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タルパ(5)作ってみよう
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僕と直は、霊能師協会に来ていた。
「タルパねえ」
休憩用のソファでゴロゴロしていた先輩達に相談だ。
「何か流行ってるよな」
「精神疾患じゃないの?」
「現実世界に干渉できるまでになったのはなあ。
まあ、頭の中で会話するだけの段階なら、どっちかわからないけど」
「イマジナリーフレンドとも違うのね?」
「ちょいと違う。
質の悪いのが出来上がったりしちまうと厄介だよな」
先輩達は口々に、なんだかんだと言う。
「質の悪いのができた時、どうすればいいんですか。祓っても大丈夫ですか」
訊くと、手を振った。
「ダメじゃないか、やった事はないけどさあ。消すしかないだろうな」
「消す?どうやるんですかねえ?」
「よくは知らないけど、忘れるとか、統合するとか聞くなあ」
忘れる?難しそうだ。
統合する?あれか。1度僕が取り込んで融合させるあれか。あれなあ。
考えが伝わったのか、直が再度訊いた。
「統合って、精神科医にかかってカウンセリングを受けるとかですかねえ?」
先輩は自信なさそうに、
「まあ、そういうのもありかなあ。後は、自分が納得して、『1人になろう』と取り込む、のかな?」
と言った。
「チベット密教の秘奥義に詳しいやつなんかいねえよ。急に流行り出して、自己流でやり出すやつが増えて、たぶん本式とも違うものになってるんじゃねえか?そうなったら、チベットの高僧でもわかんねえんじゃねえの?」
それで、全員が溜め息をついた。
「困ったな。まあ、最終手段は、僕が取り込むでいいとして」
「いいの?」
「仕方ないです。
まず話をする為に、僕と直がタルパを作らないといけないんですよ。面倒臭い」
一斉に、皆が同情の目を向けて来た。
「ご苦労様」
「どうやってやるのか知りませんかねえ」
しばらく考え、出た結論が、『それって要するに、式を作ればいいんじゃないの。式を専門にしてる霊能師に相談すればいけそう』という事になった。
蜂谷のところの誠人を思い出した。元は周二という通り名の、霊を召喚して使役するタイプの暗殺専門の霊能者だったが、今は信山誠人という戸籍を得て、警察官になるべく警察学校にいる。召喚ではなく、式を従え、使役するタイプの霊能師だ。
「誠人か。放課後にでも行ってみるか」
「今はいいの?」
「授業中だろうからねえ。邪魔したくないしねえ」
言っていると、電話が入った。
「は?山野利和が自宅ベランダから落下?お守りが効かなかったか――え?意地を張って持ってなかった!?ばかだろ、あいつ」
直もそれで内容がわかったのか、嘆息している。
仲良しいじめグループ4人組の3人が、白いワンピースの女に襲撃された。
後は、斎藤君の彼女の桐生さんだけだ。
「桐生さんに、間違いなくお守りを持っていろと念を押しておくかねえ」
「そうだな。はあ」
溜め息が尽きない。
タルパに命じたわけじゃなく、自主的にやった事なら、どうなるんだろう。
そもそも、そういう人格に設定したのは本人で、無意識にそう願ったとみなされる可能性は低くない。
「これ以上、襲撃はしてもらいたくないんだがな」
皆、不幸にしかなれない。
放課後に警察学校に駆け込むと、誠人は案外上手く友達と付き合っていた。
「タルパですか。ネットでも流行っていますよね」
「至急作らないといけなくてな。式で代用しようと思う。ちゃんとやる時間もないしな」
「本物のタルパとは違うと思うけど、いいんですか」
「ほとんど同じだよ、概念はねえ」
「わかりました。
町田さんは早いですよ。アオに意識を割いているでしょう?そういうのをもうひとつ作るんですよ。そうだな、人形とかを核に使ったら手っ取り早いです」
「なるほどねえ。やってみようかねえ」
直はティッシュに入っていた広告の紙を人型にちぎって、目の前にあったポスターを見た。
やがて、そのペラペラの紙人形は、モゾモゾと手足を動かしてピエロの姿を取ると、机の上をヒョコヒョコと歩き始めた。
「おお!サーカス団を作りたくなるねえ」
「よし。じゃあ、僕も」
「御崎さんは、刀を出す時の感じが近いのかな。あれをもの凄く絞って。後、最後は壊すんだろうから、間違えてもお兄さんを想像しないように」
「う、了解」
僕も、紙をちぎって人型にした。そして目に付いたそれを見て、ほかのいろいろを想像し、刀を出す時のように力をほんの少し流して分ける。
「できたぞ」
「……市松人形だねえ」
「ええっと、じゃあ、同じ要領で、サイズを大きくしてみましょう」
僕達は、誠人を先生にして、特訓に励んだ。
怜と直が帰って行くと、誠人は溜め息をついた。
「お前も大したもんだなあ。
ん、どうした?」
教官に訊かれ、誠人は苦笑した。
「いくら似たような事をしているからって、普通は1回であんな事できませんよ。おれだって、生き延びるためにどれだけ必死で特訓したか……。
つくづく、あの2人は、おかしいですよ」
「タルパねえ」
休憩用のソファでゴロゴロしていた先輩達に相談だ。
「何か流行ってるよな」
「精神疾患じゃないの?」
「現実世界に干渉できるまでになったのはなあ。
まあ、頭の中で会話するだけの段階なら、どっちかわからないけど」
「イマジナリーフレンドとも違うのね?」
「ちょいと違う。
質の悪いのが出来上がったりしちまうと厄介だよな」
先輩達は口々に、なんだかんだと言う。
「質の悪いのができた時、どうすればいいんですか。祓っても大丈夫ですか」
訊くと、手を振った。
「ダメじゃないか、やった事はないけどさあ。消すしかないだろうな」
「消す?どうやるんですかねえ?」
「よくは知らないけど、忘れるとか、統合するとか聞くなあ」
忘れる?難しそうだ。
統合する?あれか。1度僕が取り込んで融合させるあれか。あれなあ。
考えが伝わったのか、直が再度訊いた。
「統合って、精神科医にかかってカウンセリングを受けるとかですかねえ?」
先輩は自信なさそうに、
「まあ、そういうのもありかなあ。後は、自分が納得して、『1人になろう』と取り込む、のかな?」
と言った。
「チベット密教の秘奥義に詳しいやつなんかいねえよ。急に流行り出して、自己流でやり出すやつが増えて、たぶん本式とも違うものになってるんじゃねえか?そうなったら、チベットの高僧でもわかんねえんじゃねえの?」
それで、全員が溜め息をついた。
「困ったな。まあ、最終手段は、僕が取り込むでいいとして」
「いいの?」
「仕方ないです。
まず話をする為に、僕と直がタルパを作らないといけないんですよ。面倒臭い」
一斉に、皆が同情の目を向けて来た。
「ご苦労様」
「どうやってやるのか知りませんかねえ」
しばらく考え、出た結論が、『それって要するに、式を作ればいいんじゃないの。式を専門にしてる霊能師に相談すればいけそう』という事になった。
蜂谷のところの誠人を思い出した。元は周二という通り名の、霊を召喚して使役するタイプの暗殺専門の霊能者だったが、今は信山誠人という戸籍を得て、警察官になるべく警察学校にいる。召喚ではなく、式を従え、使役するタイプの霊能師だ。
「誠人か。放課後にでも行ってみるか」
「今はいいの?」
「授業中だろうからねえ。邪魔したくないしねえ」
言っていると、電話が入った。
「は?山野利和が自宅ベランダから落下?お守りが効かなかったか――え?意地を張って持ってなかった!?ばかだろ、あいつ」
直もそれで内容がわかったのか、嘆息している。
仲良しいじめグループ4人組の3人が、白いワンピースの女に襲撃された。
後は、斎藤君の彼女の桐生さんだけだ。
「桐生さんに、間違いなくお守りを持っていろと念を押しておくかねえ」
「そうだな。はあ」
溜め息が尽きない。
タルパに命じたわけじゃなく、自主的にやった事なら、どうなるんだろう。
そもそも、そういう人格に設定したのは本人で、無意識にそう願ったとみなされる可能性は低くない。
「これ以上、襲撃はしてもらいたくないんだがな」
皆、不幸にしかなれない。
放課後に警察学校に駆け込むと、誠人は案外上手く友達と付き合っていた。
「タルパですか。ネットでも流行っていますよね」
「至急作らないといけなくてな。式で代用しようと思う。ちゃんとやる時間もないしな」
「本物のタルパとは違うと思うけど、いいんですか」
「ほとんど同じだよ、概念はねえ」
「わかりました。
町田さんは早いですよ。アオに意識を割いているでしょう?そういうのをもうひとつ作るんですよ。そうだな、人形とかを核に使ったら手っ取り早いです」
「なるほどねえ。やってみようかねえ」
直はティッシュに入っていた広告の紙を人型にちぎって、目の前にあったポスターを見た。
やがて、そのペラペラの紙人形は、モゾモゾと手足を動かしてピエロの姿を取ると、机の上をヒョコヒョコと歩き始めた。
「おお!サーカス団を作りたくなるねえ」
「よし。じゃあ、僕も」
「御崎さんは、刀を出す時の感じが近いのかな。あれをもの凄く絞って。後、最後は壊すんだろうから、間違えてもお兄さんを想像しないように」
「う、了解」
僕も、紙をちぎって人型にした。そして目に付いたそれを見て、ほかのいろいろを想像し、刀を出す時のように力をほんの少し流して分ける。
「できたぞ」
「……市松人形だねえ」
「ええっと、じゃあ、同じ要領で、サイズを大きくしてみましょう」
僕達は、誠人を先生にして、特訓に励んだ。
怜と直が帰って行くと、誠人は溜め息をついた。
「お前も大したもんだなあ。
ん、どうした?」
教官に訊かれ、誠人は苦笑した。
「いくら似たような事をしているからって、普通は1回であんな事できませんよ。おれだって、生き延びるためにどれだけ必死で特訓したか……。
つくづく、あの2人は、おかしいですよ」
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