体質が変わったので

JUN

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ここにいる(3)隠された死

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 協会経由で調べた結果、前の所有者に問題は無さそうだった。車を懸賞で当てて、少し乗ったものの、結婚が決まったので相手との話し合いで手放す事になったらしく、何の瑕疵もない。
 懸賞でこんなものが当たるというのが羨ましい。年賀ハガキのお年玉切手シートですら、なかなか当たらないのに……。
 それはとにかく、車そのものには、原因はなさそうだった。
「拾ったかな。でも、憑いてないんだよなあ、別に」
「やっぱり、隣の車とかじゃないかねえ。トランクとかエンジンルームとかに入り込んだ動物がいるんじゃ」
「それで出られなくて、ここにいる、出してくれ、か」
 直と話しながら、先生の家に報告に向かっていた。
 マンション裏の月極駐車場の前に差し掛かる。
「あれだな、先生の車」
 アスファルトの舗装も新しい駐車場で、止められる台数は20台程度か。先生の車は奥から3分の1程度の所にあった。先生の車の奥側は空いていて、手前側には、白いセダンが止めてあった。大分乗ってないのか、埃がついている。
 近寄って、見てみた。

   ここにいる。出たい。出してくれ。

 声がした。隣ではない。これは、車の下か?
 しゃがみ込んだ。が、何もない。
「いや、違う」
 声は、気配は、確かにする。車の真下、地面の下から。
「徳川さんに連絡しよう」
 セミの声が降り注ぐ中、僕は陰陽課の電話番号を呼び出した。
 1時間もした頃、色々な書類を用意し、不安そうな駐車場のオーナーや先生の立会いの下、そこを掘り返し始めた。
 まずは表面のアスファルトを割ってはがし、掘る。
 どのくらい掘っただろうか。毛布に包まれた長細い何かと、それを囲むようにびっしりと埋まるセミの幼虫が出て来たのは。
「うっ」
「硬いアスファルトじゃセミも出て来れないわなあ」
 気持ち悪さに1歩後ずさる横で、ポツンとオーナーが言った。
 捜査員達は長細い包みを慎重に開け、緊張した顔つきのまま、合掌した。
「え、何?」
「ご遺体だと思いますよ」
 オーナーは、腰を抜かしそうになっていた。

 数日後、後日談を聞いた。
 あそこに駐車場を作ったのはこの春らしい。もともとあそこには古い家があり、お爺さんが1人で暮らしていたらしいのだが、7年前から行方不明になっており、冬に死亡届が出され、息子であるオーナーが相続してあそこを駐車場にしたらしい。
 出て来たご遺体は、その行方不明のお爺さんだった。
 ご遺体の頭蓋骨には鈍器で殴られた骨折が見られ、握り込んだ手に中にあったイヤリングから当時出入りしていた知人女性を取り調べたところ、ヒモであった男と共謀して被害者を殺害して金品を奪い、遺体を庭に埋めた事を認めたらしい。
「お爺さん、あそこに埋められて、気付かれないままアスファルトで舗装されたんだな」
 大量のセミの幼虫と一緒に埋まっていたのを思い出すと、気持ち悪い。
「人間はともかく、このアスファルトの下に、あんなふうにセミが埋まってて、出て来られないんじゃないかとか思ったら……気持ちが悪いねえ」
「ううっ。セミの怨念が聞こえて来そう……」
 僕と直は、思わず足元を見た。
 何の変哲もない、アスファルトの道路。
 セミの声が、頭上からだけでなく、足元からも聞こえてくるような気がした。












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