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福娘(3)恨みましょ
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一時帰宅した東内のマンションに、3人はいた。
万が一誰かに見られたり聞かれたりしたら困るからと言って、反田と柳井は東内を説き伏せたのだ。
「すまんな」
「いや。それより、口はつぐんでくれるんだろうな」
「東内、あんたも共犯なんだからね」
「わかってるよ。絶対に言わない。
これで、また走れるようになったら……!」
東内は言って、札束を奥の部屋に持って行こうと立ち上がった。
「ドア、開けにくいだろ」
「松葉杖ついてるんだから、物を持てないでしょ、そもそも」
反田と柳井が立ち上がって、柳井が札束の入った封筒を持ち、反田が先に立ってドアを開ける。
「どこにしまうんだ?」
「すまんなあ。奥の寝室の、チェストの中だ」
ゾロゾロと向かいながら、そっと反田と柳井が目配せをした。
「それはそうと、巫女の幽霊が出たんだって?」
「そうなんだよ。何だろうな、あれ」
「どこかの神社の巫女を、遊んで捨てたんじゃないの?」
「知らないって、巫女なんか」
言いながら、奥の部屋に入る。
と、反田は突き当りのベランダの窓を開けた。
「いい天気だなあ。でも、裏は何にもないんだな」
「ああ。高速道路と新幹線の線路のある山があるだけだからな」
「誰にも見られる心配はないって事だな」
「え?」
反田は東内を抱え込むようにして、ベランダの方へ引きずって行く。
「何!?おい、やめろよ!」
「ケガに絶望して、東内は自殺するのよ!」
「ええ!?お前ら、俺を殺す気で来たのか!?」
もつれ合いながら、ずるずるとベランダへ近付いて行く。が、渾身の力で両手を振りほどき、振り回す。
それで弾き飛ばされた反田は、重厚な棚にぶつかり、転んだ。その上に、優勝の盾やメダルの飾られた棚が倒れて行く。
「ギャアアアア!!」
凄まじい音と地響きの後、床の上には、腕が切断されてのたうち回る反田がいた。
「キャアアアア!!」
柳井が叫んで、ヨタヨタと後ずさる。そして、目をギラギラさせる東内を見て、ハッとした。
「違う、私は止め――」
「真珠、お前ェ……!」
反田が、俺のせいにする気かという恨みがましい目を向けて来る。
「私、は、違……運転してたの、私じゃないし」
言って、後ずさる。
松葉杖をついて、鬼のような形相の東内も、その分近付いて行く。
「い、嫌、やめて、助けて」
「お前ら、俺を殺そうとしたくせに、よく言えるな」
「だって、だって!」
言って、そのまま後ずさり、気付けばキッチンに追い込まれていた。
流し台まで追い詰められる。
そして、後ろ手にした手が何かのスイッチに触れた。
カチッ。ボオオ。
「え?きゃああああ!熱い!?何!!」
ガスの点火スイッチを押したようで、ガスの炎が袖から肩へと一瞬で這い上がり、髪の毛に広がる。
火だるまになって、熱さにのたうち回る。
流石に東内も気圧されたようになって、呆然とそれを見つめていた。
「あああああ!!」
柳井は倒れ込み、それで慌ててホース式の蛇口を伸ばし、東内は水をかけた。
焼けて溶けたセーター、縮れた髪、赤いような黒いような肌。
ヨロヨロとキッチンにやって来た反田が、それを見て、へたり込んだ。
その時、玄関チャイムが立て続けに鳴らされた。
僕と直は、捜査員と一緒に病院へ行ったが、一足違いで東内さんは家に戻ったと聞き、自宅マンションへ向かった。
と、悪意を孕んだ気配が生じた。
「これ、やばいかも」
玄関でドアチャイムを鳴らすが応答はない。しかし、ちょうど住人がでてきたので、開いた自動ドアを通って東内さんの部屋を目指す。
ドアはカギがかかっていたが、ドアチャイムを連打していると、松葉杖の青年がカギを開けた。
「東内さんですか?今、何か」
言いかけた時、何とも焦げ臭い臭いと鈴の音が押し寄せて来た。
それに、東内さんがビクッとなり、中からも悲鳴が上がる。
「失礼します」
返事を待たず、上がり込む。
腕から血を流した若い男とびしょ濡れの火傷したと思われる若い女らしき人物が、凍ったような目を、それに向けていた。
巫女姿の女の霊。
万が一誰かに見られたり聞かれたりしたら困るからと言って、反田と柳井は東内を説き伏せたのだ。
「すまんな」
「いや。それより、口はつぐんでくれるんだろうな」
「東内、あんたも共犯なんだからね」
「わかってるよ。絶対に言わない。
これで、また走れるようになったら……!」
東内は言って、札束を奥の部屋に持って行こうと立ち上がった。
「ドア、開けにくいだろ」
「松葉杖ついてるんだから、物を持てないでしょ、そもそも」
反田と柳井が立ち上がって、柳井が札束の入った封筒を持ち、反田が先に立ってドアを開ける。
「どこにしまうんだ?」
「すまんなあ。奥の寝室の、チェストの中だ」
ゾロゾロと向かいながら、そっと反田と柳井が目配せをした。
「それはそうと、巫女の幽霊が出たんだって?」
「そうなんだよ。何だろうな、あれ」
「どこかの神社の巫女を、遊んで捨てたんじゃないの?」
「知らないって、巫女なんか」
言いながら、奥の部屋に入る。
と、反田は突き当りのベランダの窓を開けた。
「いい天気だなあ。でも、裏は何にもないんだな」
「ああ。高速道路と新幹線の線路のある山があるだけだからな」
「誰にも見られる心配はないって事だな」
「え?」
反田は東内を抱え込むようにして、ベランダの方へ引きずって行く。
「何!?おい、やめろよ!」
「ケガに絶望して、東内は自殺するのよ!」
「ええ!?お前ら、俺を殺す気で来たのか!?」
もつれ合いながら、ずるずるとベランダへ近付いて行く。が、渾身の力で両手を振りほどき、振り回す。
それで弾き飛ばされた反田は、重厚な棚にぶつかり、転んだ。その上に、優勝の盾やメダルの飾られた棚が倒れて行く。
「ギャアアアア!!」
凄まじい音と地響きの後、床の上には、腕が切断されてのたうち回る反田がいた。
「キャアアアア!!」
柳井が叫んで、ヨタヨタと後ずさる。そして、目をギラギラさせる東内を見て、ハッとした。
「違う、私は止め――」
「真珠、お前ェ……!」
反田が、俺のせいにする気かという恨みがましい目を向けて来る。
「私、は、違……運転してたの、私じゃないし」
言って、後ずさる。
松葉杖をついて、鬼のような形相の東内も、その分近付いて行く。
「い、嫌、やめて、助けて」
「お前ら、俺を殺そうとしたくせに、よく言えるな」
「だって、だって!」
言って、そのまま後ずさり、気付けばキッチンに追い込まれていた。
流し台まで追い詰められる。
そして、後ろ手にした手が何かのスイッチに触れた。
カチッ。ボオオ。
「え?きゃああああ!熱い!?何!!」
ガスの点火スイッチを押したようで、ガスの炎が袖から肩へと一瞬で這い上がり、髪の毛に広がる。
火だるまになって、熱さにのたうち回る。
流石に東内も気圧されたようになって、呆然とそれを見つめていた。
「あああああ!!」
柳井は倒れ込み、それで慌ててホース式の蛇口を伸ばし、東内は水をかけた。
焼けて溶けたセーター、縮れた髪、赤いような黒いような肌。
ヨロヨロとキッチンにやって来た反田が、それを見て、へたり込んだ。
その時、玄関チャイムが立て続けに鳴らされた。
僕と直は、捜査員と一緒に病院へ行ったが、一足違いで東内さんは家に戻ったと聞き、自宅マンションへ向かった。
と、悪意を孕んだ気配が生じた。
「これ、やばいかも」
玄関でドアチャイムを鳴らすが応答はない。しかし、ちょうど住人がでてきたので、開いた自動ドアを通って東内さんの部屋を目指す。
ドアはカギがかかっていたが、ドアチャイムを連打していると、松葉杖の青年がカギを開けた。
「東内さんですか?今、何か」
言いかけた時、何とも焦げ臭い臭いと鈴の音が押し寄せて来た。
それに、東内さんがビクッとなり、中からも悲鳴が上がる。
「失礼します」
返事を待たず、上がり込む。
腕から血を流した若い男とびしょ濡れの火傷したと思われる若い女らしき人物が、凍ったような目を、それに向けていた。
巫女姿の女の霊。
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