体質が変わったので

JUN

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脱落(1)新法案

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 くるみ入りちぎりパンの焼き色はバッチリだし、ブロッコリーとパプリカとゆで卵とハムの皿もできた。角切りりんご入りのヨーグルトは冷蔵庫から出すだけだし、コーヒーも沸いたし、牛乳も注ぐだけだ。
「よし」
 朝食の準備が完了したことを確認して、僕は朝のニュースを見た。
 御崎 怜みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
 そのニュースは、ひっそりと取り上げられていた。『被憑依者についての法案』。
 霊というものが公に認知されて数年になる。しかし、一般の人が干渉できない、決まり切った法則がない、科学で誰にでも一目瞭然にならない、などの理由から、法整備は万全とは言い難い。
 そこで、僕は提出するレポートでーーこういう面倒臭いものを、キャリアは書かないといけないのだーー、この必要性を訴えた。とりわけ急務なのは、憑依された者が、霊が成り代わって行った犯罪行為について。今はある法律で対応しているが、いつも目の前に霊能者がいるわけでも無いし、深刻な行為を止められるわけではない。被憑依者にとっては身に覚えがない行為でも、物理的には間違いなく犯人であるなんて、困るどころの話ではない。
 そこで、霊に関する新しい法律を作る事が必要であると考えたのだ。
 レポート提出後、何度も説明に呼ばれ、実験に協力し、ようやく法案成立に漕ぎつける事ができた。
 法案提出には、元警察官僚の国会議員上谷川重吾かみたにがわじゅうご議員が主力になってくれた。
「ひとまずは、良かった、良かった」
 胸を撫で下ろした時、兄が起き出して来る気配がした。

 兄と並んで、職場に向かう。
「まずは、形になったな」
 御崎 司みさき つかさ。頭脳明晰でスポーツも得意。クールなハンサムで、弟から見てもカッコいい、ひと回り年上の頼れる自慢の兄である。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。警察庁キャリアで、警視正だ。
 今はすぐ隣の警察庁刑事局に勤務しているので、出勤は一緒になる事も少なくない。
「運用面で、ごまかしとかが無いように、厳格にしないといけないだろうなあ」
「言い逃れに使えるかと浅知恵で申し立てるやつがいるに決まってるからな」
 もう、想像に難くない。
「次に通そうとしている法案も決まっているそうだぞ」
 兄が言う。
「へえ。何だろ」
「犯罪者予備軍を監視、追跡できる法律らしい」
 兄の声に、苦い物が混じる。
「それはまた乱暴な」
「ああ。問題がありすぎる。野党でなくとも、反対が出るだろう」
「気持ちはわかるが、無理だよな。『やりそう』ってだけで大っぴらに何かしてもいいってのは」
「国民全員、何らかの理由を付けて、常に所在を明らかにできるような国にするつもりか」
「反発のデモとかが、起きそうだな」
「ああ。しばらく要注意だな」
 そこで分かれるポイントに着き、僕と兄は別れた。
 気を引き締めないとな。
 僕は、陰陽課に向かって歩き出した。




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