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ついてくる(3)証拠品
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直が、密かに札を準備する。
持田さん夫婦は気配を強めながら、言い募った。
「後ろから来た車にあおられましてね。横に付けられて、ガードレールから押し出すようにして崖下に落とされたんですよ」
話が違うぞ。
「単独事故ではなかったんですか」
「違う。他に通りかかる車も無かったから目撃者もいないし、防犯カメラも無いから、本人しか言えないがね。その本人も、片方はこの通り。もう片方は、逃げてそれっきりだよ。助けを呼ばないどころか、止まりもせずに行ったよ。
おかげで家内は、動けないまま、しばらく苦しんで亡くなる羽目になった。私も辛うじて生きてはいたが、動けないし声も出ないしで、どうする事も出来なかった」
苦しそうに顔を歪めて男性は言い、女性は目元をハンカチで押さえた。
「そうだったんですかあ……」
「まさか、そういう事故だったとは……」
想像するだに、気の毒だ。
「でも今は、何を」
「煽って来る車は、許せない」
「だから、煽り返しているんですか」
「他に、何ができると言うんだ?」
持田さん夫婦は、怒りを滲ませる。
直に合図をすると、直が可視化の札をきった。
「おお」
皆が、急に見えた車と持田さん夫婦に、軽く驚く。
「こちらは、田ノ倉さん。田ノ倉旅館の息子さんです」
「あ、はじめまして。ご予約ありがとうございます」
田ノ倉さんは丁寧に頭を下げた。
「いえ、こちらこそ」
「とても素敵な旅館ですわね」
「ありがとうございます」
持田さん夫婦は、にこにことしている。
「その田ノ倉旅館が、経営のピンチなんです。ここに来ると、霊の車に追いかけられて事故に遭うという噂が流れてしまって」
僕が言うと、持田さん夫婦は、衝撃を受けたようにのけぞった。
「これは、とんだご迷惑を……。
しかしこのままでは、私共も腹の虫が……」
持田さん夫婦は悩んでいるようだったし、僕達も、何か手は無いかと考えた。
「煽られた末の事故っていう証拠があればいいんだけどねえ」
「ドライブレコーダーとか、付けてはらへんかったんですか」
持田さん夫婦は、揃って顔を横に振った。
「スマホで動画を撮ってたりはしませんでしたか」
宗が訊く。
「スマホ……撮ってたわね。でも、事故の時にどこかに飛んでしまったわ」
「警察に発見されていないかも知れない。見つけて提出すれば、事件として捜査されるんじゃないかな」
真先輩が言って、僕達は一斉に10メートルほどの崖下に降りて、スマホ探しを始めた。
暗くなり始めた頃、そこから30メートルは離れた所に飛んで行っていたスマホを、田ノ倉さんが見つけた。
「あった!!」
勿論、電池は切れている。後は、水濡れや衝撃での故障の心配だ。
「大丈夫ですよ。故障していても、中のデータが残っていないとは限りませんから。販売店……いや、直接警察に持って行った方が早いのかな」
宗が言うのに、楓太郎が勢い込んで同意した。
「行きましょう、今から。ね、先輩」
「そうだな。うん。
というわけですから、持田さん。とにかく、煽り返しは中止して下さい。いいですね。同じような目に遭って悲しむ人を出す事は、良しとしないでしょう?」
「……わかった」
「では、警察の方はよろしくお願いします」
持田夫婦は揃って頭を下げ、消えて行った。
「じゃあ、行こうか」
僕達は、えっちらおっちらと、崖をよじ登り始めた。
持田さん夫婦は気配を強めながら、言い募った。
「後ろから来た車にあおられましてね。横に付けられて、ガードレールから押し出すようにして崖下に落とされたんですよ」
話が違うぞ。
「単独事故ではなかったんですか」
「違う。他に通りかかる車も無かったから目撃者もいないし、防犯カメラも無いから、本人しか言えないがね。その本人も、片方はこの通り。もう片方は、逃げてそれっきりだよ。助けを呼ばないどころか、止まりもせずに行ったよ。
おかげで家内は、動けないまま、しばらく苦しんで亡くなる羽目になった。私も辛うじて生きてはいたが、動けないし声も出ないしで、どうする事も出来なかった」
苦しそうに顔を歪めて男性は言い、女性は目元をハンカチで押さえた。
「そうだったんですかあ……」
「まさか、そういう事故だったとは……」
想像するだに、気の毒だ。
「でも今は、何を」
「煽って来る車は、許せない」
「だから、煽り返しているんですか」
「他に、何ができると言うんだ?」
持田さん夫婦は、怒りを滲ませる。
直に合図をすると、直が可視化の札をきった。
「おお」
皆が、急に見えた車と持田さん夫婦に、軽く驚く。
「こちらは、田ノ倉さん。田ノ倉旅館の息子さんです」
「あ、はじめまして。ご予約ありがとうございます」
田ノ倉さんは丁寧に頭を下げた。
「いえ、こちらこそ」
「とても素敵な旅館ですわね」
「ありがとうございます」
持田さん夫婦は、にこにことしている。
「その田ノ倉旅館が、経営のピンチなんです。ここに来ると、霊の車に追いかけられて事故に遭うという噂が流れてしまって」
僕が言うと、持田さん夫婦は、衝撃を受けたようにのけぞった。
「これは、とんだご迷惑を……。
しかしこのままでは、私共も腹の虫が……」
持田さん夫婦は悩んでいるようだったし、僕達も、何か手は無いかと考えた。
「煽られた末の事故っていう証拠があればいいんだけどねえ」
「ドライブレコーダーとか、付けてはらへんかったんですか」
持田さん夫婦は、揃って顔を横に振った。
「スマホで動画を撮ってたりはしませんでしたか」
宗が訊く。
「スマホ……撮ってたわね。でも、事故の時にどこかに飛んでしまったわ」
「警察に発見されていないかも知れない。見つけて提出すれば、事件として捜査されるんじゃないかな」
真先輩が言って、僕達は一斉に10メートルほどの崖下に降りて、スマホ探しを始めた。
暗くなり始めた頃、そこから30メートルは離れた所に飛んで行っていたスマホを、田ノ倉さんが見つけた。
「あった!!」
勿論、電池は切れている。後は、水濡れや衝撃での故障の心配だ。
「大丈夫ですよ。故障していても、中のデータが残っていないとは限りませんから。販売店……いや、直接警察に持って行った方が早いのかな」
宗が言うのに、楓太郎が勢い込んで同意した。
「行きましょう、今から。ね、先輩」
「そうだな。うん。
というわけですから、持田さん。とにかく、煽り返しは中止して下さい。いいですね。同じような目に遭って悲しむ人を出す事は、良しとしないでしょう?」
「……わかった」
「では、警察の方はよろしくお願いします」
持田夫婦は揃って頭を下げ、消えて行った。
「じゃあ、行こうか」
僕達は、えっちらおっちらと、崖をよじ登り始めた。
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