以外は顔色を変えて行った。
 皆が思い出したところで、僕は口を開いた。
「この日にここへ来合せた縁で、犯人捜しを頼まれました」
「素人が一体何の権限で!」
 立ち上がって怒鳴る前原さんに、僕達は言う。
「警視庁の、御崎です」
「町田ですぅ」
「御崎です」
 それで、前原さんはそのまま椅子に腰を下ろし、皆も「警察か」という顔をした。
「で?一体誰が犯人なんです?」
 重吾さんが言いながら、皆の顔を見回す。
 皆も、全員の顔を眺めまわして、睨みつけ、各々、指さして喚き合った。
「自殺願望の巻き添えにしたのか」
「破産しそうなのに悲観して」
「店を乗っ取られた腹いせだろう」
「離縁されるくらいならと」
「ふられた恨みで皆殺しとはひどいじゃありませんか」
「こいつの妾にされるくらいならと心中に巻き込んだんですか」
 喚き合い、掴み合い、怒鳴り合う中、フミちゃんとチヨちゃんだけはキョトンとしており、菅井さんは狂ったように笑い、畑中さんは膝から頽れて震えていた。
 僕と直と兄はそれを観察してから、手を叩いて黙らせる。
「はい、静かに。
 事件は過去に起こったものであり、今更変えようはありません。それに、あなた方が望むのは、真犯人の解明、ですよね」
 それに、各々が不承不承頷く。
「死因は毒殺であり、それは夕食に混入されていた。
 ですが、料理をする過程をずっと見ていましたが、その時に混入された様子はありませんでした」
 言うと、皆、顔を見合わせる。
「誰が、いつ、どうやって毒物を混入したのか。
 これがそのメニューです。この中のどれかに毒物が混入されています」
 それで全員が、テーブルの上の料理を見た。
「フミちゃんとチヨちゃん。『うさぎにこの草をあげて来て』って頼まれたんだよな」
「ええ、そうよ」
「畑中さんに言われて、お手伝いしたの」
 2人はにこにことして胸をはった。
「それはどの草だった?採って来てもらえるかな」
「ええ、いいわ」
「少し待っててね」
 2人はぱたぱたと走り出し、直がそれについていった。
「この水ですが、ハーブ水ですね。これは?」
 畑中さんが震えながら言う。
「お、奥様がハーブや、花を召しあがるのを好まれますので、その、庭の花を」
「ここへ出す前は、花がまだ浸けてありましたね。何の花ですか」
「そ、それは」
 兄がキッチンへそれを確認しに行き、びしょ濡れの濃いピンクの花を皿に乗せて戻って来た。
 直とフミちゃんとチヨちゃんも、戻って来る。
 思った通りだ。
「ありがとう。
 フミちゃん、チヨちゃん。この草は、畑中さんに渡されたのかな。自分達で採ったのかな」
「畑中さんに渡されたのよ」
「いつもなら私達、うさぎにはおおばこをあげるわ」
 その草を皆に見せる。
「これは、イヌホウズキという植物で、茎、葉、根、実に毒があります。その毒は人には危険なものですが、うさぎには無害で、これを食べたうさぎを絞めて料理に使えば、人に有害なうさぎになります」
 畑中さんが叫ぶ。
「そ、それは、偶然だ!知らなかったんだ!」
「そうですか?西洋料理のプロであるあなたが、それを知らなかったと?それに、なぜ今日はいつもと違うエサをやったんですか。
 でも、こう重なるとどうでしょう。夾竹桃の幹、花、根には毒があります。それを水に浸けて飲むなんて」
「し、知らない!知らなかったんだよ!」
「ではなぜ、何の花か答えるのに躊躇したんですか」
 畑中さんは、グッと詰まった。
「畑中さん。あなたが殺ったんですか」
 皆に目が畑中さんに集中する。
 兄が、畑中さんをじっと見て、静かに訊く。
「殺ったんですか」
 その圧力に負けたのか、畑中さんは、頭を抱えて泣き出した。
 流石、兄ちゃん。
「う、うわあああ!か、金がいったんだよお!借金取りに居所がバレて!有り金をいただいて、逃げるつもりだったんだよお!
 それを、上手くいったと思ったのに、村雨ぇ!」
「お嬢様を殺しておいてよくも!」
 畑中さんと村雨さんは睨み合い、殴り合いかけたが、それを兄と直が止めた。
「はいはい。だめだよう」
「殺しは勿論だが、それに子供を巻き込んだ事が許しがたい」
 兄も相当怒っている。
 が、一番怒っていたのは、菅井さんだった。
「俺は、自殺したかったんだ。殺されるなんて美しくない!お前が!俺を!」
 そして菅井さんは、悪霊と化した。


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