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幽霊屋敷(1)律儀な幽霊
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冷たいお茶を冷蔵庫から出して各々の前に置き、弁当箱を開ける。カニカマときゅうりとサラスパのサラダ、ブロッコリー、うずら卵とプチトマトをつまようじに刺したもの、ささ身チーズカツ、人参しりしりをギョーザの皮のカップに入れたもの、ホーレンソウの薄焼き卵巻き、さつま芋のレモン煮、カリカリ梅と青じそのごはん。
ギョーザの皮を容器に器型にして入れ、レンジに20秒もかけると、そのままの形で固くなり、食べられる器になるのだ。
「おお。今日もまた、美味そうな」
僕の弁当箱を覗き込んで、智史が言う。
郷田智史。いつも髪をキレイにセットし、モテたい、彼女が欲しいと言っている。実家は滋賀でホテルを経営しており、兄は経営面、智史は法律面からそれをサポートしつつ弁護士をしようと、法学部へ進学したらしい。
夏休みは実家に帰っていたが、こきつかわれていたとぼやいていた。
「相変わらず、まめだねえ」
南雲 真。1つ年上の先輩で、父親は推理作家の南雲 豊氏、母親は不動産会社社長だ。おっとりとした感じのする人で、怪談は好きなのでオカルト研究会へ入ってみたらしいのだが、合わなかったから辞めたようだ。
「えへへ。早く甥にも作ってやりたいんですけどね」
御崎 怜、大学3年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
また、無眠者という世界でも珍しい体質で、1週間に3時間程寝るだけで済むので、夜の間、暇なのだ。今はそれが甥の敬が夜に起きて泣いたりした時に面倒を見るのにぴったりで、我が家では、兄も姉も睡眠不足知らずだ。
「いいなあ、敬。味覚は小さい頃に何を食べたかによって決まるとか言うよねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
「俺もちょっとは自炊の練習をしてくるべきやったわ」
「家庭科の調理実習ですら女子任せだったから、自分も自炊だったら、困ってたクチですね」
水無瀬宗。高校時代の1年下の後輩で、同じクラブの後輩でもあった。霊除けの札が無ければ撮った写真が悉く心霊写真になってしまうという変わった体質の持ち主だ。背が高くてガタイが良くて無口。迫力があるが、心優しく面倒見のいい男だ。
「ぼくもだなあ。お母さんに感謝しないと。
でも、敬君がうらやましい」
楓太郎が言った。
高槻楓太郎。高校時代の1年下の後輩で、同じクラブの後輩でもあった。小柄で表情が豊かな、マメシバを連想させるようなタイプだ。
「ボクも自炊だったら、毎日素麺か怜の家に行くかもしれないねえ」
直も言いながら、笑う。
これが、心霊研究部のメンバーである。
昼は部室で集まる事が多く、各々お弁当を準備してくるのだ。真先輩と智史以外は自宅通学なのと、学食は混んでいるので部室が楽なのとで、こうなった。
「ぼくは1人とはいえ、宅配のお弁当だからね。レンジで温めるだけ。レトルトとインスタントラーメン専門だなあ」
真先輩はあははと笑い、続けた。
「そうそう。うちの仲介した物件で今トラブルがあってね。幽霊が出るって急に言い出したんだよ。怜と直に頼もうと思ってたんだけど、皆で行かないか」
真先輩が言い出した。
「幽霊ですか」
「うん。この前までそんな話はなかったのに、いきなりなんだ。それも、土曜日の夜限定で」
「変なやつやなあ。嘘っぽいで」
「うん。でもまあ一応、本当にいるのかどうか、視て欲しいんだけど」
「わかりました。次の土曜日に」
そして僕達は、幽霊屋敷に行く事になったのだった。
問題の家は郊外にあり、老婆が1人で住んでいたのだが、冬に亡くなったそうだ。そして遺産相続の為に売る事になり、真先輩のお母さんの会社が買って、別の人に売ったものだ。
行ったはいいが、視たところ、幽霊がいる様子はない。確かに近くには封じられたものはいるが、封じられていて、これが出たとは考えにくい。
「おかしいな」
「うん。これは心因性とか気のせいかねえ」
コソッと、相談する。
住人である村木さん夫妻は怯えていて、とても、面白半分のデマなどではなさそうだ。
「血の手形が付いてたり、白い着物の幽霊が空を飛んだりするんですよ」
「手形ですか」
「門の所に。でも、すぐに消えて」
「それに、前の林の中を、幽霊が凄い速さで横切るんですよ。こう、すうーっと真っすぐ」
夫妻は行って、肩を抱いた。
「手形と、飛ぶ幽霊ですか」
今の所、何も起こらない。
「まあ、夜を待ってみましょう」
僕達は、庭に面したリビングで待つ事になった。
辺りは暗くなり、近くに民家の無いこの辺りは、人通りも完全に絶える。
と、ピーンポーンとドアチャイムが鳴り、夫妻は飛び上がった。
「さあて」
僕達は、門を確認しに行った。
ギョーザの皮を容器に器型にして入れ、レンジに20秒もかけると、そのままの形で固くなり、食べられる器になるのだ。
「おお。今日もまた、美味そうな」
僕の弁当箱を覗き込んで、智史が言う。
郷田智史。いつも髪をキレイにセットし、モテたい、彼女が欲しいと言っている。実家は滋賀でホテルを経営しており、兄は経営面、智史は法律面からそれをサポートしつつ弁護士をしようと、法学部へ進学したらしい。
夏休みは実家に帰っていたが、こきつかわれていたとぼやいていた。
「相変わらず、まめだねえ」
南雲 真。1つ年上の先輩で、父親は推理作家の南雲 豊氏、母親は不動産会社社長だ。おっとりとした感じのする人で、怪談は好きなのでオカルト研究会へ入ってみたらしいのだが、合わなかったから辞めたようだ。
「えへへ。早く甥にも作ってやりたいんですけどね」
御崎 怜、大学3年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
また、無眠者という世界でも珍しい体質で、1週間に3時間程寝るだけで済むので、夜の間、暇なのだ。今はそれが甥の敬が夜に起きて泣いたりした時に面倒を見るのにぴったりで、我が家では、兄も姉も睡眠不足知らずだ。
「いいなあ、敬。味覚は小さい頃に何を食べたかによって決まるとか言うよねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
「俺もちょっとは自炊の練習をしてくるべきやったわ」
「家庭科の調理実習ですら女子任せだったから、自分も自炊だったら、困ってたクチですね」
水無瀬宗。高校時代の1年下の後輩で、同じクラブの後輩でもあった。霊除けの札が無ければ撮った写真が悉く心霊写真になってしまうという変わった体質の持ち主だ。背が高くてガタイが良くて無口。迫力があるが、心優しく面倒見のいい男だ。
「ぼくもだなあ。お母さんに感謝しないと。
でも、敬君がうらやましい」
楓太郎が言った。
高槻楓太郎。高校時代の1年下の後輩で、同じクラブの後輩でもあった。小柄で表情が豊かな、マメシバを連想させるようなタイプだ。
「ボクも自炊だったら、毎日素麺か怜の家に行くかもしれないねえ」
直も言いながら、笑う。
これが、心霊研究部のメンバーである。
昼は部室で集まる事が多く、各々お弁当を準備してくるのだ。真先輩と智史以外は自宅通学なのと、学食は混んでいるので部室が楽なのとで、こうなった。
「ぼくは1人とはいえ、宅配のお弁当だからね。レンジで温めるだけ。レトルトとインスタントラーメン専門だなあ」
真先輩はあははと笑い、続けた。
「そうそう。うちの仲介した物件で今トラブルがあってね。幽霊が出るって急に言い出したんだよ。怜と直に頼もうと思ってたんだけど、皆で行かないか」
真先輩が言い出した。
「幽霊ですか」
「うん。この前までそんな話はなかったのに、いきなりなんだ。それも、土曜日の夜限定で」
「変なやつやなあ。嘘っぽいで」
「うん。でもまあ一応、本当にいるのかどうか、視て欲しいんだけど」
「わかりました。次の土曜日に」
そして僕達は、幽霊屋敷に行く事になったのだった。
問題の家は郊外にあり、老婆が1人で住んでいたのだが、冬に亡くなったそうだ。そして遺産相続の為に売る事になり、真先輩のお母さんの会社が買って、別の人に売ったものだ。
行ったはいいが、視たところ、幽霊がいる様子はない。確かに近くには封じられたものはいるが、封じられていて、これが出たとは考えにくい。
「おかしいな」
「うん。これは心因性とか気のせいかねえ」
コソッと、相談する。
住人である村木さん夫妻は怯えていて、とても、面白半分のデマなどではなさそうだ。
「血の手形が付いてたり、白い着物の幽霊が空を飛んだりするんですよ」
「手形ですか」
「門の所に。でも、すぐに消えて」
「それに、前の林の中を、幽霊が凄い速さで横切るんですよ。こう、すうーっと真っすぐ」
夫妻は行って、肩を抱いた。
「手形と、飛ぶ幽霊ですか」
今の所、何も起こらない。
「まあ、夜を待ってみましょう」
僕達は、庭に面したリビングで待つ事になった。
辺りは暗くなり、近くに民家の無いこの辺りは、人通りも完全に絶える。
と、ピーンポーンとドアチャイムが鳴り、夫妻は飛び上がった。
「さあて」
僕達は、門を確認しに行った。
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