体質が変わったので

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タルパ(6)再訪問

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 圭一はアリサと並んで座り、アリサからこれまでの事を聞いていた。
「――で、山野利和は、自室に現れたら慌てて逃げようとしてベランダに出たから、落ちたの」
「ふうん。いい気味だ。でも、死んでない?」
「2階だから、骨折と打撲だけ」
 アリサは残念そうだ。
 圭一は、いい気味だと拍手したい気持ちと、とんでもない事をしでかしたという気持ちに、揺れていた。
 しかし、アリサの行動を咎めるような事を言うのは怖かった。それで、唯一の理解者であるアリサが離れてしまったらどうしようという恐れだ。
 別に、証拠もないし、僕が命令したわけでもないし。
 自分に言い訳をしていると、ドアをノックする音がした。
「圭一。お、お客様なんだけど……」
 戸惑ったような怯えたような、母の声がする。
「誰?刑事さん?タルパなら会うって言っておいたんだけどな」
 言うと、ドアの向こうから、聞いた事のない声がした。
「タルパでございますわ」
「ボクもタルパだよーん」
「……え?」
 圭一とアリサは、目を丸くして顔を見合わせた。
「まさか、もう作ったのかな?」
 そうっと、ドアを開け、そして、絶叫した。
「ぎゃああああ!!」
 市松人形とピエロが部屋に入って来たのだが、どちらも無表情で、ホラー以外の何物でも無かった……。

 僕と直は、市松人形とピエロを通して圭一君とアリサに会ったが、僕達も入っていいかと訊くと、断られるかと思いきや、すんなりと招き入れられた。
 怖いから、だそうだ。
「怖いか?そうかな?」
「ボクも、楽しいサーカスの愉快なピエロなんだけどねえ?」
「こ、怖いわよ!何で人間じゃないの!?」
「だって、ぬいぐるみとか人形とかでもいいって書いてあったから。いきなり架空の人物を想像しろって言われても面倒臭い」
「目の前に、ピエロの写ったポスターと飾りの市松人形があったしねえ」
「解せん」
「解せんのはあんた達のセンスだよ!」
 なぜか、圭一君とアリサには不評だった。
「で、約束通りタルパを作ったぞ。話してもらおうか」
「アリサさんに、彼らを襲うように言ったのかねえ」
 圭一君は唇を引き結び、僕、直、アリサさんと忙しく視線を動かした。
 アリサさんは落ち着いた様子で微笑み、口を開く。
「命令もされていないし、お願いもされていないわ。ただ、圭一をいじめ、バカにした人を、わたしが許せなかっただけ。
 でも、最初の人は道端に現れただけで、驚いて勝手に転んだわ。
 次の人も、目の前に出現したら、驚いて階段から足を踏み外しかけてた。何もしなくても、落ちてたわよ、きっと。
 3番目の人は、自室に現れたら叫んでベランダに飛び出したのよ。それでついて行ったら、手すりの上に乗るから、ちょっとだけ押してあげたわ」
 アッサリと言うアリサを、弾かれた様に圭一君が見た。
「え?落としたの?落ちたんじゃないの?」
「だって、圭一を苦しめたのよ。心を傷つけ、殺しそうになるのは無実なの?」
「え……でも……」
 圭一君は、かなり混乱しているらしい。
 まあ、圭一君がやらせたわけじゃない事はわかった。
 ただ、タルパの性格を設定したのは圭一君だ。完全な無実とはいかない可能性があるし、道義的にも責任がないとは言えない。
「そんな……アリサ……そんな事……」
「圭一を苦しめるやつは、みいんな敵。この刑事さん達も」
 アリサは言うが早いか、清楚なお嬢様のような顔をかなぐり捨てて、僕達に跳びかかって来た。
 それを、何と言う事もなく直が札で拘束する。
「アリサ!?」
「離せ!殺してやる!」
 圭一君は、アリサさんのそんな姿に、おろおろとするばかりだ。
「圭一君。タルパが分身だと言うなら、責任を取れ。タルパのした事を、自分のした事として」
「そ、そんな……」
「タルパはただの良き理解者、お友達じゃない。なまじ出来が良かったからか、独立した人格を備えた、人だ。思いもかけない行動を取るかも知れない。
 いや、君の心の奥底の願望に反応したのかも知れない。
 圭一君。君は今後も、彼女の行動に責任を持てるのか?彼女を生み出した者としての責任だ。
 できないなら、消すしかない。
 いや、これ以上放って置くのは危険だ。消してもらう」
「やめてぇ!!圭一!」
「アリサ――!」
「どうする」
 圭一君とアリサは、唇を噛み締めて僕と直を睨みつけた。





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