617 / 1,046
誕生(2)友達
しおりを挟む
シーソー、滑り台、ブランコ。子供達4人は仲良く遊んだ。
その子も今のところは一緒に遊ぶだけで、悪い事をしそうにはない。
そうなったら、即、祓うだけだが。
時計を見ると、1時間程が経っていた。そろそろだろうか。
「そろそろ帰ろうか」
「あと1回滑り台滑ったら!」
「よし、1回だぞ」
子供達は順番に並んで、滑り台のはしごを登って行く。
「お、感心、感心。康介、お兄ちゃんだな」
康介は3つ上だけあって、小さい子達が危なくないように、上で、滑るタイミングを指示している。
「えへへ」
寺から小さく聞こえていた読経の声が途切れ、しばらくすると、家族連れらしきグループが寺の奥から現れた。そして、子供達を見ると、足を止めた。微笑ましくて、というより、怪訝そうな面持ちである。
「そんな……偶然でしょう?」
「でも、赤いワンピースも、靴も、白いレースのソックスも……」
ヒソヒソと言い合っている。
僕は康介に、
「ちょっと頼むぞ」
と言い置いて、そのグループに近付き、声をかけた。
「すみません。警視庁陰陽課の御崎と申します。今はプライベートでして、手帳は持っていないのですが。
失礼ですが、あの女の子に心当たりがありますか?」
動揺していた彼らの1人が、代表するように言った。
「今、墓参りして来たところなんですが……その……4年前、生まれる前に死んでしまった娘に供えた服と靴と靴下があの子のと全く同じで……ワンピースは手作りなのに……」
子供達は輪になって、話をしている。
「ああ。あの子は、霊ですよ」
「え!?」
母親らしき女性は、そろそろと近付いて行った。
「もう、帰るね」
「帰るの?もっと遊びたい。1人だと寂しいもん」
敬達3人は困ったような顔をした。
「でも、お母さん達が待ってるから」
「どこ?」
「病院よ。お父さんのお友達に赤ちゃんが生まれたから、お祝いに来たのよ」
「そう言えば、名前を聞いてなかったね。ぼく、康介」
「ぼくは敬です!」
「私は舞よ」
「私……ないの。赤ちゃんって呼ばれるの」
女の子は泣きそうな顔になった。
「お父さんもお母さんもお祖母ちゃんも来てくれるけど、誰も名前を呼んでくれないの。それがとても寂しいの」
敬達3人は、戸惑ったように顔を見合わせた。
間違いない。この子は、水子だ。
そして墓参り帰りの一家は、ハッと口元を押さえた。わかったのだろう。我が子だと。
「いいな。私も欲しい。お父さんやお母さん、それに、名前。
ねえ、寂しいの。帰らないで。一緒に行こう」
「だめ。怜と滑り台をあと1回って約束したの。ごめんね」
「だめ。帰さない」
女の子の目が吊り上がり、敬達は1歩下がった。
「だめだな。この子達は家に帰るんだから、もう一緒には遊べない」
間に入る。
「どうして。ずるい。私だって欲しい。私だけの名前」
僕は、一家を見た。
「君のお父さん、お母さん、お祖母さんだ。
名前を」
母親は泣き、父親は涙ながらに言った。
「風花。つけようと決めてた名前だ。僕達の娘の名前・・・」
「風花!」
風花と呼ばれた女の子は、一家を見つめ、
「風花……私の名前。風花!」
と言うなり、嬉しそうに笑って、母親に飛びついて行った。
「お母さん!お父さん!」
「風花!」
子供達3人はしばしポカンとしていたが、それでも、風花が嬉しそうなので、よしとしたらしい。
僕は、一家に近付いた。
「風花ちゃんは、逝かないといけない。わかりますね」
お祖母さんと父親は、泣きながらも頷いた。母親は泣いて強く風花ちゃんを抱きしめて頭を振る。
「嫌、嫌、嫌」
「……風花ちゃんのためになりません。送ってあげるのが、生きている者の務めです」
母親は、父親に肩を抱かれ、風花ちゃんから離れた。
「ありがとう。風花。とっても嬉しい」
「お父さんと呼ばれて、とても嬉しいよ」
「お母さんもよ。産んであげられなくてごめんなさい……!」
「風花。お盆には待ってるからね。それに祖母ちゃんは、近いうちにそっちに行くから。その時は、遊ぼうね」
「うん、お祖母ちゃん!」
「じゃあ、逝こうか」
そっと浄力を当てると、キラキラと光って崩れ、立ち上って行く。
それを、一家はじっと見送っていた。
子供達3人もそれを見上げていたが、敬が僕を見て言った。
「風花ちゃん?どこ行ったの?」
「先に、お家に帰ったのよ」
「おばちゃん、風花ちゃんのお母さん?」
「そう。風花と遊んでくれてありがとうね」
「うん!バイバイって言っておいてね!」
「ええ」
一家は敬につられたようににっこりと笑った。
「怜、帰ろ?もう1回、優維ちゃん見る!」
それに、舞ちゃんが慌てる。
「優維ちゃんもかわいいけど、舞もかわいいもん!敬君と結婚するのは舞だもん!」
「う?うん?」
「敬、やるな」
「康君?えっと、よくわかんないけど、ありがと!」
大人達は、噴き出す寸前だ。
「じゃあ、失礼します」
「バイバーイ」
僕達は公園を後にした。
その子も今のところは一緒に遊ぶだけで、悪い事をしそうにはない。
そうなったら、即、祓うだけだが。
時計を見ると、1時間程が経っていた。そろそろだろうか。
「そろそろ帰ろうか」
「あと1回滑り台滑ったら!」
「よし、1回だぞ」
子供達は順番に並んで、滑り台のはしごを登って行く。
「お、感心、感心。康介、お兄ちゃんだな」
康介は3つ上だけあって、小さい子達が危なくないように、上で、滑るタイミングを指示している。
「えへへ」
寺から小さく聞こえていた読経の声が途切れ、しばらくすると、家族連れらしきグループが寺の奥から現れた。そして、子供達を見ると、足を止めた。微笑ましくて、というより、怪訝そうな面持ちである。
「そんな……偶然でしょう?」
「でも、赤いワンピースも、靴も、白いレースのソックスも……」
ヒソヒソと言い合っている。
僕は康介に、
「ちょっと頼むぞ」
と言い置いて、そのグループに近付き、声をかけた。
「すみません。警視庁陰陽課の御崎と申します。今はプライベートでして、手帳は持っていないのですが。
失礼ですが、あの女の子に心当たりがありますか?」
動揺していた彼らの1人が、代表するように言った。
「今、墓参りして来たところなんですが……その……4年前、生まれる前に死んでしまった娘に供えた服と靴と靴下があの子のと全く同じで……ワンピースは手作りなのに……」
子供達は輪になって、話をしている。
「ああ。あの子は、霊ですよ」
「え!?」
母親らしき女性は、そろそろと近付いて行った。
「もう、帰るね」
「帰るの?もっと遊びたい。1人だと寂しいもん」
敬達3人は困ったような顔をした。
「でも、お母さん達が待ってるから」
「どこ?」
「病院よ。お父さんのお友達に赤ちゃんが生まれたから、お祝いに来たのよ」
「そう言えば、名前を聞いてなかったね。ぼく、康介」
「ぼくは敬です!」
「私は舞よ」
「私……ないの。赤ちゃんって呼ばれるの」
女の子は泣きそうな顔になった。
「お父さんもお母さんもお祖母ちゃんも来てくれるけど、誰も名前を呼んでくれないの。それがとても寂しいの」
敬達3人は、戸惑ったように顔を見合わせた。
間違いない。この子は、水子だ。
そして墓参り帰りの一家は、ハッと口元を押さえた。わかったのだろう。我が子だと。
「いいな。私も欲しい。お父さんやお母さん、それに、名前。
ねえ、寂しいの。帰らないで。一緒に行こう」
「だめ。怜と滑り台をあと1回って約束したの。ごめんね」
「だめ。帰さない」
女の子の目が吊り上がり、敬達は1歩下がった。
「だめだな。この子達は家に帰るんだから、もう一緒には遊べない」
間に入る。
「どうして。ずるい。私だって欲しい。私だけの名前」
僕は、一家を見た。
「君のお父さん、お母さん、お祖母さんだ。
名前を」
母親は泣き、父親は涙ながらに言った。
「風花。つけようと決めてた名前だ。僕達の娘の名前・・・」
「風花!」
風花と呼ばれた女の子は、一家を見つめ、
「風花……私の名前。風花!」
と言うなり、嬉しそうに笑って、母親に飛びついて行った。
「お母さん!お父さん!」
「風花!」
子供達3人はしばしポカンとしていたが、それでも、風花が嬉しそうなので、よしとしたらしい。
僕は、一家に近付いた。
「風花ちゃんは、逝かないといけない。わかりますね」
お祖母さんと父親は、泣きながらも頷いた。母親は泣いて強く風花ちゃんを抱きしめて頭を振る。
「嫌、嫌、嫌」
「……風花ちゃんのためになりません。送ってあげるのが、生きている者の務めです」
母親は、父親に肩を抱かれ、風花ちゃんから離れた。
「ありがとう。風花。とっても嬉しい」
「お父さんと呼ばれて、とても嬉しいよ」
「お母さんもよ。産んであげられなくてごめんなさい……!」
「風花。お盆には待ってるからね。それに祖母ちゃんは、近いうちにそっちに行くから。その時は、遊ぼうね」
「うん、お祖母ちゃん!」
「じゃあ、逝こうか」
そっと浄力を当てると、キラキラと光って崩れ、立ち上って行く。
それを、一家はじっと見送っていた。
子供達3人もそれを見上げていたが、敬が僕を見て言った。
「風花ちゃん?どこ行ったの?」
「先に、お家に帰ったのよ」
「おばちゃん、風花ちゃんのお母さん?」
「そう。風花と遊んでくれてありがとうね」
「うん!バイバイって言っておいてね!」
「ええ」
一家は敬につられたようににっこりと笑った。
「怜、帰ろ?もう1回、優維ちゃん見る!」
それに、舞ちゃんが慌てる。
「優維ちゃんもかわいいけど、舞もかわいいもん!敬君と結婚するのは舞だもん!」
「う?うん?」
「敬、やるな」
「康君?えっと、よくわかんないけど、ありがと!」
大人達は、噴き出す寸前だ。
「じゃあ、失礼します」
「バイバーイ」
僕達は公園を後にした。
10
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる