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二度の死(1)鬼
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母親はいつも布団で寝ており、遊んだことは勿論、話をした事もあまりない。今もじっと黙って寝ていて、利之にとっては、大して変わりはなかった。顔に白い布をかけているのが何なのかな、とだけ不思議だった。
ただ、客間にはきれいなクルクルと回る電灯や花、果物を積み上げたものが置かれ、白と黒のシマシマの幕がかけられていた。そして、近所の人や親類がたくさん家に来て、母親に対して両手を合わせていた。
「お父さん。今日はお客さんが多いね」
言うと、父親は泣きそうな笑い顔になった。
「お母さん、何してるの?いないいないばあ?」
父親はとうとうそれで泣き出して、幼い息子を抱きしめた。見ていた人が、もらい泣きする。
「利之。これからは、お父さんと2人なんだ。お母さんはいなくなるんだ」
「どうして?病院?」
「そうじゃなくて……お母さんは、遠い所に行って、もう会えなくなるんだ」
「遠くの病院?」
「……お母さんは、死んじゃったんだよ。天国に行くんだ。シロと一緒だ」
利之は驚いた。シロはある日冷たく硬くなって、動かなくなってしまった。それが死で、もう会えないし、散歩もできないと聞いて悲しくなったものだ。
「死んだの?」
呆然と訊き直す利之の目から、涙がぽろぽろっと零れ落ちた。
研修を終え、陰陽課に戻って来た僕と直に、早速仕事が舞い込んだ。
「鬼ですか」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「動物を食い荒らしているところを、目撃されたらしいよ」
徳川さんが言う。
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「封印が解かれたとか、そういうものですかねえ?」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「特にそういう伝説は知られていないようだね。とにかくすぐに、向かってくれないか。山狩りが必要なら、C班を応援に出すよ」
「わかりました。必要なら連絡しますので」
「とにかく今から向かいますねえ」
僕と直は、陰陽課を出た。
「鬼か」
「早く対処しないと、被害が心配だねえ」
「そうだな。
そう言えば節分か」
「時節柄、ピッタリと言えばピッタリだねえ」
僕と直は軽くそんな事を言いながら、現地に向かった。
ただ、客間にはきれいなクルクルと回る電灯や花、果物を積み上げたものが置かれ、白と黒のシマシマの幕がかけられていた。そして、近所の人や親類がたくさん家に来て、母親に対して両手を合わせていた。
「お父さん。今日はお客さんが多いね」
言うと、父親は泣きそうな笑い顔になった。
「お母さん、何してるの?いないいないばあ?」
父親はとうとうそれで泣き出して、幼い息子を抱きしめた。見ていた人が、もらい泣きする。
「利之。これからは、お父さんと2人なんだ。お母さんはいなくなるんだ」
「どうして?病院?」
「そうじゃなくて……お母さんは、遠い所に行って、もう会えなくなるんだ」
「遠くの病院?」
「……お母さんは、死んじゃったんだよ。天国に行くんだ。シロと一緒だ」
利之は驚いた。シロはある日冷たく硬くなって、動かなくなってしまった。それが死で、もう会えないし、散歩もできないと聞いて悲しくなったものだ。
「死んだの?」
呆然と訊き直す利之の目から、涙がぽろぽろっと零れ落ちた。
研修を終え、陰陽課に戻って来た僕と直に、早速仕事が舞い込んだ。
「鬼ですか」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「動物を食い荒らしているところを、目撃されたらしいよ」
徳川さんが言う。
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「封印が解かれたとか、そういうものですかねえ?」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「特にそういう伝説は知られていないようだね。とにかくすぐに、向かってくれないか。山狩りが必要なら、C班を応援に出すよ」
「わかりました。必要なら連絡しますので」
「とにかく今から向かいますねえ」
僕と直は、陰陽課を出た。
「鬼か」
「早く対処しないと、被害が心配だねえ」
「そうだな。
そう言えば節分か」
「時節柄、ピッタリと言えばピッタリだねえ」
僕と直は軽くそんな事を言いながら、現地に向かった。
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