体質が変わったので

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カウントダウン(5)ゼロ

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 僕と直は、ステージ下へ飛び込んだ。
 ステージの真ん中に当たる所の真下にエアタンクとバルブ、時間でエアを送る制御装置が置かれているのは先程と変わらない。
 しかし今はそこに小箱のような物が取り付けられ、音無がそのすぐ近くに座っていた。4体の霊も、音無の周りにいる。
「遅かったな」
 霊の1体が笑った。
「何で、こんな事を?」
「死に損なってしまってね。どうせ死に直すなら、巻き込んでやれとね」
 音無がひっそりと答えた。
「俺達は皆、新年なんて来なければいいと、絶望しかないのに、彼らはバカ騒ぎして新年を迎えようとしている」
「だったら、待ちに待った新年の事件第1号としてニュースになったら嬉しいでしょ」
「いい気なもんだよな」
「明日なんて来なくていいのに」
 霊達は口々に言う。
「無関係な人間を巻き込むのはだめでしょう」
「知らんよ。元々人間なんて自分勝手だ。あいつらだって勝手だろう?うるさく騒いで」
「……だったら、僕も勝手を1つ。上に大事な人がいる。死なせたくない」
 突入して来た捜査員達も、音無も霊達も、「え?」という感じで、僕を見た。
 その隙に、直が札をきる。流石、直だ。
「あ――!」
 音無の持つリモコンのような物が、札で弾かれ、隔離された。
「ずるい!!」
 霊が怒った。
「いやあ、そう言われても」
 言いながら、その時には霊に肉薄し、刀を出している。そして、説得の暇も無いので、今回ばかりは即、斬る。
 呆然と、あるいはオロオロとする霊4体を斬るのは、瞬き1回の時間で十分だ。
「音無さん。ここまでです」
 言う僕の前で、音無は俯き、肩を震わせた。
 泣いているのかと思ったら、大声で笑い出す。
「え……」
 ほかの捜査員達も戸惑うように顔を見合わせた。
「残念だったねえ」
「何を……?」
「あのリモコンは、万が一の不具合のための保険だ。ちゃんと作動すれば、別に要らないものだ」
「ええーっ!?」
「ずるいねえ!?」
「残念だ。そして、謝っておこう。君の大事な人を道連れにする事を」
「――!!」
 上のステージから、声がする。
『ではいよいよ、カウントダウン、スタート!』
 どうする、どうする、どうする。困ったので、上を向いてみた。上……。
「誰か、奈落を開けて。直、パイプの穴を塞いでくれ」
「了解だねえ」
 捜査員の1人は、今回は使わないので閉めたままの奈落を開け始めた。
 僕はパイプを切断して外周にまわるエアをカットし、直が、そのタンク側の穴を札で塞ぐ。
「そんな事をしても、ここでの爆発は止められないよ」
 音無が言うのに、返す。
「要するに、威力の向きだろ」
『3』
「下がって」
『2』
「念のために伏せて」
『1』
「さあ、いこうか」
『ゼロ!』
 以前取り込んだ神の力を使い、真っすぐ上空に向けてタンクを囲むように竜巻を発生させる。一瞬遅れてタンクが爆発した。
「――!!」
 誰かが何かを叫んでいるようだが、わからない。
 爆発の炎は風と一体化して、巨大な火柱となって上空に向かって伸びた。
 炎が止んで、風も止める。
 歓声が聞こえた。
『ハッピーニューイヤー!』
『おめでとう!』
 初めての荒技に貧血を起こしたようになって、僕はそこでぶっ倒れた。
「怜、ちょっと、大丈夫かねえ!?」
「ああ、ちょっとふらつく……。
 それより、どうなった、直」
「タンクは爆発して、爆風は上空へ行ったねえ。何か、上空の雲に丸い穴が開いてるけど……まあ、気にしないでいいかねえ」
「いい、いい」
「あ、美里が」
 奈落から飛び降りて来たのを、直が札でサポートする。
 ほかの皆は呆然としていたが、我に返った捜査員が項垂れる音無を連行して行った。
「ここで待ってろ。いいな。医者を連れて来る」
 言い置いて、その捜査員も出て行った。
「危ないだろ」
「あんた達に言われたくないわ」
「ごもっとも」
「大丈夫なの?奈落が開いて、火柱が上がって、あんた達を見かけてたからどうせ事件だと思ってたけど、何?」
「無事なんだな、皆」
「ええ。火柱は演出だと思ってるし、紙吹雪もちゃんと出たし、大喜びよ」
「長い話になるから端折るが、今回、美里が死んだら嫌だなあと思った」
「は?」
「で、後悔しないように、言っておこうと決めた。今、決めたところだから、ええっと、上手く伝わるかな」
「……大丈夫なの、直?怜、頭打った?」
「貧血か酸欠気味ではあるかねえ」
「美里、好き」
「やっと言ったわね。私もよ」
『こっちもおめでとう!』
「あれ?あ!ピンマイク忘れてたわ!」
 僕と美里は呆然となり、直は笑い転げながら、
「いやあ、公開告白だねえ。おめでとう」
と言った。
「皆に説明しろとか言われる……面倒臭い……」
 歓声と、アレンジされたメンデルスゾーンの結婚行進曲が聞こえて来た。



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