体質が変わったので

JUN

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誕生(1)ようこそ

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 敬が全力で走って来る。
「れーんー!!」
 そして、飛びついて来るのを、ひしっと抱きとめた。
「敬!元気だったか?背が伸びたか?」
 御崎 怜みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「怜は、1人でもちゃんと食べてるか?何か困った事は無いか?戸締りはキッチリしてるか?」
 御崎 司みさき つかさ。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
 今月の頭から神奈川県警の警務部長だ。そのせいで先月末に神奈川県に親子3人で引っ越したので、会うのも久しぶりな感じだ。4日も会っていない。
「うん。大丈夫。兄ちゃんこそ、神奈川はどう?忙しい?困った部下とかいない?何だったら、十二神将でもに送り込むよ」
「大丈夫だ。こっちは心配ない。それより、十二神将を鉄砲玉扱いするのはやめなさい」
 兄弟で心配し合うのを見て、冴子姉が苦笑した。
「相変わらずねえ。昨日も電話したのに」
 御崎冴子みさきさえこ。姉御肌のさっぱりとした気性の兄嫁だ。母子家庭で育つが母親は既に亡い。
「安定の、双方向のブラコンだからねえ」
 直が頷く。
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
 直に子供が生まれたのでお祝いに病院に集まったところだ。
「直君。おめでとう。女の子だって?」
 兄が言いながらお祝いの入った熨斗袋を渡すと、直はそれを受け取って、嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます。
 はい。名前は優維ゆいにしようと思ってるんですけどねえ」
「あら。かわいいわね。
 それで、千穂さんは?」
「元気ですよう。早く体力を戻すとか言って、スクワットとかやりはじめるんですよねえ。それ、普通なんですかねえ」
「いやあ、少数派じゃないかしら」
 話しながら、皆で、新生児室の前に行く。
 大きな嵌め殺しのガラスの向こうにベビーベッドが並んでいて、今は、男女5人の新生児が寝ていた。
「優維ちゃん、かわいいなあ。
 ほら、敬。この端っこの、ピンクのタオルの子だぞ」
 敬を抱き上げて見せてやると、敬は興味津々で覗き込む。
「小さいねえ」
「敬も生まれた時はこんなくらいだったんだぞ?」
「敬、優維ちゃんって言うんだ。仲良くしてねえ」
「うん!優維ちゃん、ぼくは、御崎 敬です。よろしく」
 優維ちゃんは返事するかのように、手足を動かして、小さく欠伸した。
「うわあ。かわいいねえ」
 千穂さんが産気づいたのは僕と直が帰ろうとしていた時で、2人で病院へ駆けつけて、廊下でウロウロハラハラしながら待っていたのだ。そして生まれた時には、まるで敬の時と同じで、待っていただけの僕達がヘロヘロになるくらい疲労困憊していて、看護師さんに笑われた。
 見ていると、隣の京香さん一家も同期の倉阪一家も来た。やはり、休日は重なるものだ。
 子供達はガラスにへばりついて優維ちゃんに注目している。
「お人形みたい」
「優維ちゃんかあ」
「敬君。私達も大きくなったら、あんな子供を作ろうね」
「う?うん?」
 倉阪の子舞ちゃんに言われて敬はわからないようだったが、倉阪はがっくりと肩を落とす。
「倉阪、落ち着け、な?」
「子供の言う事だから、ねえ?」
 僕と直でどうにか慰め、京香さんが
「と、隣に公園があったわね。子供は遊んで来る?」
と提案して、子供達は遊びに行く事になった。
「僕がついてるから」
 言って、僕は子供達を連れて外へ出る。どうせ僕は、ほぼ毎日直とここへ来ているのだ。
 病院の隣には狭いながらも公園があり、その隣にはお寺がある。
 子供達3人は順番にシーソーで遊び始め、それを僕はベンチから、ケガをしないように見ていた。
 と、子供が急に現れ、僕は子供達に近寄った。
「誰?一緒に遊ぶ?」
 ポツンと立って見ているその子に敬が言うと、その子はこっくりと頷いて、嬉しそうに笑いながら舞ちゃんの差し出す手を握った。4歳くらいの女の子だ。
「……まあ、いいか」
 僕は監視を緩めないようにさりげなく注視し続ける事にした。
 何せその子は、霊だったのだから。



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