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食欲(1)急病人
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電車の中吊り広告が揺れるのを、何となく読む。『夏までに間に合う!』『らくやせ!ほっそり美脚を手に入れる』『海辺の視線を独り占め!』。
「毎年必ずあの見出しを見るような気がするな」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「必ず売れるんだって、知り合いの編集者に聞いたねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「だけど、あっちも売れるらしいねえ」
反対側を直が指差すのでそちらを見ると、そちらの中吊り広告には、『この夏絶対行きたいバイキング保存版』『必ず流行る!美味しい物見付け隊!!』という文字が躍る。
「あれも無くならないよなあ」
「矛盾だよねえ」
僕と直は、向かい合って揺れる広告を眺めた。
6月になり、もう暑い日が多くなってきた。学校ではプール開きがあったそうだし、そろそろ水着に備えてスタイルを気にし出す頃なのだろう。
「ダイエットしてたらビアガーデンとかは無理そうだな」
「あてがずうっと枝豆と冷ややっこのみとかじゃあ、つまんないよねえ」
「唐揚げ、フィッシュフライ、豚の角煮」
「餃子、パスタ、揚げ出し豆腐」
「そうめんチャンプルー、生春巻き、生ハム」
「ピザ、チキン南蛮、ガーリックシュリンプ」
僕と直は、食べたい料理をあげて行った。
と、隣に立っていた女性が、フラッと貧血を起こしたように倒れかかった。
「わっ」
隣にいた直が、とっさに支える。
「大丈夫ですか」
女性は喋れない様子だったので、取り敢えず着いた駅で支えながらおろし、ベンチに座らせた。
やけに骨ばっている気がするし、顔色が悪く、体温が低いようだ。それに、体が細かく震えている。
「どうしましたか」
駅員が近寄って来たので、
「電車内で急に倒れられました。救急車をお願いします」
と頼み、彼女をベンチに寝かせる。
呂律が回らないようだが、何か、あらぬ所を睨みつけるようにしながら言っている。
「何ですか?」
聴き取ろうとするが、よくわからない。
そのうちに救急車が到着し、彼女は担架に乗せられた。そして僕と直も、事情を訊きたいと言われ、彼女が気になる事もあって、同乗して行く事になった。
「怜、あれ、何かねえ」
直が小声で言う。
「生霊ではないよな。何だろう」
僕も、小声で返す。
彼女から何かがふわりと離れ、飛んで行くのを感じた。
「嫌な予感がするねえ」
「ああ。面倒臭い事になりそうだ」
僕と直は小さく溜め息をついた。
「毎年必ずあの見出しを見るような気がするな」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「必ず売れるんだって、知り合いの編集者に聞いたねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「だけど、あっちも売れるらしいねえ」
反対側を直が指差すのでそちらを見ると、そちらの中吊り広告には、『この夏絶対行きたいバイキング保存版』『必ず流行る!美味しい物見付け隊!!』という文字が躍る。
「あれも無くならないよなあ」
「矛盾だよねえ」
僕と直は、向かい合って揺れる広告を眺めた。
6月になり、もう暑い日が多くなってきた。学校ではプール開きがあったそうだし、そろそろ水着に備えてスタイルを気にし出す頃なのだろう。
「ダイエットしてたらビアガーデンとかは無理そうだな」
「あてがずうっと枝豆と冷ややっこのみとかじゃあ、つまんないよねえ」
「唐揚げ、フィッシュフライ、豚の角煮」
「餃子、パスタ、揚げ出し豆腐」
「そうめんチャンプルー、生春巻き、生ハム」
「ピザ、チキン南蛮、ガーリックシュリンプ」
僕と直は、食べたい料理をあげて行った。
と、隣に立っていた女性が、フラッと貧血を起こしたように倒れかかった。
「わっ」
隣にいた直が、とっさに支える。
「大丈夫ですか」
女性は喋れない様子だったので、取り敢えず着いた駅で支えながらおろし、ベンチに座らせた。
やけに骨ばっている気がするし、顔色が悪く、体温が低いようだ。それに、体が細かく震えている。
「どうしましたか」
駅員が近寄って来たので、
「電車内で急に倒れられました。救急車をお願いします」
と頼み、彼女をベンチに寝かせる。
呂律が回らないようだが、何か、あらぬ所を睨みつけるようにしながら言っている。
「何ですか?」
聴き取ろうとするが、よくわからない。
そのうちに救急車が到着し、彼女は担架に乗せられた。そして僕と直も、事情を訊きたいと言われ、彼女が気になる事もあって、同乗して行く事になった。
「怜、あれ、何かねえ」
直が小声で言う。
「生霊ではないよな。何だろう」
僕も、小声で返す。
彼女から何かがふわりと離れ、飛んで行くのを感じた。
「嫌な予感がするねえ」
「ああ。面倒臭い事になりそうだ」
僕と直は小さく溜め息をついた。
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