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耳(3)命名、耳もぎ女
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被害者2人を比較する。
どちらも男性で、年齢は40歳と26歳。現場は国会議事堂周辺。時間帯は最初が昼で、2番目は午後9時。最初の被害者は政策秘書で、2番目の被害者は個人秘書。中堅議員の息子で、今は修行中らしい。
中年女性を目撃し、耳を掴まれた次の瞬間には耳が引きちぎられている。
所属政党は2人共違う。
「何だろうなあ」
僕は寝ないで済むので、夜、議事堂周辺を1人で歩いていた。
最後の灯りが消えるまでは歩こう。そう思って歩いているのだが、それらしい人影もない。
「どっちも右耳か」
右耳が聞こえないとか?
考えながら、4周目に入った時だった。ザワリとした気配がして、僕は急いでそちらに走った。
角を曲がって目に飛び込んだのは、右耳を押さえる若い男と、彼を凝視する女の霊だった。
霊は、
違う
と言うや、フッと消えた。
「え……何?え?」
男はキョロキョロと辺りを見廻すが、もうここに霊はいない。
「大丈夫ですか。警察の者です」
バッジを見せながら、耳を見る。両方、付いていた。耳たぶは厚く、ピアスの穴が残っている。
「お話を伺っても?」
「ああ、はい。今、いつの間にか女が目の前に立っていて、そんな人いたかなあとか思いながらすれ違おうとしたら、いきなり耳を掴んできて。
ギョッとしたんだけど、ポイッって感じで手を離して、『違う』とか言って、いきなり消えて。
今、『違う』って言って消える所、見たよね?オレ、おかしくないよね?」
男は興奮しながら、同意を求める。
「見ました。
名前、年齢、職業もお伺いしたいので、お手数ですが、署までご足労願えませんか」
見た目はやんちゃそうだが、1人でいるのも怖いのか、うんうんとせわしなく頷いて、カップルかというくらいくっついてキョロキョロとしながら歩き出した。
翌朝、集合した皆の反応は様々だった。
桂さんは
「何1人でしてるんですか!もし耳もぎ女が現れたら危ないでしょう!?」
と怒り、黒井さんは、
「耳もぎ女か。それで行こう。
ていうか、係長に、今更だな」
と肩を竦め、
「いや、むしろ、係長こそが専門家?」
と下井さんが首を傾げ、
「幽霊は、追いかけても追いつけないし、捕まえても逃げられるし、俺には困る相手だな」
と大島さんは悲しそうに言い、
「僕も、宿直してたら係長が男と腕組んで帰って来て驚いて、話を聞いて更に驚きましたよ」
と大島さんが言い、
「嫌だ。有給取りたい。熱があるんじゃないか。そう、お祖母ちゃんの法事っていつだ」
と益田さんは青い顔でぶつぶつ言いながら頭を抱えている。
「いやあ、まあ、暇だったんで……」
「暇!?」
「まあまあ」
桂さんを下井さんが宥め、僕はさっさと話題を変える事にした。
「それよりもその耳もぎ女だ。昨日は『違う』と言って、取らずに消えたんだ。
つまり、今回と前の2件とに、何か違いがあるという事になる」
各々、データを見ながら唸って考える。
「まず、狙っているのは男だな」
益田さんが立ち直った。
「年齢は関係ないのかな。40と26と30だし」
「職業は、政策秘書と個人秘書、昨日も個人秘書ですね」
「政党も見事にバラバラで、主義主張もバラバラですしね」
桂さんも、説教は忘れたようだ。
「耳、そのものはどうなんだろうな」
黒井さんが言って、皆、キョトンとする。
「だって、『違う』だろ?何が、耳が、だろ?」
「耳が違う……?
あ、昨日の人は、ピアスの穴があった」
僕が思い出すと、桂さんが、
「前の2人はしていませんでしたね」
と言い、下井さんは、
「3人共、福耳じゃないか?」
と言い出す。
それで、被害者の仮説を立てた。福耳で、議員秘書か国会議事堂に出入りする男だ。
「その条件に合う人を探そう」
僕達は、国会議事堂へ急いだ。
どちらも男性で、年齢は40歳と26歳。現場は国会議事堂周辺。時間帯は最初が昼で、2番目は午後9時。最初の被害者は政策秘書で、2番目の被害者は個人秘書。中堅議員の息子で、今は修行中らしい。
中年女性を目撃し、耳を掴まれた次の瞬間には耳が引きちぎられている。
所属政党は2人共違う。
「何だろうなあ」
僕は寝ないで済むので、夜、議事堂周辺を1人で歩いていた。
最後の灯りが消えるまでは歩こう。そう思って歩いているのだが、それらしい人影もない。
「どっちも右耳か」
右耳が聞こえないとか?
考えながら、4周目に入った時だった。ザワリとした気配がして、僕は急いでそちらに走った。
角を曲がって目に飛び込んだのは、右耳を押さえる若い男と、彼を凝視する女の霊だった。
霊は、
違う
と言うや、フッと消えた。
「え……何?え?」
男はキョロキョロと辺りを見廻すが、もうここに霊はいない。
「大丈夫ですか。警察の者です」
バッジを見せながら、耳を見る。両方、付いていた。耳たぶは厚く、ピアスの穴が残っている。
「お話を伺っても?」
「ああ、はい。今、いつの間にか女が目の前に立っていて、そんな人いたかなあとか思いながらすれ違おうとしたら、いきなり耳を掴んできて。
ギョッとしたんだけど、ポイッって感じで手を離して、『違う』とか言って、いきなり消えて。
今、『違う』って言って消える所、見たよね?オレ、おかしくないよね?」
男は興奮しながら、同意を求める。
「見ました。
名前、年齢、職業もお伺いしたいので、お手数ですが、署までご足労願えませんか」
見た目はやんちゃそうだが、1人でいるのも怖いのか、うんうんとせわしなく頷いて、カップルかというくらいくっついてキョロキョロとしながら歩き出した。
翌朝、集合した皆の反応は様々だった。
桂さんは
「何1人でしてるんですか!もし耳もぎ女が現れたら危ないでしょう!?」
と怒り、黒井さんは、
「耳もぎ女か。それで行こう。
ていうか、係長に、今更だな」
と肩を竦め、
「いや、むしろ、係長こそが専門家?」
と下井さんが首を傾げ、
「幽霊は、追いかけても追いつけないし、捕まえても逃げられるし、俺には困る相手だな」
と大島さんは悲しそうに言い、
「僕も、宿直してたら係長が男と腕組んで帰って来て驚いて、話を聞いて更に驚きましたよ」
と大島さんが言い、
「嫌だ。有給取りたい。熱があるんじゃないか。そう、お祖母ちゃんの法事っていつだ」
と益田さんは青い顔でぶつぶつ言いながら頭を抱えている。
「いやあ、まあ、暇だったんで……」
「暇!?」
「まあまあ」
桂さんを下井さんが宥め、僕はさっさと話題を変える事にした。
「それよりもその耳もぎ女だ。昨日は『違う』と言って、取らずに消えたんだ。
つまり、今回と前の2件とに、何か違いがあるという事になる」
各々、データを見ながら唸って考える。
「まず、狙っているのは男だな」
益田さんが立ち直った。
「年齢は関係ないのかな。40と26と30だし」
「職業は、政策秘書と個人秘書、昨日も個人秘書ですね」
「政党も見事にバラバラで、主義主張もバラバラですしね」
桂さんも、説教は忘れたようだ。
「耳、そのものはどうなんだろうな」
黒井さんが言って、皆、キョトンとする。
「だって、『違う』だろ?何が、耳が、だろ?」
「耳が違う……?
あ、昨日の人は、ピアスの穴があった」
僕が思い出すと、桂さんが、
「前の2人はしていませんでしたね」
と言い、下井さんは、
「3人共、福耳じゃないか?」
と言い出す。
それで、被害者の仮説を立てた。福耳で、議員秘書か国会議事堂に出入りする男だ。
「その条件に合う人を探そう」
僕達は、国会議事堂へ急いだ。
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