体質が変わったので

JUN

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着信メール(3)オフ会

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 マリアベルの詳細がつかめないまま、メールは届く。

     会いたい

 史也君は卒倒しそうになって、瀬戸巡査長は大きく息を吐いたが、
「蜂谷の追跡は、虚空に消えた。アドレスが存在しないというのも、嘘じゃないってわけか」
と僕が言うと、何か言いたそうにして、イライラと頭を掻いた。
「守りは直がいる。史也君を6人目にさせる気はない」
「とは言え、追跡が無理となれば、殺しに来る時にカウンターでやるしかないな。
 直はとにかく、史也君のガードを第一に頼む」
「了解」
「マリアベルは、メールから逃げ出そうとするかも知れない。蜂谷はそれを阻止してくれ」
「わかった」
 猶予は、ない。

 進展のないまま、メールが届く。
 これまでの被害者の内、全て消去していた人もいたが、残してあった人もいた。それによると、これが犯行前の最後のメールになるはずだ。この後は発見時に残っていたものになってしまう。

     今から行きます

 誰もが緊張していた。
「さあ。どこから来るかねえ」
 何も無い広い道場に、僕、直、蜂谷、史也君、瀬戸巡査長が待機していた。スマホは、7メートル程離れた所に置いてある。
 瀬戸兄弟は落ち着きなく貧乏ゆすりをしたりしているが、僕達霊能師は落ち着いている。気配がまだ感じられないというのが大きいが、警戒を超えて緊張していると、咄嗟の時、瞬時に動けないからだ。
「落ち着いて。まだ来ていないので」
「は、はい」
「甘い物でも持ってくれば良かったかねえ。史也君は、洋菓子派?和菓子派?」
「洋菓子かな。エクレアとかパイとかチョコレートとか好きです」
「へえ。じゃあ、あれ、食べたかねえ。スカイツリーチョコパフェ」
「ああ、もの凄いボリュームのやつ!」
「ねえ。僕達も行った事あるんだけど、量と甘さにギブアップ寸前だったよう」
 直が話しかけて、緊張をほぐす。これには、肩の力が入り過ぎていた瀬戸巡査長も、苦笑して、肩をほぐすように回した。
 直はこういうところが実に上手い。
 と、来た。
 霊能師組が瞬時に戦闘モードに入る。
「ボクから離れないでねえ」
 スマホの着信を知らせる音楽と共に、溢れ出たそれが、女の姿を取り始めた。
「さあ、逝こうか」
 僕達の視線の先で、マリアベルは禍々しく笑った。
 史也君が声にならない声を上げて、瀬戸巡査長が背に庇うようにする。その瀬戸兄弟を、直が丸ごと結界で包み込む。
 僕は右手に刀を出して、軽く踵を浮かせる。
「マリアベルですか」
 女は答えずに、史也君を見て笑った。

     今、着いたよ

「うわあっ!」

     あなたは一緒にいてくれる?

 史也君は声も出せず、顔を激しく横に振った。

     そう。あなたも私を拒否するのね
     だったら、もういい
     拒否する人は 要らない

 マリアベルの手が水平に上がると、結界が何かを弾いてバチバチと音を立てた。
「ふうん。これまでの5人は、こうやって質問して、拒否したから殺したのか。今のは電気だな。それで心臓を止めたのか、AEDの要領で」

     あなた、誰

「霊能師」
 マリアベルはスマホを振り返り、驚いたようにこちらを向いた。
「帰すわけにはいかなくてな」
 蜂谷が肩を竦めて見せる。
 そして一気に距離を詰め、僕はそれとパスをつないでみた。

 別れを告げるメール。着信拒否。絶望。孤独。出会い系サイトへの書き込み。待ち合わせに来なかった相手にブスが真に受けたと笑いものにされ。
 そして、感電自殺。

 僕はパスを切って、短く嘆息した。
「自分を受け入れてくれる相手を探しているのか」

     ウアアアア!

 マリアベルは殺意を露わにして、攻撃して来る。腕に当たれば感電死というわけか。
 躱し、攻撃の後の隙を突いて、肩を斬りつけて腕を飛ばす。

     ギャアアアア!!

 叫ぶマリアベル刀を深く突き立てると、そこから浄力が広がって行き、マリアベルの体がほどけていった。
「逝ったな」
「お疲れぇ」
「電波女は怖いねえ」
 直と蜂谷が力を抜き、瀬戸兄弟もホッとしたように体の力を抜いた。
「何なんだったんですか、あれ」
 史也君が訊くので、パスをつないで見えた事を教える。
「男運の悪い人だったんだねえ」
 直がしみじみと言った。
「その、出会い系のやつにとどめを刺されたんだなあ。運がとことん悪いと言うか、間が悪いと言うか」
 蜂谷は言って、溜め息をつく。
「同情はするが、この行いは許容できない。まあ、さっさと成仏するに限るな」
 僕は言って、今度はいい相手を見付けられることを願った。
「それはともかく、瀬戸兄、咄嗟の時は弟をかばって、お兄ちゃんだねえ。
 あ。まさか、ブラコンとか言うんじゃ……」
 蜂谷が言うと、瀬戸兄弟は同時に否定した。
「何でこんな生意気なやつ」
「兄貴なんて口うるさいだけですよ」
「何だとお!?だったら、小言を言わなくてもいいようにキチンとしろ!20歳も超えてるのにお前は!」
「ほらね!?大体、ブラコンになるのは妹か姉でしょ?どこに男兄弟でそんな――」
 直と蜂谷が、同時に僕を見た。
「え?」
「あ、思い出した。御崎警視のところって……」
「そう。双方向のブラコンだよう」
「不治の病ってやつ?」
「病気とは失礼な」
 誰からともなく笑いがもれて、まだ小さく震えていた史也君の震えも完全に止まった。
 そして僕は何となく、クリスマスまでに兄の好きなマロングラッセを作ろうと思った。






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