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着信(2)消えた女
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陰陽課にその話を持って来た刑事は、「わからないんですけど」と前置きしてから話し出した。
妻の糸井結子がいなくなったと捜索願を出したのは夫の繁久だった。
繁久さんはバーやクラブやレストランを何件か経営しており、別荘も持っている。その別荘に夫婦で泊まっていて、朝起きたら姿が見えなかったそうだ。
セーターとスラックス、毛皮のコート、革のブーツ、スマホが消えていたらしいが、キャッシュカードやアクセサリーはそのまま残っていたらしい。
寝る前に珍しくスケジュールの事でケンカをしたから家出したのかもと思ったそうだが、資産家である事や、徒歩でそこを離れるとは考えにくいような山中に別荘がある事、持って出そうな物を置いて行っている事から、事件の可能性もあるとして捜査に入ったらしい。
夫婦は知人の紹介で知り合ったらしく、結婚当初はかなり仲がよかったそうだ。しかし、結子さんが束縛する質らしく、ひっきりなしに行動確認の電話を入れ、出なければヒステリーを起こして大変だと、最近では繁久さんがこぼしていたという。
「それで、殺人の可能性があると」
「はい。繁久に愛人がいるとかそういう話は出ていないんですが、1時間置きに電話とかで、周囲もちょっと異常で、繁久もノイローゼ気味だと言っていました」
「1時間置きじゃあ、確かにねえ。仕事にも差し支えそうだよねえ」
「わかりました。まずは繁久さんを視て、いなければ別荘とかを視ましょう」
「お願いします」
こうして僕と直は、この事件に関わる事になった。
繁久さんは、新規のレストランの件で人と会っていた。それを、観察する。
「憑いてはいないねえ」
「ああ。でも、何て言うか、怨念と言うか執着と言うか、そういうものが凄いな」
「結子さんかねえ」
「生きてるのか死んでるのかわからないな」
繁久さんは、明るくてがっしりとしたスポーツマン的なイケメンで、モテそうなタイプに見えた。そういう所を結子さんは心配して、極端な行動確認につながったのかもしれない。
そんな結子さんが家出して行動確認せずにいられるとは、考えにくい。
「家出はないな」
「ないねえ」
僕達は、別荘へ行く事にした。
別荘は山の奥にあった。昔は集落があったらしいがとうに無くなり、山にはこの別荘以外、何も無いそうだ。
一番近いバス停は山道を50分ほど歩いたところにあるが、1日2本。タクシーは電話で呼ばなければまず来ない。
凍結注意、落石注意、熊に注意の看板を見ながら舗装されていない道を上って行くと、ロッジ風の建物が出て来た。
「ここだな」
車を降りて、辺りを見る。
「さっきから、全然ほかの車も見かけないねえ」
「通りすがりの車にヒッチハイクってのは無理そうだが、こっそり何かするには都合が良さそうだな」
別荘には鍵がかかっているので、周囲を歩いてみる事にした。
防寒着と滑り止め付きの靴で、林に分け入る。
少し入ったところで、発見した。
「藁人形!」
「こっちもだよう!」
「あ、ここも!」
「何だろうねえ、ここ」
「呪いの人気スポットか?」
近付いて、見る。
比較的、どれも新しい。そして、どれからも、怨念的なものは感じられなかった。
「失敗して、念が無散したかねえ?」
「全部新しいのが変だが……これをやったのは最近で、結子さんにでも見られたから失敗したとかいうのも、まあ言えなくもないけど」
「もう少し探ろうかねえ」
先へ進む。
と、今度は井戸が出た。ホラー映画に登場しそうな古井戸だ。昔、集落があった頃には使用されていたのだろうか。
覗いてみると、上の方まで土で埋められていた。
「危ないから埋めたのか」
被さった落ち葉を除けて見ると、土は柔らかい。
「わからないな。決定打に欠ける」
「いないのかねえ、結子さん」
僕と直は、辺りを見回した。
妻の糸井結子がいなくなったと捜索願を出したのは夫の繁久だった。
繁久さんはバーやクラブやレストランを何件か経営しており、別荘も持っている。その別荘に夫婦で泊まっていて、朝起きたら姿が見えなかったそうだ。
セーターとスラックス、毛皮のコート、革のブーツ、スマホが消えていたらしいが、キャッシュカードやアクセサリーはそのまま残っていたらしい。
寝る前に珍しくスケジュールの事でケンカをしたから家出したのかもと思ったそうだが、資産家である事や、徒歩でそこを離れるとは考えにくいような山中に別荘がある事、持って出そうな物を置いて行っている事から、事件の可能性もあるとして捜査に入ったらしい。
夫婦は知人の紹介で知り合ったらしく、結婚当初はかなり仲がよかったそうだ。しかし、結子さんが束縛する質らしく、ひっきりなしに行動確認の電話を入れ、出なければヒステリーを起こして大変だと、最近では繁久さんがこぼしていたという。
「それで、殺人の可能性があると」
「はい。繁久に愛人がいるとかそういう話は出ていないんですが、1時間置きに電話とかで、周囲もちょっと異常で、繁久もノイローゼ気味だと言っていました」
「1時間置きじゃあ、確かにねえ。仕事にも差し支えそうだよねえ」
「わかりました。まずは繁久さんを視て、いなければ別荘とかを視ましょう」
「お願いします」
こうして僕と直は、この事件に関わる事になった。
繁久さんは、新規のレストランの件で人と会っていた。それを、観察する。
「憑いてはいないねえ」
「ああ。でも、何て言うか、怨念と言うか執着と言うか、そういうものが凄いな」
「結子さんかねえ」
「生きてるのか死んでるのかわからないな」
繁久さんは、明るくてがっしりとしたスポーツマン的なイケメンで、モテそうなタイプに見えた。そういう所を結子さんは心配して、極端な行動確認につながったのかもしれない。
そんな結子さんが家出して行動確認せずにいられるとは、考えにくい。
「家出はないな」
「ないねえ」
僕達は、別荘へ行く事にした。
別荘は山の奥にあった。昔は集落があったらしいがとうに無くなり、山にはこの別荘以外、何も無いそうだ。
一番近いバス停は山道を50分ほど歩いたところにあるが、1日2本。タクシーは電話で呼ばなければまず来ない。
凍結注意、落石注意、熊に注意の看板を見ながら舗装されていない道を上って行くと、ロッジ風の建物が出て来た。
「ここだな」
車を降りて、辺りを見る。
「さっきから、全然ほかの車も見かけないねえ」
「通りすがりの車にヒッチハイクってのは無理そうだが、こっそり何かするには都合が良さそうだな」
別荘には鍵がかかっているので、周囲を歩いてみる事にした。
防寒着と滑り止め付きの靴で、林に分け入る。
少し入ったところで、発見した。
「藁人形!」
「こっちもだよう!」
「あ、ここも!」
「何だろうねえ、ここ」
「呪いの人気スポットか?」
近付いて、見る。
比較的、どれも新しい。そして、どれからも、怨念的なものは感じられなかった。
「失敗して、念が無散したかねえ?」
「全部新しいのが変だが……これをやったのは最近で、結子さんにでも見られたから失敗したとかいうのも、まあ言えなくもないけど」
「もう少し探ろうかねえ」
先へ進む。
と、今度は井戸が出た。ホラー映画に登場しそうな古井戸だ。昔、集落があった頃には使用されていたのだろうか。
覗いてみると、上の方まで土で埋められていた。
「危ないから埋めたのか」
被さった落ち葉を除けて見ると、土は柔らかい。
「わからないな。決定打に欠ける」
「いないのかねえ、結子さん」
僕と直は、辺りを見回した。
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