体質が変わったので

JUN

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鬼の棲む家(1)幽霊の告発

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 机に戻って来て、僕は短く嘆息した。
 御崎 怜みさき れん。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師であり、新人警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「どうしたかねえ、怜」
 隣から、直が話しかけて来た。
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、新人警察官でもある。
「署長に会ったんだが、さり気なく、急かすんだよ。結婚」
「ああ。署長も、美里ファンだからねえ。仲人をやりたいんじゃないかねえ」
「そんな、具体的な事は決めてないのに……。
 直は?仲人頼むか?」
「え、ええー……」
 微妙な感じで、僕達は固まった。
 事故みたいなもので美里とのやりとりが全国放送の電波に乗ってしまい、それ以来、署内の美里ファンに恨まれたり泣かれたり、からかわれたり、顔を見に来られたりと、なかなか面倒臭い事になっていた。
 酸欠の勢いで、やってしまったとでもいうか。
 いや、そんな事を言ったら言ったで、袋叩きにあうかもしれない。
 逃げ場が見付からない。
「まあ、一時の事だねえ。我慢、我慢」
「はああ」
 強行犯係の部下達も、ニヤニヤと笑っている。
 しかし、入った電話が空気を変える。
「千代田区で女子中学生の遺体が発見されました」
「行こうか」
 僕達は、急いで部屋を出て行った。

 公園の一角に、規制線が張られていた。
 ビニールシートで覆われた現場は、鑑識係員と幹部しか入れない。ドラマのように、刑事は現場に入れない。どうかしたら、現場を生で見ることなく終わる事すらあるのだ。
 と、悄然と俯く人物が目に付いた。
「ん?宗か?」
 顔を上げる。
「あ、怜先輩」
 赤いすがりつくような目で、宗が立ち上がる。
 水無瀬宗みなせそう。高校時代、大学時代と1年下の後輩で、同じクラブの後輩でもあった。霊除けの札が無ければ撮った写真が悉く心霊写真になってしまうという変わった体質の持ち主だ。背が高くてガタイが良くて無口。迫力があるが、心優しく面倒見のいい男だ。
「お久しぶりです」
「ああ、久しぶり。どうした?被害者と知り合いか?」
 僕と宗の会話に、部下たちも興味を持っている。
「はい。亡くなった子は、教育実習先での教え子で、小石川笑子こいしかわしょうこと言います。家に問題があるとわかっていたのに、守れなかった……。自分は、教師になれません……」
 宗はがっくりと項垂れて、涙を流した。
「おい、宗。ちょっと落ち着け。な」
 言いながら、宗を気遣うように背後に浮かぶ霊を見た。
「このお嬢さんが小石川さんかな」
「は?いるんですか」
 宗が後ろを振り返り、益田さんはよろりと五日市さんに倒れかかって行った。
「初めまして、小石川笑子です」
 霊は丁寧にお辞儀をした。
「御崎 怜です。よろしく」
 なので、下げ返す。
「係長?そこに被害者がいるんですか?」
 益田さん以外が目を細めたりして何とか見ようとしているので、そうだったと、札を小石川さんに貼った。途端に、普通の女子中学生が現れる。
 まあ、首が握り潰されているが。
「小石川……!」
「先生。殺されちゃいました」
「君を殺した相手はわかりますか?」
「鬼?幽霊です」
 小石川さんがきっぱりと断言し、部下達は言葉を失って僕を見た。
「係長。幽霊を逮捕できるんですか?」
「これは……面倒臭い事になりそうだぞ」
 全員揃って、深く唸った。



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