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耳(2)続く事件
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被害者は議員秘書で、近くのコンビニへ歩いて行く途中だったらしい。医者の話によると、右耳をむしり取られたようになっていたそうだ。
「耳をむしり取るって、どうやるんだ?」
益田さんが言うので、
「イカのエンペラをむしり取るようにかな」
と言うと、五日市さんが、
「リアルに想像できるだけ、例えが怖い」
と耳を押さえた。
「でもそんな事、できるのか?犯人は中年の女だったんだろう?」
黒井さんが懐疑的な声を上げるが、それには皆、無言で唸る。
力的にも、できそうに思えない。
しかし、傷口の形状からしてもそう見えるという事だし、被害者も、耳を掴む指を感じ、次には痛みでしゃがみ込んでしまったが、刃物は目に入らなかったという。
「まさか、また幽霊なんじゃあ……」
大島さんが言うと、益田さんはチッと舌打ちをした。
「近くの防犯カメラのチェックを益田さんと下井さん、黒井さんと大島さんは付近の聞き込み、僕と桂さんで議員仲間や議員への聞き込み。よろしくお願いします」
「はい」
パッと散る。
僕と桂さんが休憩中の国会議事堂へ向かうと、SPに囲まれて歩く知人が、片手を上げた。
「よお!久しぶり!」
「総理!おひさしぶりです」
「あ、言う機会がなくて遅くなったけど、就職おめでとう。相棒の彼にも、よろしく言っておいてよ」
「はい。ありがとうございます」
「今日はまた、どうしたの。小耳にはさんだけど、耳の?」
「そうなんです。個人的か、雇い主の議員か政党かに、トラブルや恨みを持つ人がいなかったかと思って。
御存知ありませんか」
総理はううーんと考え、
「俺達は、どこでどう恨まれてるか、わからないからなあ。でもあいつんとこは、良くも悪くも普通でパッとしない議員だしねえ」
辛辣だ。
「党首は行き当たりばったりでギャンギャン吠えて聞こえのいい公約を並べ立ててるだけのやつだし、どっちかといえば、まだそっちじゃねえのかな。
でも、それだと、秘書よりも議員を狙うのかな?
わからん。話を聞きたくても会えないとかだったら、俺に言えよ。今回だけじゃなく」
「はい。ありがとうございます。
まあ、本人の人となりとか、聞いてみます」
手を振って歩いて行く総理を見送って、ふと僕はそばで突っ立っている桂さんを見た。
「どうかしましたか?行きましょうか」
桂さんは嘆息した。
「友達ですか?」
「何度か心霊関係でお会いした事があるだけだよ。あの人、気さくだから」
「……もう、いいです」
「ん?」
「行きましょう」
僕達は聞き込みを開始すべく、歩き出した。
しかし、被害者の事を聞くと、皆口を揃えて「いい人」「目立たないで大人しい人」「普通」と言う。そして議員も、総理の言う通り、「パッとしない」「あの人当選したんだっけ」というもので、恨まれる程に活動できていないようだった。
付近のカメラを調べたが、それらしい人物は映っていない。
おかしなことに、犯人は、現場へ至る道のどのカメラにも映っていないのだ。
「マジで、幽霊なんじゃないですか」
五日市さんが、益田さんの顔色を窺いながら言う。
「まあ、これだけじゃあ言い切れないが、可能性としては高いね。耳を引きちぎった事とかからも」
益田さんはそう言う僕を嫌そうに見て、「チッ」と舌打ちすると顔をそむけた。
「益田。犯人確保の時は、後ろにいてていいからな」
優しく黒井さんに言われ、益田さんは何か言いたそうにしてから、ガクーッと下を向いた。
と、そこへその一報が入る。2人目の被害者が出たという。
帰宅途中、電柱の陰に中年の女性が立っていたそうだ。それでその前を何も思わず通って行こうとしたら、不意に女が右耳をグイッと掴んできて、何だ何だと思った次の瞬間には転げまわるほど耳の付け根が痛くなって、地面から仰ぎ見ると、もういなかったらしい。
「益田。諦めろ。これは間違いなく、幽霊だ」
益田さんの肩をポンと叩いて黒井さんが言うと、益田さんは青い顔で倒れそうになっていた。
「耳をむしり取るって、どうやるんだ?」
益田さんが言うので、
「イカのエンペラをむしり取るようにかな」
と言うと、五日市さんが、
「リアルに想像できるだけ、例えが怖い」
と耳を押さえた。
「でもそんな事、できるのか?犯人は中年の女だったんだろう?」
黒井さんが懐疑的な声を上げるが、それには皆、無言で唸る。
力的にも、できそうに思えない。
しかし、傷口の形状からしてもそう見えるという事だし、被害者も、耳を掴む指を感じ、次には痛みでしゃがみ込んでしまったが、刃物は目に入らなかったという。
「まさか、また幽霊なんじゃあ……」
大島さんが言うと、益田さんはチッと舌打ちをした。
「近くの防犯カメラのチェックを益田さんと下井さん、黒井さんと大島さんは付近の聞き込み、僕と桂さんで議員仲間や議員への聞き込み。よろしくお願いします」
「はい」
パッと散る。
僕と桂さんが休憩中の国会議事堂へ向かうと、SPに囲まれて歩く知人が、片手を上げた。
「よお!久しぶり!」
「総理!おひさしぶりです」
「あ、言う機会がなくて遅くなったけど、就職おめでとう。相棒の彼にも、よろしく言っておいてよ」
「はい。ありがとうございます」
「今日はまた、どうしたの。小耳にはさんだけど、耳の?」
「そうなんです。個人的か、雇い主の議員か政党かに、トラブルや恨みを持つ人がいなかったかと思って。
御存知ありませんか」
総理はううーんと考え、
「俺達は、どこでどう恨まれてるか、わからないからなあ。でもあいつんとこは、良くも悪くも普通でパッとしない議員だしねえ」
辛辣だ。
「党首は行き当たりばったりでギャンギャン吠えて聞こえのいい公約を並べ立ててるだけのやつだし、どっちかといえば、まだそっちじゃねえのかな。
でも、それだと、秘書よりも議員を狙うのかな?
わからん。話を聞きたくても会えないとかだったら、俺に言えよ。今回だけじゃなく」
「はい。ありがとうございます。
まあ、本人の人となりとか、聞いてみます」
手を振って歩いて行く総理を見送って、ふと僕はそばで突っ立っている桂さんを見た。
「どうかしましたか?行きましょうか」
桂さんは嘆息した。
「友達ですか?」
「何度か心霊関係でお会いした事があるだけだよ。あの人、気さくだから」
「……もう、いいです」
「ん?」
「行きましょう」
僕達は聞き込みを開始すべく、歩き出した。
しかし、被害者の事を聞くと、皆口を揃えて「いい人」「目立たないで大人しい人」「普通」と言う。そして議員も、総理の言う通り、「パッとしない」「あの人当選したんだっけ」というもので、恨まれる程に活動できていないようだった。
付近のカメラを調べたが、それらしい人物は映っていない。
おかしなことに、犯人は、現場へ至る道のどのカメラにも映っていないのだ。
「マジで、幽霊なんじゃないですか」
五日市さんが、益田さんの顔色を窺いながら言う。
「まあ、これだけじゃあ言い切れないが、可能性としては高いね。耳を引きちぎった事とかからも」
益田さんはそう言う僕を嫌そうに見て、「チッ」と舌打ちすると顔をそむけた。
「益田。犯人確保の時は、後ろにいてていいからな」
優しく黒井さんに言われ、益田さんは何か言いたそうにしてから、ガクーッと下を向いた。
と、そこへその一報が入る。2人目の被害者が出たという。
帰宅途中、電柱の陰に中年の女性が立っていたそうだ。それでその前を何も思わず通って行こうとしたら、不意に女が右耳をグイッと掴んできて、何だ何だと思った次の瞬間には転げまわるほど耳の付け根が痛くなって、地面から仰ぎ見ると、もういなかったらしい。
「益田。諦めろ。これは間違いなく、幽霊だ」
益田さんの肩をポンと叩いて黒井さんが言うと、益田さんは青い顔で倒れそうになっていた。
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