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着信(1)節分の夜に
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ザック、ザック、ザック――。
暗い中、男は無言で土を掘り返していた。
「今何してるの、どこにいるの、何時に帰るの、どうしてすぐに電話に出ないの。もうたくさんだ!たまに言うくらいならかわいいもんでも、1日中1時間置きとか……もううんざりだ!」
ブツブツと独り言を言っていると、怒りが再燃してくる。
手を止めて、穴の深さを目算で確認する。そして、このくらいでいけるか、と思い、それを穴の中に放り込んだ。妻の遺体だ。
そして、忌々しい妻のスマホも無造作に放り込む。
「これで自由だ――!」
今度は笑いがこみ上げて来る。
男は笑顔を浮かべながら、目を見開いた妻の遺体の上に、土をかけ始めた。
大豆にさっと熱湯をかけ、焦げないように気を付けながら炒った大豆は、半分はそのまま、半分は細かく切った海苔をくっつけた。今年の豆まきの豆だ。
それを子供達が「鬼はー外ー、福はー内ー」と投げ、数を数える練習がてら、凜と累と優維ちゃんで皆の分の豆を数え、それを敬と康介で監督している所だ。
「いーち、にーい」
流石に優維ちゃんは順調に進んでいく。
「じゅうはち、じゅうく、ええっと……?」
凜と累は首を傾けた。
「にじゅう」
敬が助け舟をだすと、凜と累はああそうかとそこから続ける。
「にじゅう!にじゅういち――」
そして、29で引っかかった。
「さんじゅう」
「あ、さんじゅう!さんじゅういち――」
見ていた僕達は、小声で言い合った。
「30とか40とかがわからないんだな。いっそ、数字を書いて見せた方が覚えるかな」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「それは言えるかも知れないな」
兄が頷く。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「それにしても、累と凜は、引っかかる所まで同じなんだねえ」
直が笑いを堪えるように言った。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「気の合う事だな」
兄も笑う。
「それにしても、敬と康介は、すっかりお兄ちゃんらしくなったな」
「頼もしいねえ」
調子に乗って数え年以上に豆を皿に乗せ、ハッと我に返る所はまだまだかわいいものだが。
今日は手巻き寿司とイワシの塩焼きだ。チビッ子3人は1本の三分の一ずつ、敬と康介は半分ずつの細巻きの丸かぶりで、何やら一心不乱にお願いを心の中でしながら、子供達が神妙な顔付きで丸かぶりをするのが面白かった。女性陣は、皿洗いと、デザートの柿を剥いているところだ。
「ねえねえ、怜君。相談があるの」
なにやら真面目な顔で、優維ちゃんが僕達の所に来た。
珍しく、敬には内緒らしい。
「ん、何?」
「敬君に、バレンタインのチョコレートを作りたいの。他の女に取られないように」
直と兄が、お茶にむせた。
「それは、また……」
末恐ろしいな。
しかし優維ちゃんは、真面目な顔だ。
「舞ちゃんから、また来るかもしれないもん」
「……」
怖い……!5歳の時って、僕、こんなの理解してなかった!
「お願い」
「……わかった。何か考えておくよ」
僕は辛うじてそう返事し、優維ちゃんは安心したように子供達の所に戻った。
兄と直もそれを呆然と見送り、ポツリと言う。
「女の子の方がおしゃまってのは、本当だねえ」
「ああ。でも、それが過ぎないように注意してやらないとな」
「この年でドロドロの三角関係?ああ、面倒臭い」
この後、行き過ぎた愛情が生み出した悲劇に直面するとは思わず、笑顔で豆を数える子供達を、僕達は戦慄のまなざしで眺めていたのだった。
暗い中、男は無言で土を掘り返していた。
「今何してるの、どこにいるの、何時に帰るの、どうしてすぐに電話に出ないの。もうたくさんだ!たまに言うくらいならかわいいもんでも、1日中1時間置きとか……もううんざりだ!」
ブツブツと独り言を言っていると、怒りが再燃してくる。
手を止めて、穴の深さを目算で確認する。そして、このくらいでいけるか、と思い、それを穴の中に放り込んだ。妻の遺体だ。
そして、忌々しい妻のスマホも無造作に放り込む。
「これで自由だ――!」
今度は笑いがこみ上げて来る。
男は笑顔を浮かべながら、目を見開いた妻の遺体の上に、土をかけ始めた。
大豆にさっと熱湯をかけ、焦げないように気を付けながら炒った大豆は、半分はそのまま、半分は細かく切った海苔をくっつけた。今年の豆まきの豆だ。
それを子供達が「鬼はー外ー、福はー内ー」と投げ、数を数える練習がてら、凜と累と優維ちゃんで皆の分の豆を数え、それを敬と康介で監督している所だ。
「いーち、にーい」
流石に優維ちゃんは順調に進んでいく。
「じゅうはち、じゅうく、ええっと……?」
凜と累は首を傾けた。
「にじゅう」
敬が助け舟をだすと、凜と累はああそうかとそこから続ける。
「にじゅう!にじゅういち――」
そして、29で引っかかった。
「さんじゅう」
「あ、さんじゅう!さんじゅういち――」
見ていた僕達は、小声で言い合った。
「30とか40とかがわからないんだな。いっそ、数字を書いて見せた方が覚えるかな」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「それは言えるかも知れないな」
兄が頷く。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「それにしても、累と凜は、引っかかる所まで同じなんだねえ」
直が笑いを堪えるように言った。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「気の合う事だな」
兄も笑う。
「それにしても、敬と康介は、すっかりお兄ちゃんらしくなったな」
「頼もしいねえ」
調子に乗って数え年以上に豆を皿に乗せ、ハッと我に返る所はまだまだかわいいものだが。
今日は手巻き寿司とイワシの塩焼きだ。チビッ子3人は1本の三分の一ずつ、敬と康介は半分ずつの細巻きの丸かぶりで、何やら一心不乱にお願いを心の中でしながら、子供達が神妙な顔付きで丸かぶりをするのが面白かった。女性陣は、皿洗いと、デザートの柿を剥いているところだ。
「ねえねえ、怜君。相談があるの」
なにやら真面目な顔で、優維ちゃんが僕達の所に来た。
珍しく、敬には内緒らしい。
「ん、何?」
「敬君に、バレンタインのチョコレートを作りたいの。他の女に取られないように」
直と兄が、お茶にむせた。
「それは、また……」
末恐ろしいな。
しかし優維ちゃんは、真面目な顔だ。
「舞ちゃんから、また来るかもしれないもん」
「……」
怖い……!5歳の時って、僕、こんなの理解してなかった!
「お願い」
「……わかった。何か考えておくよ」
僕は辛うじてそう返事し、優維ちゃんは安心したように子供達の所に戻った。
兄と直もそれを呆然と見送り、ポツリと言う。
「女の子の方がおしゃまってのは、本当だねえ」
「ああ。でも、それが過ぎないように注意してやらないとな」
「この年でドロドロの三角関係?ああ、面倒臭い」
この後、行き過ぎた愛情が生み出した悲劇に直面するとは思わず、笑顔で豆を数える子供達を、僕達は戦慄のまなざしで眺めていたのだった。
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