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消失(1)届けられたカメラ
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カバンを持って、皆の方を向く。
「じゃあ。風邪ひかないようにね」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「怜もな。何かあったらすぐに連絡するんだぞ」
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアの警視正で、今は神奈川県警本部の警務部長をしている。
「はい」
「気を付けてね。着いたら電話してね」
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡い。
「うん、わかった」
「今度また遊ぼうね」
甥の敬は、言い聞かされていて引き留めはしないが、泣きそうだ。
「うん。また遊ぼうな。今度は何したいか、考えておけよ」
「うん!」
年末年始の休暇を届け通り神奈川の兄達の官舎で過ごし、僕は仕事始めの前に、帰るところだった。
「じゃあ」
ドアを開けて外に出た――ところで、電話が鳴り出した。
「ん?あれ。陰陽課からだ。何かあったのかな」
寂しさから引き戻されて、取り敢えず出る。
「はい、御崎です」
『山神です。明けましておめでとうございます』
今日の電話番の山神さんだった。
「おめでとうございます」
『落とし物のカメラに妙な映像を残して、人が消えました』
「今からそっちに向かうから。他の皆には?」
『御崎係長が1番でしたので』
「じゃあ、直にだけ取り敢えず頼みます。今神奈川なので、着くのは4時頃だと思うけど」
『わかりました。町田係長に連絡します』
電話を切ると、兄が言った。
「仕事か」
「うん。人が消えたとか何とか」
「気を付けろよ」
「はい」
僕は、シャキッとした足取りで、官舎を出た。
山道を歩くのは、大学生くらいの男子グループ4人だった。高校の時は仲が良かった仲間だが、就職や進学でバラバラになり、年末の休みに集まったので、ドライブに行く事にしたのだ。
何となく車を走らせていると、山の上にお寺が見えたので、そこに行こうという事になり、そこを目指した。
やがてもうすぐ頂上という所で道は終わり、無料駐車場があったので車を止め、カメラを回しながら、ブラブラと歩き出す。
「寒いな」
「1年の時の耐寒遠足を思い出すな」
「ああ、あれ。マジで寒かったなあ。おにぎりが凍り付くくらい」
「カップ麺とお湯を持ってくれば良かったって、本当に思ったもんな」
話しながら歩いて行くと、赤い橋が出て来た。これを渡り、その向こうのトンネルを抜け、30メートルほど進めばお寺に着くらしい。
「誰もいないな。あの寺、やってるのかな」
「初詣には、もっと別の所に行くんだろ」
「山の中だもんな」
言い合って、橋に足を踏み入れる。
半ばまで来た頃だろうか。何か陽炎のような物が、前方に浮いていた。
「何だ?陽炎?」
「あれは真夏に出るもんだろ?」
「逆陽炎?」
「逆を付ければいいってもんじゃないだろ」
言っている間にも、それは大きく、黒くなっていく。それを足を止めて見ていたのだが、それはだんだん近付いて来た。
「おい、大丈夫かな。こっちに来るぞ」
皆、半身になる。
するとそれは、スピードを上げて迫って来た。
「わ、逃げろ!何かやばい!」
ワッと、逃げ出す。
録画ボタンは押したままで、とにかく全員で走る。
後ろを走っていたやつが、
「うわああ!?」
と叫んだのでギョッとして振り返ると、人の身長より大きくなった真っ黒いその何かは、最後尾のやつに追いつき、飲み込むようにした。
「え!?」
その前のやつも、飲み込まれる。
そして、カメラを持っていた自分もその黒一色の何かに飲み込まれ、カメラがゴトリと地面に落ちた。
その後で最後の1人も黒いそれに飲み込まれ、それでその黒い物は、消えた。
カメラの再生を止め、山神さんは言った。
「橋にこのカメラが落ちていたのを訪れた地元の人が見つけて、落とし物として交番に届け、中を見た警官が慌てて連絡して来たんです」
「これ、次元の裂け目かねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「みたいだな。これ、どこだろう。行ってみよう」
「急いだ方がいいかも知れないねえ」
僕と直は地図で場所の確認をし始めた。
「じゃあ。風邪ひかないようにね」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「怜もな。何かあったらすぐに連絡するんだぞ」
御崎 司。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアの警視正で、今は神奈川県警本部の警務部長をしている。
「はい」
「気を付けてね。着いたら電話してね」
御崎冴子。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡い。
「うん、わかった」
「今度また遊ぼうね」
甥の敬は、言い聞かされていて引き留めはしないが、泣きそうだ。
「うん。また遊ぼうな。今度は何したいか、考えておけよ」
「うん!」
年末年始の休暇を届け通り神奈川の兄達の官舎で過ごし、僕は仕事始めの前に、帰るところだった。
「じゃあ」
ドアを開けて外に出た――ところで、電話が鳴り出した。
「ん?あれ。陰陽課からだ。何かあったのかな」
寂しさから引き戻されて、取り敢えず出る。
「はい、御崎です」
『山神です。明けましておめでとうございます』
今日の電話番の山神さんだった。
「おめでとうございます」
『落とし物のカメラに妙な映像を残して、人が消えました』
「今からそっちに向かうから。他の皆には?」
『御崎係長が1番でしたので』
「じゃあ、直にだけ取り敢えず頼みます。今神奈川なので、着くのは4時頃だと思うけど」
『わかりました。町田係長に連絡します』
電話を切ると、兄が言った。
「仕事か」
「うん。人が消えたとか何とか」
「気を付けろよ」
「はい」
僕は、シャキッとした足取りで、官舎を出た。
山道を歩くのは、大学生くらいの男子グループ4人だった。高校の時は仲が良かった仲間だが、就職や進学でバラバラになり、年末の休みに集まったので、ドライブに行く事にしたのだ。
何となく車を走らせていると、山の上にお寺が見えたので、そこに行こうという事になり、そこを目指した。
やがてもうすぐ頂上という所で道は終わり、無料駐車場があったので車を止め、カメラを回しながら、ブラブラと歩き出す。
「寒いな」
「1年の時の耐寒遠足を思い出すな」
「ああ、あれ。マジで寒かったなあ。おにぎりが凍り付くくらい」
「カップ麺とお湯を持ってくれば良かったって、本当に思ったもんな」
話しながら歩いて行くと、赤い橋が出て来た。これを渡り、その向こうのトンネルを抜け、30メートルほど進めばお寺に着くらしい。
「誰もいないな。あの寺、やってるのかな」
「初詣には、もっと別の所に行くんだろ」
「山の中だもんな」
言い合って、橋に足を踏み入れる。
半ばまで来た頃だろうか。何か陽炎のような物が、前方に浮いていた。
「何だ?陽炎?」
「あれは真夏に出るもんだろ?」
「逆陽炎?」
「逆を付ければいいってもんじゃないだろ」
言っている間にも、それは大きく、黒くなっていく。それを足を止めて見ていたのだが、それはだんだん近付いて来た。
「おい、大丈夫かな。こっちに来るぞ」
皆、半身になる。
するとそれは、スピードを上げて迫って来た。
「わ、逃げろ!何かやばい!」
ワッと、逃げ出す。
録画ボタンは押したままで、とにかく全員で走る。
後ろを走っていたやつが、
「うわああ!?」
と叫んだのでギョッとして振り返ると、人の身長より大きくなった真っ黒いその何かは、最後尾のやつに追いつき、飲み込むようにした。
「え!?」
その前のやつも、飲み込まれる。
そして、カメラを持っていた自分もその黒一色の何かに飲み込まれ、カメラがゴトリと地面に落ちた。
その後で最後の1人も黒いそれに飲み込まれ、それでその黒い物は、消えた。
カメラの再生を止め、山神さんは言った。
「橋にこのカメラが落ちていたのを訪れた地元の人が見つけて、落とし物として交番に届け、中を見た警官が慌てて連絡して来たんです」
「これ、次元の裂け目かねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「みたいだな。これ、どこだろう。行ってみよう」
「急いだ方がいいかも知れないねえ」
僕と直は地図で場所の確認をし始めた。
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