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小さい人(3)小人の恩返し
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神威を込めた豆を升に移し、巻き寿司は切り、丸かぶりの分はそのまま並べる。イワシは脂が乗っていて、塩焼きが何とも美味しそうだ。
兄の所、直の所、京香さんの所、徳川さんもうちにいる。イワシは炭火焼きが美味しいと誰かが言い出し、いい焼酎と日本酒があると言い出し、気付くとこうなった。
豆をまくのは、康介、敬、優維ちゃんだ。
と、まく前に、それが見えた。小動物を何度か食べたくらいの2匹の小鬼が隣のテラスの端にいた。何かを狙っている。
「え」
小人だ。20センチくらいの小さい人が、蛇に睨まれたカエルの如く、小鬼に狙われて固まっていた。
僕は、升に移した豆を1粒取って、軽く投げつけた。
「ブギャッ!?」
小鬼の頭に豆は命中し、小鬼はテラスの外に吹き飛んで行きながら消えた。もう1匹は、何が起こったのかというように硬直し、小人はその隙に逃げる。そして獲物に逃げられたことに気付いた小鬼は、ギギギと音がしそうな感じでこちらを向いた。
「準備できたぞ。さあ、まくか」
兄が言いながら、豆をまく役の康介、敬、優維ちゃんを促す。
「あ。まずい」
小鬼は、1番近くにいる兄に狙いを定めたらしい。
僕はもう1粒豆を掴むと、更に神威を込め、思い切り小鬼に投げつけた。メジャーリーガーの気分だ。
豆は小鬼の頭を粉砕する勢いでぶち当たり、小鬼はテラスの外に吹き飛ばされるまでもなく、爆散した。
「うわあ」
「容赦ないわねえ」
見えていた直と京香さんが小鬼の飛んで行った方向を見ながら呟く。
「当然。兄ちゃんにあだなそうなんてやつに、容赦する理由はない」
子供達は何が起きたのか気付いていないようで、きゃっきゃと升を抱えて今か今かとスタンバイしている。察した徳川さんが、声を殺して笑っていた。
子供達の豆まきが済み、丸かじりの儀式が済み、食事になる。
と、凜が、拾い損ねていた豆をテーブルの下に見付けて拾った。
そして、部屋の隅に這って行く。
「はいはいできるようになったのか?昨日は失敗したのに」
言いながら何だろうかと覗き込むと、さっきの小人が恐る恐る空箱の向こうから顔を覗かせており、頭を下げて来た。
「義理堅いなあ」
そして凜は、摘まんだ豆を、小人に差し出した。
「ん」
小人は豆を凝視し、それから豆を受け取って両手で抱えると、笑顔でぺこりと頭を下げて走って行った。
「小人かねえ?時々目撃談は聞くけど、見るのは初めてだねえ」
皆、はいはいを見に来て、それを見ていた。
「僕もだな。本当にいたんだな」
凜は気が済んだのか、累と一緒に、何か話しているようだ。
「小人?妖精?」
敬がワクワクとして言うのに、康介が答える。
「小人かな。妖精は羽が生えてるみたいだぞ、本に書いてあった絵では」
「かわいい」
優維ちゃんは言って、まだいないかと探し出す。
「鬼から助けてもらったお礼を言いに来たのね。もう、どこかに行っちゃった」
京香さんが言って、
「さあ、食べましょう。で、飲みましょう!」
と、皆をテーブルに戻す。
しかし、小人は義理堅いようだとわかったのは、その少し後になる。
皆が帰り、僕と美里は洗い物をしていた。凜は大人しく、リビングで寝転がっている。
「美味しかったし、楽しかったわね。凜もはいはいできるようになったし」
「凜のを見て、累もし出すところが、息が合ってるよなあ」
言いながら、これで終わり、と手を拭く。
と、血相を変えた小人が僕の足元に飛んで来て、ズボンの裾を引く。
「え?何?」
踏みつぶさないように気を付けてそちらに足をふみだすと、それが目に入った。
「うわっ!?」
凜がソファによじ登ったらしい。そして、頭から落ちそうになっているのを、小人達が10人ほどで、服を掴んでふんばっていた。
「うわわわわっ」
急いで凜を抱き上げると、凜はけろりとしていた。
「何?どうしたの?」
「ソファによじ登って、頭から落ちかけてた。それを、彼らが助けてくれてたんだ。
ありがとう」
「まあ!それはありがとう」
揃って頭を下げると、彼らは手を振って、どこかにちょこまかと消えて行った。
「座敷童?」
「いや、あれは子供の姿らしいから、別物じゃないのか?」
しばらく頭をひねったが、
「それより、明日の休みはホームセンターに行こう。凜がベランダとかに出て行かないようにしないと」
「そうね。冴子姉も言ってたわ。はいはいしだしたら要注意だって」
と、休日の予定が急遽決まったのだった。
兄の所、直の所、京香さんの所、徳川さんもうちにいる。イワシは炭火焼きが美味しいと誰かが言い出し、いい焼酎と日本酒があると言い出し、気付くとこうなった。
豆をまくのは、康介、敬、優維ちゃんだ。
と、まく前に、それが見えた。小動物を何度か食べたくらいの2匹の小鬼が隣のテラスの端にいた。何かを狙っている。
「え」
小人だ。20センチくらいの小さい人が、蛇に睨まれたカエルの如く、小鬼に狙われて固まっていた。
僕は、升に移した豆を1粒取って、軽く投げつけた。
「ブギャッ!?」
小鬼の頭に豆は命中し、小鬼はテラスの外に吹き飛んで行きながら消えた。もう1匹は、何が起こったのかというように硬直し、小人はその隙に逃げる。そして獲物に逃げられたことに気付いた小鬼は、ギギギと音がしそうな感じでこちらを向いた。
「準備できたぞ。さあ、まくか」
兄が言いながら、豆をまく役の康介、敬、優維ちゃんを促す。
「あ。まずい」
小鬼は、1番近くにいる兄に狙いを定めたらしい。
僕はもう1粒豆を掴むと、更に神威を込め、思い切り小鬼に投げつけた。メジャーリーガーの気分だ。
豆は小鬼の頭を粉砕する勢いでぶち当たり、小鬼はテラスの外に吹き飛ばされるまでもなく、爆散した。
「うわあ」
「容赦ないわねえ」
見えていた直と京香さんが小鬼の飛んで行った方向を見ながら呟く。
「当然。兄ちゃんにあだなそうなんてやつに、容赦する理由はない」
子供達は何が起きたのか気付いていないようで、きゃっきゃと升を抱えて今か今かとスタンバイしている。察した徳川さんが、声を殺して笑っていた。
子供達の豆まきが済み、丸かじりの儀式が済み、食事になる。
と、凜が、拾い損ねていた豆をテーブルの下に見付けて拾った。
そして、部屋の隅に這って行く。
「はいはいできるようになったのか?昨日は失敗したのに」
言いながら何だろうかと覗き込むと、さっきの小人が恐る恐る空箱の向こうから顔を覗かせており、頭を下げて来た。
「義理堅いなあ」
そして凜は、摘まんだ豆を、小人に差し出した。
「ん」
小人は豆を凝視し、それから豆を受け取って両手で抱えると、笑顔でぺこりと頭を下げて走って行った。
「小人かねえ?時々目撃談は聞くけど、見るのは初めてだねえ」
皆、はいはいを見に来て、それを見ていた。
「僕もだな。本当にいたんだな」
凜は気が済んだのか、累と一緒に、何か話しているようだ。
「小人?妖精?」
敬がワクワクとして言うのに、康介が答える。
「小人かな。妖精は羽が生えてるみたいだぞ、本に書いてあった絵では」
「かわいい」
優維ちゃんは言って、まだいないかと探し出す。
「鬼から助けてもらったお礼を言いに来たのね。もう、どこかに行っちゃった」
京香さんが言って、
「さあ、食べましょう。で、飲みましょう!」
と、皆をテーブルに戻す。
しかし、小人は義理堅いようだとわかったのは、その少し後になる。
皆が帰り、僕と美里は洗い物をしていた。凜は大人しく、リビングで寝転がっている。
「美味しかったし、楽しかったわね。凜もはいはいできるようになったし」
「凜のを見て、累もし出すところが、息が合ってるよなあ」
言いながら、これで終わり、と手を拭く。
と、血相を変えた小人が僕の足元に飛んで来て、ズボンの裾を引く。
「え?何?」
踏みつぶさないように気を付けてそちらに足をふみだすと、それが目に入った。
「うわっ!?」
凜がソファによじ登ったらしい。そして、頭から落ちそうになっているのを、小人達が10人ほどで、服を掴んでふんばっていた。
「うわわわわっ」
急いで凜を抱き上げると、凜はけろりとしていた。
「何?どうしたの?」
「ソファによじ登って、頭から落ちかけてた。それを、彼らが助けてくれてたんだ。
ありがとう」
「まあ!それはありがとう」
揃って頭を下げると、彼らは手を振って、どこかにちょこまかと消えて行った。
「座敷童?」
「いや、あれは子供の姿らしいから、別物じゃないのか?」
しばらく頭をひねったが、
「それより、明日の休みはホームセンターに行こう。凜がベランダとかに出て行かないようにしないと」
「そうね。冴子姉も言ってたわ。はいはいしだしたら要注意だって」
と、休日の予定が急遽決まったのだった。
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