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ストリートビュー(2)青い馬
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マンションの申し込みの翌日、僕と直は北海道にいた。出張である。
わかってはいたが、本当に広い事を実感した。
「毎晩、出るんですよ。いくらこの辺の人は慣れてると言っても、あれには驚いて、事故につながるんですわ」
困ったように、地元の警官は言った。
「場所はいつもこの辺りなんですね」
「はい。ここは元、牧場だったんです。競走馬もいて、良かったんですがねえ。資金難の時に奥さんは病気で治療費がかかるし。それで、馬の保険金サギをして主人は捕まって、娘はサクラリュウセオウが足を折って安楽死させたという知らせに驚いて帰る途中で事故を起こして亡くなって。気の毒に」
しみじみと言う。
このだだっ広い田舎道に毎晩馬の幽霊が現れ、自動車事故が多発しているらしいのだ。
「馬か。話が通じるかな……」
心配だ。
「馬は賢いですからね」
「……会話ができないと、ちょっと難しいかも知れないねえ」
直が言うが、警官は笑って、
「じゃあ、よろしくお願いします。交代のパトカーを寄こしますんで」
と敬礼をして、戻って行った。
「……いや、賢いとは思うよ。思うけど……」
「そういう問題じゃないんだよねえ」
僕と直は嘆息し、とにかく馬を待つ事にした。
辺りは明かりも無く、本当に真っ暗だ。その分、星がきれいに見える。
「これ、暗くて事故を起こしたんじゃないのかな」
「それもあると思うけどねえ」
言いながら時計を見ると、まだ午後9時だ。
時折り通りかかる車やバイクのヘッドライトが遠ざかると、また、真っ暗になる。
と、何やら気配がした。
「来たぞ」
同時に、青白い何かが、道の向こうの方に生じた。
「あれかねえ」
それは見る見るうちに大きくなる。近付いて来ているのだ。
「んん?」
目を凝らしてみると、馬が青白いく発光して、全力疾走しているのが見えた。
「うわあ」
「馬が青く光ってるねえ。何か綺麗だけど」
「これ、どうやって?話しかけるのか?
ああ、馬君、ちょっと――だめだよな、そりゃあ!」
目の前を走って行く馬に舌打ちをして、パトカーで追いかける。
「早いねえ、馬って」
「走り方とか、やっぱりカッコいいな。
あ。驚いたのと見とれたのとで前方不注意になったのか?」
「かもねえ」
馬はひらりと柵を飛び越え、牧草地を走って行って、消えた。
「柵かあ」
「こういう具合で、車もバイクも追跡できませんでした」
若い警官が言った。
「話せるかどうかは疑問だけど、とにかく接近できないとな」
「どうすればいいかねえ」
頭を捻りながら署に向かっていたが、警官が即、言った。
「そりゃあ、馬でしょう」
「馬?」
「足の速さだけが問題かあ」
「いや、馬に乗った事無いですよ」
「じゃあ、明日は朝から練習ですね!がんばって下さい!」
「あれ?」
警官のいい笑顔に、それしかないような気がして来た。
男は気になって、今日もパソコンを前にしていた。
そして、ストリートビューを呼び出してみる。
「えっ!?」
ほぼ昨日と一緒だった。
だが昨日と違って、佇んでいる女性が近付いて来ていた。
気のせいかと思ってやり直してみたりしたが、間違いない。昨日と全く同じ場所なのに、女だけがこちらに近付いてきているのだ。
「何で……」
そして、顔は髪で見えないが、どう見てもそれは、彼女に似ているように思えた。
「どういう事なんだ……?」
男は混乱しながら、ストリートビューを終了した。
わかってはいたが、本当に広い事を実感した。
「毎晩、出るんですよ。いくらこの辺の人は慣れてると言っても、あれには驚いて、事故につながるんですわ」
困ったように、地元の警官は言った。
「場所はいつもこの辺りなんですね」
「はい。ここは元、牧場だったんです。競走馬もいて、良かったんですがねえ。資金難の時に奥さんは病気で治療費がかかるし。それで、馬の保険金サギをして主人は捕まって、娘はサクラリュウセオウが足を折って安楽死させたという知らせに驚いて帰る途中で事故を起こして亡くなって。気の毒に」
しみじみと言う。
このだだっ広い田舎道に毎晩馬の幽霊が現れ、自動車事故が多発しているらしいのだ。
「馬か。話が通じるかな……」
心配だ。
「馬は賢いですからね」
「……会話ができないと、ちょっと難しいかも知れないねえ」
直が言うが、警官は笑って、
「じゃあ、よろしくお願いします。交代のパトカーを寄こしますんで」
と敬礼をして、戻って行った。
「……いや、賢いとは思うよ。思うけど……」
「そういう問題じゃないんだよねえ」
僕と直は嘆息し、とにかく馬を待つ事にした。
辺りは明かりも無く、本当に真っ暗だ。その分、星がきれいに見える。
「これ、暗くて事故を起こしたんじゃないのかな」
「それもあると思うけどねえ」
言いながら時計を見ると、まだ午後9時だ。
時折り通りかかる車やバイクのヘッドライトが遠ざかると、また、真っ暗になる。
と、何やら気配がした。
「来たぞ」
同時に、青白い何かが、道の向こうの方に生じた。
「あれかねえ」
それは見る見るうちに大きくなる。近付いて来ているのだ。
「んん?」
目を凝らしてみると、馬が青白いく発光して、全力疾走しているのが見えた。
「うわあ」
「馬が青く光ってるねえ。何か綺麗だけど」
「これ、どうやって?話しかけるのか?
ああ、馬君、ちょっと――だめだよな、そりゃあ!」
目の前を走って行く馬に舌打ちをして、パトカーで追いかける。
「早いねえ、馬って」
「走り方とか、やっぱりカッコいいな。
あ。驚いたのと見とれたのとで前方不注意になったのか?」
「かもねえ」
馬はひらりと柵を飛び越え、牧草地を走って行って、消えた。
「柵かあ」
「こういう具合で、車もバイクも追跡できませんでした」
若い警官が言った。
「話せるかどうかは疑問だけど、とにかく接近できないとな」
「どうすればいいかねえ」
頭を捻りながら署に向かっていたが、警官が即、言った。
「そりゃあ、馬でしょう」
「馬?」
「足の速さだけが問題かあ」
「いや、馬に乗った事無いですよ」
「じゃあ、明日は朝から練習ですね!がんばって下さい!」
「あれ?」
警官のいい笑顔に、それしかないような気がして来た。
男は気になって、今日もパソコンを前にしていた。
そして、ストリートビューを呼び出してみる。
「えっ!?」
ほぼ昨日と一緒だった。
だが昨日と違って、佇んでいる女性が近付いて来ていた。
気のせいかと思ってやり直してみたりしたが、間違いない。昨日と全く同じ場所なのに、女だけがこちらに近付いてきているのだ。
「何で……」
そして、顔は髪で見えないが、どう見てもそれは、彼女に似ているように思えた。
「どういう事なんだ……?」
男は混乱しながら、ストリートビューを終了した。
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