体質が変わったので

福娘（4）大阪締め

　巫女姿の女の霊。
　
　　　　　呪いましょ　パンパン
　　　　　もひとつせ　パンパン
　　　　　呪うて三度　パパンパン
　　　　　ホーホホホ！
　　　　　恨みましょ

　女は狂ったように嗤い、神楽鈴を振る。
「うわああ！」
　男がのけ反り、血を流している腕が、切断されている事がブラブラする袖からわかった。
「動くな！出血する！
　止血と、救急車を」
「は、はい！」
　捜査員達が我に返って動き出し、僕と直は、巫女に向き直った。
「あなたがした事ですか」

　　　　　怯えと疑念を深くして
　　　　　恨みを強くしただけ

「どうしてこんな」

　　　　　私をひき逃げしたからよ

　全員、ギョッとなる。

　　　　　福娘にもなって　楽しみにしてたのに
　　　　　飲酒運転でひいて　逃げた

　大けがの男女が、凍り付いている。玄関から来た東内さんも、松葉杖を取り落としてずるずると座り込んだ。
「ああ。元日未明にみつかった、あのひき逃げの」
　捜査員は思い出したようで、男女に鋭い目を向ける。
　そう言えばこの巫女姿の霊は、ニュースで見た『女子大生がひき逃げされたという事件』の被害者だ。
　男はふるえながら、
「すみません、すみません、すみません」
と繰り返し、女はそんな男を指さして、
「私じゃない、運転してたのは伴紀よ、私じゃない」
と繰り返し、東内は
「だって２人とも大丈夫って。俺は後ろに乗ってただけだし」
と言い訳する。
「飲酒を知っていて運転させるのは、運転するのと同罪です。おまけに逃げるとは、弁解の余地は３人共ありません」
　言うと、３人は啜り泣き始めた。
「改めて事情をきかないとねえ」
「それはそれとして、あなたも、やり過ぎですよ。私的な報復は許されていません」

　　　　　ユルセナイ
　　　　　シヌヨリツライメニ
　　　　　アワセテヤリタイ

　ああ。だから、殺すんじゃなく、大けがなのか。

　　　　　ショウライノユメヲ
　　　　　タタレテ
　　　　　クヤシガレ
　　　　　ノロイマショ　ウラミマショ

「あなたも、恨んだままではダメですよ。逝きましょうか」
　僕は狂ったように舞う巫女姿の霊に浄力を放ち、彼女は、笑い声を残しながら消えて行った。

　年末年始を騒いで過ごした彼らは、飲酒運転の末に彼女をひいてしまい、そのまま逃げた。そのせいで死んだ彼女は、大学生活も半ばのまま、せっかく福娘になったのに本番に出られないまま。
　それで、東内に怪我を負わせたらしい。そして東内に反田を強請らせ、反田と柳井に疑念を募らせて殺すように仕向けた。しかしそれは失敗したので、東内の怒りを煽って反撃させ、反田と柳井に怪我を負わせた。
　東内はスポーツのできない体になり、反田はピアノの弾けない体になり、柳井は火傷が酷すぎて痕が残り、モデルなんてとてもできない体になった。
　まあ、それもこれも、飲酒運転の末のひき逃げという罪を、償ってからの話ではある。
「何もできなかったなあ」
　僕は、自業自得とは言え、忸怩たる思いがあった。
「しかたないよ。全ては救えないよう」
　直は控えめにそう言った。
「まあな。
　まあ、しかたないか。お土産買って、帰ろう」
「あ。それやったらえべっさんに寄って行きはったらどうですか？今日は宵えびすやし」
　どこか盛り上がらない打ち上げだったが、捜査員が、明るい声を出した。
「そうですわ。笹はかさばるけど、福飴とか福餅やったら大丈夫でっせ」
「餅の中にお守りが入っとったら当たりですわ」
「そうだな。折角だし、そうしようか」
「ほな、今宮戎が近いし、行きまひょか、皆で」
　僕達は連れ立って、神社に行く事になった。
「厄落として、福を引きまひょ」
「楽しみだねえ、お祭り！」
「さあ、行きまっせ、行きまっせ！」
　僕達は、神社に繰り出したのだった。

　　　　　うーちましょ　パンパン
　　　　　もひとつせ　パンパン
　　　　　祝うて三度　パパンパン

　明るくも力強い声と手拍子が、響く。
　福よ、来い！