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人形(3)人形作家
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取り敢えず水洗いして乾かした人形を、よく見る。
「この人形、有名な人形作家のものだねえ。手作りの一点ものらしくて、子供や親の写真を元に、よく似たものを作ってくれるらしいよう?」
「そっくりに作った人形なんて、憑きそうだな」
「どう考えても、憑きますよね。死んだ親そっくりとか……」
鍋島さんも、戦慄したように身震いする。
「こ、怖いっす」
三沢さんも想像したらしく震え、
「頼む人、いるんすか?」
と付け加えた。
「予約待ちらしいよう。優維が生まれた時に千穂ちゃんが調べたら」
「災いを呼ぶ人形にしか思えないのにな……」
僕達は、人形をジトッと見た。
「まあ、そのおかげで、身元は判明しそうだがな」
「そうだねえ」
僕達は車に乗り換え、人形作家の所へ向かった。
人形作家の内海奈美さんは、ヒラメちゃんを見て驚き、僕達の話を聞いて泣き出した。
「これは、姪の為に作ったものです。内海さより。交通事故で死んでしまったあの子の、中学入学の祝いに」
さよりちゃん いないの?
ヒラメちゃんが言って、内海さんはギョッとした顔をヒラメちゃんに向けた。
「こういう人型のものには何かが宿り易いんですよ」
「さよりさんに可愛がられて、ヒラメちゃんという自我ができたんでしょうかねえ」
「なので話は変わりますが、今後は、何かが憑かないように、中に札を仕込んでいただけるとありがたいです。これは霊能師協会に相談して、札を作成してください」
内海さんは、コクコクと頷いた。そしてこれまで自分が作った人形達を思い出したのか、軽く狼狽したように視線が泳いだ。
「ええっと、それで、さよりさんのご家族は」
「さよりが亡くなった後、海外転勤になって。今、ロンドンにいます。
荷物は全部そのままで、鍵は私が預かっていて、時々掃除に行ってますよ。
おかしいと皆で言っていたんです。葬儀の後、この人形が無くなって。こっそり持って行けるような大きさではないし、かと言って、泥棒が入った様子もないし」
ヒラメちゃんは身長が140センチくらいあり、それらは考えにくい。
「さよりちゃん会いたさに、ヒラメちゃん、出て行っちゃったの?」
三沢さんが訊くと、ヒラメちゃんは言った。
そうよ どこにもいないから
きっと釣りに行ったんだと思ったの
「それで、さよりちゃんがいつもよく使ってた海宝丸に探しに行ってたのかねえ?」
そうよ
さよりちゃん どこ?
それで、内海さんは泣き出した。
ついでに三沢さんも泣き出した。おい。
「か、係長。何とかならないっすかねえ」
「成仏してたら、ヒラメちゃんも向こうに逝くしかないなあ」
すると、内海さんが言い出した。
「おかしな事があるんです」
皆、内海さんに注目する。
「さよりの部屋で、物音がするらしいんです。
後、私が掃除に行ったら、片付けてあったはずの釣り道具が出ていたり……」
「それだ!」
僕達は同時に言って、さよりちゃんの部屋へ案内してもらう事になった。
車で向かう間、名前の由来などを聞いた。
内海家は奈美さんの父親もさよりちゃんの父親も釣り好きで、波から奈美と名付けられ、さよりちゃんの父親も、勝雄というらしい。そして生まれた子供には、さよりと名付けたそうだ。
「カツオなんて、子供の頃はよくいじられたもんです。サザエさんかって。私がナミだからまだましでしたけど、フネとかサザエとかワカメだったらと……。子供心に、奈美でよかったとつくづく思ったものでしたよ」
内海さんは苦笑した。
そうして着いた家は、古い2階建ての1軒家で、2階の1室から、気配がしていた。
「この人形、有名な人形作家のものだねえ。手作りの一点ものらしくて、子供や親の写真を元に、よく似たものを作ってくれるらしいよう?」
「そっくりに作った人形なんて、憑きそうだな」
「どう考えても、憑きますよね。死んだ親そっくりとか……」
鍋島さんも、戦慄したように身震いする。
「こ、怖いっす」
三沢さんも想像したらしく震え、
「頼む人、いるんすか?」
と付け加えた。
「予約待ちらしいよう。優維が生まれた時に千穂ちゃんが調べたら」
「災いを呼ぶ人形にしか思えないのにな……」
僕達は、人形をジトッと見た。
「まあ、そのおかげで、身元は判明しそうだがな」
「そうだねえ」
僕達は車に乗り換え、人形作家の所へ向かった。
人形作家の内海奈美さんは、ヒラメちゃんを見て驚き、僕達の話を聞いて泣き出した。
「これは、姪の為に作ったものです。内海さより。交通事故で死んでしまったあの子の、中学入学の祝いに」
さよりちゃん いないの?
ヒラメちゃんが言って、内海さんはギョッとした顔をヒラメちゃんに向けた。
「こういう人型のものには何かが宿り易いんですよ」
「さよりさんに可愛がられて、ヒラメちゃんという自我ができたんでしょうかねえ」
「なので話は変わりますが、今後は、何かが憑かないように、中に札を仕込んでいただけるとありがたいです。これは霊能師協会に相談して、札を作成してください」
内海さんは、コクコクと頷いた。そしてこれまで自分が作った人形達を思い出したのか、軽く狼狽したように視線が泳いだ。
「ええっと、それで、さよりさんのご家族は」
「さよりが亡くなった後、海外転勤になって。今、ロンドンにいます。
荷物は全部そのままで、鍵は私が預かっていて、時々掃除に行ってますよ。
おかしいと皆で言っていたんです。葬儀の後、この人形が無くなって。こっそり持って行けるような大きさではないし、かと言って、泥棒が入った様子もないし」
ヒラメちゃんは身長が140センチくらいあり、それらは考えにくい。
「さよりちゃん会いたさに、ヒラメちゃん、出て行っちゃったの?」
三沢さんが訊くと、ヒラメちゃんは言った。
そうよ どこにもいないから
きっと釣りに行ったんだと思ったの
「それで、さよりちゃんがいつもよく使ってた海宝丸に探しに行ってたのかねえ?」
そうよ
さよりちゃん どこ?
それで、内海さんは泣き出した。
ついでに三沢さんも泣き出した。おい。
「か、係長。何とかならないっすかねえ」
「成仏してたら、ヒラメちゃんも向こうに逝くしかないなあ」
すると、内海さんが言い出した。
「おかしな事があるんです」
皆、内海さんに注目する。
「さよりの部屋で、物音がするらしいんです。
後、私が掃除に行ったら、片付けてあったはずの釣り道具が出ていたり……」
「それだ!」
僕達は同時に言って、さよりちゃんの部屋へ案内してもらう事になった。
車で向かう間、名前の由来などを聞いた。
内海家は奈美さんの父親もさよりちゃんの父親も釣り好きで、波から奈美と名付けられ、さよりちゃんの父親も、勝雄というらしい。そして生まれた子供には、さよりと名付けたそうだ。
「カツオなんて、子供の頃はよくいじられたもんです。サザエさんかって。私がナミだからまだましでしたけど、フネとかサザエとかワカメだったらと……。子供心に、奈美でよかったとつくづく思ったものでしたよ」
内海さんは苦笑した。
そうして着いた家は、古い2階建ての1軒家で、2階の1室から、気配がしていた。
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