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新人(1)波乱の幕開け
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警察官僚の異動は11月だが、一般警察官の異動は4月だ。しかもどちらも、知らされるのは1週間程度前だ。
陰陽課の異動も同じで、異動があった。研修で来ていた三沢さん、入間さん、新田原さんは各々地元へ帰り、新しく、この4人が研修に来た。
「奈良育造巡査部長です」
一番年長の男で、47歳だ。にこにことしており、小柄でずんぐりとしている。愛知県警からの異動で、公安にいた。
「目黒亮介巡査部長です」
背が高くてひょろっとした体格の青年で、28歳。北海道警からの異動で、元は白バイ隊員だったが、逃走中に発砲した外国人犯罪者の弾が足に当たって転倒。数か月のリハビリを経て、陰陽課に来る事になった。のんびりとした感じの朴訥な青年で、爽やかそうな感じがする。
「十条頼子巡査部長です!」
真面目そうなのは一目でわかる感じの27歳で、埼玉県警から来た。張り切っているようだ。どこかやぼったいが、大きな眼鏡が愛嬌がある。
「松島彩花巡査です」
香川県警から異動して来た20歳だが、不機嫌そうな態度と顔付きと声音だ。1週間ほど前に言われて慌ただしく東京に来る事になったのが気に入らないのか、そもそも陰陽課というのが嫌なのか。小柄で童顔なので、高校生に見える。
「まずは、庁舎内をひと回りしてこようか。誰か――」
沢井さんが言うと、手の空いていた鍋島さんが手を上げた。
「あ、良かったら自分が行きましょうか」
「お願いします」
鍋島さんが行くというので、茜屋さんもついて行く事にして、ぞろぞろと出て行った。
「何か心配だなあ」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「来たくなかったのかねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「でも、うってつけの人材だと思うだろうしな、普通は」
沢井さんが言う。
「まあ、諦めて慣れてもらおう」
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「とにかく今は鍋島さんがいるし、まあ、大丈夫だろ。
でも、鍋島さんにあんまり負担をかけても悪いよなあ」
「実際の業務は、3係内で上手くコンビを変えるとかして回しますよ」
「頼むね、沢井君」
僕達はひそひそと言い合って、何でもないようにデスクに戻った。
その頃一行は、庁舎内を見学ツアーよろしく歩いていた。
流石に松島も不機嫌さは鳴りを潜め、全員、「広い」「全員、仕事ができそう」「食堂も大きい」などと言いながら、緊張と高揚とを感じながらもキョロキョロしていた。
歩いていると、取調室へ連行される被疑者が前から歩いて来た。若い男で、小さな声で歌を歌っている。
迷子の迷子の子ネコちゃん
あなたのお家はどこですか
その彼を見て、鍋島と茜屋、松島の眉がキュッと顰められた。
「皆、ちょっと止まってください」
鍋島が言った時、被疑者が突然爆発したように皆には感じられた。この被疑者は近所の猫を片っ端から虐待して殺した容疑で逮捕されて来たのだが、殺されたたくさんの猫が憑いており、それが一気に、ここでヒトに牙を剥いたのだ。
札でそれを囲もうとした鍋島さんに慌てふためいた十条が突っ込んで押し倒し、
「きゃああ、ごめんなさい!」
と急いで立ち上がったら、手助けしようとしていた目黒の顎に頭突きする形になって目黒を吹っ飛ばし、目黒は浄力を放とうとしていた茜屋にぶつかった。その上十条はよろめいて奈良も思い切り背中を押して突き倒し、最後に唖然としていた松島を下敷きにして転んだ。
この騒ぎに当の猫達も唖然としたのか、大人しくそれを刑事達と眺め、鍋島と茜屋がどうにか立ち上がって、封印、祓われていった。
「なんなのよ、もう!」
松島は怒りまくり、十条はひたすら、
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
と方々へ謝り、頭を下げ続けたのだった。
陰陽課の異動も同じで、異動があった。研修で来ていた三沢さん、入間さん、新田原さんは各々地元へ帰り、新しく、この4人が研修に来た。
「奈良育造巡査部長です」
一番年長の男で、47歳だ。にこにことしており、小柄でずんぐりとしている。愛知県警からの異動で、公安にいた。
「目黒亮介巡査部長です」
背が高くてひょろっとした体格の青年で、28歳。北海道警からの異動で、元は白バイ隊員だったが、逃走中に発砲した外国人犯罪者の弾が足に当たって転倒。数か月のリハビリを経て、陰陽課に来る事になった。のんびりとした感じの朴訥な青年で、爽やかそうな感じがする。
「十条頼子巡査部長です!」
真面目そうなのは一目でわかる感じの27歳で、埼玉県警から来た。張り切っているようだ。どこかやぼったいが、大きな眼鏡が愛嬌がある。
「松島彩花巡査です」
香川県警から異動して来た20歳だが、不機嫌そうな態度と顔付きと声音だ。1週間ほど前に言われて慌ただしく東京に来る事になったのが気に入らないのか、そもそも陰陽課というのが嫌なのか。小柄で童顔なので、高校生に見える。
「まずは、庁舎内をひと回りしてこようか。誰か――」
沢井さんが言うと、手の空いていた鍋島さんが手を上げた。
「あ、良かったら自分が行きましょうか」
「お願いします」
鍋島さんが行くというので、茜屋さんもついて行く事にして、ぞろぞろと出て行った。
「何か心配だなあ」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「来たくなかったのかねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「でも、うってつけの人材だと思うだろうしな、普通は」
沢井さんが言う。
「まあ、諦めて慣れてもらおう」
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「とにかく今は鍋島さんがいるし、まあ、大丈夫だろ。
でも、鍋島さんにあんまり負担をかけても悪いよなあ」
「実際の業務は、3係内で上手くコンビを変えるとかして回しますよ」
「頼むね、沢井君」
僕達はひそひそと言い合って、何でもないようにデスクに戻った。
その頃一行は、庁舎内を見学ツアーよろしく歩いていた。
流石に松島も不機嫌さは鳴りを潜め、全員、「広い」「全員、仕事ができそう」「食堂も大きい」などと言いながら、緊張と高揚とを感じながらもキョロキョロしていた。
歩いていると、取調室へ連行される被疑者が前から歩いて来た。若い男で、小さな声で歌を歌っている。
迷子の迷子の子ネコちゃん
あなたのお家はどこですか
その彼を見て、鍋島と茜屋、松島の眉がキュッと顰められた。
「皆、ちょっと止まってください」
鍋島が言った時、被疑者が突然爆発したように皆には感じられた。この被疑者は近所の猫を片っ端から虐待して殺した容疑で逮捕されて来たのだが、殺されたたくさんの猫が憑いており、それが一気に、ここでヒトに牙を剥いたのだ。
札でそれを囲もうとした鍋島さんに慌てふためいた十条が突っ込んで押し倒し、
「きゃああ、ごめんなさい!」
と急いで立ち上がったら、手助けしようとしていた目黒の顎に頭突きする形になって目黒を吹っ飛ばし、目黒は浄力を放とうとしていた茜屋にぶつかった。その上十条はよろめいて奈良も思い切り背中を押して突き倒し、最後に唖然としていた松島を下敷きにして転んだ。
この騒ぎに当の猫達も唖然としたのか、大人しくそれを刑事達と眺め、鍋島と茜屋がどうにか立ち上がって、封印、祓われていった。
「なんなのよ、もう!」
松島は怒りまくり、十条はひたすら、
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
と方々へ謝り、頭を下げ続けたのだった。
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