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みみ(1)聞こえるんだろ
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その日、僕と直は国交省からの依頼で郊外に仕事があって、帰りは午後9時になっていた。
「何か今日は、ひたすら歩いて、体力を使った日だったなあ」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「明日は筋肉痛かもねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
言い合いながら、車を走らせる。
と、一台の車とすれ違った。白のセダンのレンタカーで、中には4人。そしてそれ以外に、たくさんの霊体が憑いていた。
「直、今のは祓わないとまずいぞ」
「すぐに追いかけ――困ったねえ」
山道なので、Uターンできるほどの道幅がない。
「どこかこの先のUターンできるところまで急ごう」
「仕方ないねえ」
僕達は、都合のいい場所を探しながら、車を進めた。
香芝達は、ドライブに行った帰りだった。
運転するのは五條、助手席に香芝、後部座席に新宮と三輪。この4人はこの春大学を卒業した高校時代の友人達で、春休みに家に戻って久しぶりに顔を合わせたのだが、何の話からか地元の耳塚に行った事がないという事から、ドライブに行く事になったのだ。
「心霊スポットと言われる割に何も無かったなあ」
新宮が言うと、三輪も、
「記念写真に何か写ってたら記念になったのに」
と言う。
「怖いよ、そんなのが写ったら」
香芝が言うと、皆、
「香芝は昔からこの手の話に弱かったからなあ」
と笑う。
香芝は曖昧に笑いながら、心の中で反論した。
皆は聞こえないからいいよ。今日だって、「耳をよこせ」「何しに来た」って声がずっとしてたのに。聞こえるだけでどうしようもないのは、本当に怖いんだからな、と。
香芝はいつの頃からか、そういう声が聞こえるようになっていた。
だからと言ってどうもできず、聞こえる事を悟られると霊が憑いて来ることもある。祖母が生きている間はそういう時に助けてくれていたが、その祖母が亡くなり、助けてくれる人がいなくなると、香芝は何が何でも聞こえるのを隠すようになった。
「ん?CDの音量がおかしいな」
ポップスのCDをかけていたが、急に音量が下がり、雑音が混じるようになった。
香芝には、雑音ではなく、声が聞こえるのだが。
耳 耳 耳 耳
「CD変えようぜ」
「ああ、うん」
香芝は空のCDケースを開き、カーステレオからCDを取り出すべく、指を伸ばした。
そこに、不意に耳元で声がした。
耳をよこせ
気を付けていたのに、驚いて、
「ヒッ!?」
と声を上げて、体を硬直させてしまった。
しまった、と思ったが、もう遅い。
「何だあ?」
「いや、その」
聞こえるのか
「しゃ、しゃっくり!しゃっくりがさ、ヒック」
それで、友人達は納得したらしい。
「変なタイミングで出る時あるだろ」
「面接で出たよ、俺」
「マジ?」
「焦ると余計に止まらなくなるし、どうしようかと」
「どうしたんだ?」
「どうしようもなかったよ」
「で、どうなったんだ?」
「落ちたよ、その会社。しゃっくりのせいかどうかはわからないけどな」
皆で大笑いする。
香芝だけは合わせて笑いながらも、
聞こえているんだろう
なあ
という声に、背中を伝う冷や汗を禁じ得ないでいた。
「何か今日は、ひたすら歩いて、体力を使った日だったなあ」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「明日は筋肉痛かもねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
言い合いながら、車を走らせる。
と、一台の車とすれ違った。白のセダンのレンタカーで、中には4人。そしてそれ以外に、たくさんの霊体が憑いていた。
「直、今のは祓わないとまずいぞ」
「すぐに追いかけ――困ったねえ」
山道なので、Uターンできるほどの道幅がない。
「どこかこの先のUターンできるところまで急ごう」
「仕方ないねえ」
僕達は、都合のいい場所を探しながら、車を進めた。
香芝達は、ドライブに行った帰りだった。
運転するのは五條、助手席に香芝、後部座席に新宮と三輪。この4人はこの春大学を卒業した高校時代の友人達で、春休みに家に戻って久しぶりに顔を合わせたのだが、何の話からか地元の耳塚に行った事がないという事から、ドライブに行く事になったのだ。
「心霊スポットと言われる割に何も無かったなあ」
新宮が言うと、三輪も、
「記念写真に何か写ってたら記念になったのに」
と言う。
「怖いよ、そんなのが写ったら」
香芝が言うと、皆、
「香芝は昔からこの手の話に弱かったからなあ」
と笑う。
香芝は曖昧に笑いながら、心の中で反論した。
皆は聞こえないからいいよ。今日だって、「耳をよこせ」「何しに来た」って声がずっとしてたのに。聞こえるだけでどうしようもないのは、本当に怖いんだからな、と。
香芝はいつの頃からか、そういう声が聞こえるようになっていた。
だからと言ってどうもできず、聞こえる事を悟られると霊が憑いて来ることもある。祖母が生きている間はそういう時に助けてくれていたが、その祖母が亡くなり、助けてくれる人がいなくなると、香芝は何が何でも聞こえるのを隠すようになった。
「ん?CDの音量がおかしいな」
ポップスのCDをかけていたが、急に音量が下がり、雑音が混じるようになった。
香芝には、雑音ではなく、声が聞こえるのだが。
耳 耳 耳 耳
「CD変えようぜ」
「ああ、うん」
香芝は空のCDケースを開き、カーステレオからCDを取り出すべく、指を伸ばした。
そこに、不意に耳元で声がした。
耳をよこせ
気を付けていたのに、驚いて、
「ヒッ!?」
と声を上げて、体を硬直させてしまった。
しまった、と思ったが、もう遅い。
「何だあ?」
「いや、その」
聞こえるのか
「しゃ、しゃっくり!しゃっくりがさ、ヒック」
それで、友人達は納得したらしい。
「変なタイミングで出る時あるだろ」
「面接で出たよ、俺」
「マジ?」
「焦ると余計に止まらなくなるし、どうしようかと」
「どうしたんだ?」
「どうしようもなかったよ」
「で、どうなったんだ?」
「落ちたよ、その会社。しゃっくりのせいかどうかはわからないけどな」
皆で大笑いする。
香芝だけは合わせて笑いながらも、
聞こえているんだろう
なあ
という声に、背中を伝う冷や汗を禁じ得ないでいた。
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