824 / 1,046
人形(4)心残り
しおりを挟む
リール、ロッド、仕掛け、バッカン、クーラーボックス。そして壁にかかるのは、チヌ、真鯛、カレイ、ヒラメ、カンパチ、スズキなどの魚拓。
女の子の部屋にありがちな置物やポスターもあるにはあったが、ポスターは釣り具メーカーのリールやロッドのポスターで、置物はオニガシラのはく製とハリセンボンのモビール。
「釣りが好きなのは一目瞭然だな」
「だねえ」
感心して言うと、霊の女の子が嬉しそうに笑った。
いいでしょ
すると、ヒラメちゃんが飛びついて行った。
さよりちゃん!
「え?何?」
内海さんと三沢さんがキョロキョロするので、さよりちゃんとヒラメちゃんに札を貼った。
「まあ!さよりちゃん!?やっぱりいたの!?」
声を上げる内海さんに、さよりちゃんがテヘと笑った。
「だって、調子の悪かったリール、修理してどうなったか気になったんだもの」
「……」
「それに、この仕掛けもどんなものか気になって気になって」
直がヘラッと笑い、鍋島さんが頷いて、
「わかる。わかります」
と同意する。
「だからって、そんな理由で、成仏しなかったの?はああ……」
内海さんは、溜め息をついて下を向いた。
「さよりちゃん!会いたかった!」
「ヒラメちゃん?え。喋れるの?」
「そう!さよりちゃんを探しに、海にも行ったわ!」
「そう言えば、何か磯の匂いがするわね」
さよりちゃんとヒラメちゃんは、仲良く抱き合っている。
「ええっと。僕は陰陽課の御崎と申します」
「あ。同じく町田ですぅ」
「同じく鍋島です」
「同じく三沢でっす」
そして、これまでのいきさつを説明した。
さよりちゃんは、はああ、と感心したような声を上げた。
「ヒラメちゃん、私を探しにそんな事まで」
「会いたかったの。ここにいれば会えたと知らなかったから」
「ごめんね。しばらくはよくわからなくて、釣具店をフラフラしてたの。心細い時は釣具店でしょ」
そうなのか?
「では、そろそろ、向こうに逝きましょうか」
さよりちゃんは、僕達を見て笑った。
「嫌」
「え」
「楽しみに準備してたタイラバ、このままでは気が済まないわ!」
僕達は、互いに視線を交わし合った。
「と、言うと、どうしたいのかねえ?」
「準備したこれで、釣果を上げてちょうだい」
自作のスカートが並んでいる。
「じゃなきゃ、心残りで成仏できないわ!」
内海さんが、がばっと頭を下げた。
「お願いします!」
僕達は、再び港へ向かう事になった。
さよりちゃん指定の道具類を持ち、船代を払い、船に乗る。
船頭さんは、僕達がそこまでタイラバにはまったのかと思ったようだが、内海さんに訳を訊いて、胸を叩いた。
「一番のポイントに連れて行ってやる!任せとけ!」
そうして僕達は、再び釣りをする事になった。船頭さんとさよりちゃんという、うるさいくらいのアドバイザー付きで。
数時間後、クーラーに入らないほどの量と様々な魚種を釣り上げ、さよりちゃんとヒラメちゃんは満足気に向こうへ逝った。
そして船頭さんは海宝丸のアイドルだったさよりちゃんを送って、
「俺も頑張らねえとな」
と笑い、内海さんは、ただの人形になったヒラメちゃんを抱きながら、
「この事を兄さん達に話すのが楽しみだわ」
と笑った。
そして僕達は、大漁の魚を土産に、帰った。
陰陽課の皆へのお土産を分け、残りを4人で分ける。そして僕と直は、うちで宴会となった。兄達や徳川さん、京香さん達や神様達を呼んでの大漁祭りだ。
照姉達は、ようやく初詣が落ち着いたと言っていた。それを聞いた敬、凜、累、康介は、肩叩きをして喜ばれていたが、こうして見ると、神様達も、親類のおじさんおばさんにしか見えない。
「いやあ、疲れも吹き飛ぶというものだなあ」
「全く、全く」
「やれ金が欲しいだ、それと恋人が欲しいの、その恋人はイケメンやら美女がいいだの、もう、お願いしたい放題だからのう」
「初詣は、お願いをここぞとばかりにする日ではないというのに」
ぶつぶつ言いながら、子供達を抱いたり膝に乗せて食べさせたりして、どんどん機嫌がよくなっていく。
「神様も、苦労とかあるんだねえ」
「うん。遊びに来てくれた時くらいは、好きにさせてあげような」
僕と直はこっそりと言い合って、追加の料理やアルコールを持って行った。
「しかし、釣りが好きすぎて成仏できなかった、か。大したもんだな、それはそれで」
兄が感心したように言った。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「それに、そのおかげでこうして海の幸を堪能できたしね」
徳川さんが笑う。
「僕達も、前からやりたいって思ってた海釣りができて、楽しかった事は楽しかったよな」
「うん。まあ、人形がざばあっと海から船べりに現れた時は、ちょっと怖かったけどねえ」
直は苦笑した。
「それでも、面倒臭いのはごめんだ」
僕と直は、まだ揺れているかのような感覚に辟易しながら、そう言った。
女の子の部屋にありがちな置物やポスターもあるにはあったが、ポスターは釣り具メーカーのリールやロッドのポスターで、置物はオニガシラのはく製とハリセンボンのモビール。
「釣りが好きなのは一目瞭然だな」
「だねえ」
感心して言うと、霊の女の子が嬉しそうに笑った。
いいでしょ
すると、ヒラメちゃんが飛びついて行った。
さよりちゃん!
「え?何?」
内海さんと三沢さんがキョロキョロするので、さよりちゃんとヒラメちゃんに札を貼った。
「まあ!さよりちゃん!?やっぱりいたの!?」
声を上げる内海さんに、さよりちゃんがテヘと笑った。
「だって、調子の悪かったリール、修理してどうなったか気になったんだもの」
「……」
「それに、この仕掛けもどんなものか気になって気になって」
直がヘラッと笑い、鍋島さんが頷いて、
「わかる。わかります」
と同意する。
「だからって、そんな理由で、成仏しなかったの?はああ……」
内海さんは、溜め息をついて下を向いた。
「さよりちゃん!会いたかった!」
「ヒラメちゃん?え。喋れるの?」
「そう!さよりちゃんを探しに、海にも行ったわ!」
「そう言えば、何か磯の匂いがするわね」
さよりちゃんとヒラメちゃんは、仲良く抱き合っている。
「ええっと。僕は陰陽課の御崎と申します」
「あ。同じく町田ですぅ」
「同じく鍋島です」
「同じく三沢でっす」
そして、これまでのいきさつを説明した。
さよりちゃんは、はああ、と感心したような声を上げた。
「ヒラメちゃん、私を探しにそんな事まで」
「会いたかったの。ここにいれば会えたと知らなかったから」
「ごめんね。しばらくはよくわからなくて、釣具店をフラフラしてたの。心細い時は釣具店でしょ」
そうなのか?
「では、そろそろ、向こうに逝きましょうか」
さよりちゃんは、僕達を見て笑った。
「嫌」
「え」
「楽しみに準備してたタイラバ、このままでは気が済まないわ!」
僕達は、互いに視線を交わし合った。
「と、言うと、どうしたいのかねえ?」
「準備したこれで、釣果を上げてちょうだい」
自作のスカートが並んでいる。
「じゃなきゃ、心残りで成仏できないわ!」
内海さんが、がばっと頭を下げた。
「お願いします!」
僕達は、再び港へ向かう事になった。
さよりちゃん指定の道具類を持ち、船代を払い、船に乗る。
船頭さんは、僕達がそこまでタイラバにはまったのかと思ったようだが、内海さんに訳を訊いて、胸を叩いた。
「一番のポイントに連れて行ってやる!任せとけ!」
そうして僕達は、再び釣りをする事になった。船頭さんとさよりちゃんという、うるさいくらいのアドバイザー付きで。
数時間後、クーラーに入らないほどの量と様々な魚種を釣り上げ、さよりちゃんとヒラメちゃんは満足気に向こうへ逝った。
そして船頭さんは海宝丸のアイドルだったさよりちゃんを送って、
「俺も頑張らねえとな」
と笑い、内海さんは、ただの人形になったヒラメちゃんを抱きながら、
「この事を兄さん達に話すのが楽しみだわ」
と笑った。
そして僕達は、大漁の魚を土産に、帰った。
陰陽課の皆へのお土産を分け、残りを4人で分ける。そして僕と直は、うちで宴会となった。兄達や徳川さん、京香さん達や神様達を呼んでの大漁祭りだ。
照姉達は、ようやく初詣が落ち着いたと言っていた。それを聞いた敬、凜、累、康介は、肩叩きをして喜ばれていたが、こうして見ると、神様達も、親類のおじさんおばさんにしか見えない。
「いやあ、疲れも吹き飛ぶというものだなあ」
「全く、全く」
「やれ金が欲しいだ、それと恋人が欲しいの、その恋人はイケメンやら美女がいいだの、もう、お願いしたい放題だからのう」
「初詣は、お願いをここぞとばかりにする日ではないというのに」
ぶつぶつ言いながら、子供達を抱いたり膝に乗せて食べさせたりして、どんどん機嫌がよくなっていく。
「神様も、苦労とかあるんだねえ」
「うん。遊びに来てくれた時くらいは、好きにさせてあげような」
僕と直はこっそりと言い合って、追加の料理やアルコールを持って行った。
「しかし、釣りが好きすぎて成仏できなかった、か。大したもんだな、それはそれで」
兄が感心したように言った。
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
「それに、そのおかげでこうして海の幸を堪能できたしね」
徳川さんが笑う。
「僕達も、前からやりたいって思ってた海釣りができて、楽しかった事は楽しかったよな」
「うん。まあ、人形がざばあっと海から船べりに現れた時は、ちょっと怖かったけどねえ」
直は苦笑した。
「それでも、面倒臭いのはごめんだ」
僕と直は、まだ揺れているかのような感覚に辟易しながら、そう言った。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐
当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。
でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。
その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。
ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。
馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。
途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした
仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」
夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。
結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。
それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。
結婚式は、お互いの親戚のみ。
なぜならお互い再婚だから。
そして、結婚式が終わり、新居へ……?
一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる