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ここにいる(2)増える手形
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先生の車は中古のパジェロミニだが、きれいで、走行距離もそれほど行ってない。新車みたいだ。
そこに、昨日は何も感じなかったのだが、「ここにいる、出たい」という思念と、下の方に、赤い手形が付いていた。
「昨日、あれから何かありましたか?」
「特には……。ここへ迎えに来て、病院に行って、帰りにスーパーへ寄って買い物をして、ここへ送って来て、家へ帰っただけだなあ。
車を降りた時は気付かなかったけど、朝見かけたらたらこれに気付いてな」
「京香さんがいる間は少なくとも異常は無かったんじゃないかな」
「そうだよねえ。気付かないわけがないもんねえ」
直も同意する。
とすれば、ここから先生の家までか、止めている間か。
「隣の車が変だったとか?」
「いや?片方は出かけたままで空いてたし、もう片方は普通のセダンだよ」
「駐車場で、事故とか聞いた事はありますか」
「ないなあ」
「何だろう。悪意は感じられないし、とりあえず祓っておいて、お守りの札で事故予防しておけばいいかな。その間にもう少し調べてみて」
「そうだねえ。札、こんなもんかねえ」
さらさらと直が書き始める間に、僕は、思念を祓っておく。
「また手形がつくかもしれないけど、それで事故とかは無い筈だから、そんなに心配はしないで下さい」
「わかった。ありがとうな、2人とも。
ついでだ。予備校まで送るぞ」
「やった!」
「ありがとうございます!」
僕と直は、嬉々として、カバンを抱えて後部座席に乗り込んだ。
クーラーの効いた車内は、飾り気もなく、余計な匂いもなく、先生のカバンと、道具類を入れたと思しきプラスチックケースが積まれているだけだ。
そして新たに、直のお札がペタリと貼られた。
「中にある荷物類にも異常はないな。思念は外側みたいだしな」
「何だろうねえ」
「まあ、事故予防できたらとりあえずはいいよ。
それより、どうだ?受験勉強は進んでるか?」
先生が急に教師らしい事を言い出した。
「んん、まあまあ、かな?」
「ねえ?」
よくわからない。
「クラブの方も、落ち着いたみたいだな。合宿も、何か今年は普通に終わったみたいだぞ」
「本来はそうですしね」
「これまでが、変だったんだよねえ」
「そうだよな」
雑談をしているうちに予備校まで着き、車を降りる。
「ああ。セミが凄いなあ」
耳に痛いくらいに大合唱が聞こえる。
「何年も土の下で、外に出たら人生終盤。どうなんだろうな」
「土の下でジッとしてるのも辛そうだけど、出て来るのも一苦労だよねえ」
「出て来られずに終わったセミも、いるんだろうなあ」
3人でそんな事を言いながらしばらくセミの声を聞いていたが、暑くなってきたので、我に返った。
「送って下さって、ありがとうございました」
「いや、こちらこそありがとうな」
「また明日、どうだったか聞かせてください。それと、何かあったらいつでも電話して下さい」
「わかった。じゃあ、勉強しっかりな」
先生は言って、車をスタートさせた。
僕と直はそれを見送ってビルの中に入りながら、今後について相談する。
「まあ一応、前の所有者が事故を起こしてないかは調べるにしても、ないだろうな」
「ここにいるって、何だろうねえ?」
「監禁?遭難?
あ。前の所有者、事故でなくとも、災害とかレジャーで遭難したとかじゃないだろうな」
「ああ。それなら、ここにいる、もわかるねえ」
「でも、なあ」
「うん。ずーっと思念がついているわけじゃないんだよねえ」
「変だよなあ」
唸りながら歩いていたが、すれ違った生徒が、監禁と聞いてギョッとしていた。
翌朝、どうなったか気になっていたら、先生から電話があった。
「手形が2つついてたよ」
増えたらしかった。
そこに、昨日は何も感じなかったのだが、「ここにいる、出たい」という思念と、下の方に、赤い手形が付いていた。
「昨日、あれから何かありましたか?」
「特には……。ここへ迎えに来て、病院に行って、帰りにスーパーへ寄って買い物をして、ここへ送って来て、家へ帰っただけだなあ。
車を降りた時は気付かなかったけど、朝見かけたらたらこれに気付いてな」
「京香さんがいる間は少なくとも異常は無かったんじゃないかな」
「そうだよねえ。気付かないわけがないもんねえ」
直も同意する。
とすれば、ここから先生の家までか、止めている間か。
「隣の車が変だったとか?」
「いや?片方は出かけたままで空いてたし、もう片方は普通のセダンだよ」
「駐車場で、事故とか聞いた事はありますか」
「ないなあ」
「何だろう。悪意は感じられないし、とりあえず祓っておいて、お守りの札で事故予防しておけばいいかな。その間にもう少し調べてみて」
「そうだねえ。札、こんなもんかねえ」
さらさらと直が書き始める間に、僕は、思念を祓っておく。
「また手形がつくかもしれないけど、それで事故とかは無い筈だから、そんなに心配はしないで下さい」
「わかった。ありがとうな、2人とも。
ついでだ。予備校まで送るぞ」
「やった!」
「ありがとうございます!」
僕と直は、嬉々として、カバンを抱えて後部座席に乗り込んだ。
クーラーの効いた車内は、飾り気もなく、余計な匂いもなく、先生のカバンと、道具類を入れたと思しきプラスチックケースが積まれているだけだ。
そして新たに、直のお札がペタリと貼られた。
「中にある荷物類にも異常はないな。思念は外側みたいだしな」
「何だろうねえ」
「まあ、事故予防できたらとりあえずはいいよ。
それより、どうだ?受験勉強は進んでるか?」
先生が急に教師らしい事を言い出した。
「んん、まあまあ、かな?」
「ねえ?」
よくわからない。
「クラブの方も、落ち着いたみたいだな。合宿も、何か今年は普通に終わったみたいだぞ」
「本来はそうですしね」
「これまでが、変だったんだよねえ」
「そうだよな」
雑談をしているうちに予備校まで着き、車を降りる。
「ああ。セミが凄いなあ」
耳に痛いくらいに大合唱が聞こえる。
「何年も土の下で、外に出たら人生終盤。どうなんだろうな」
「土の下でジッとしてるのも辛そうだけど、出て来るのも一苦労だよねえ」
「出て来られずに終わったセミも、いるんだろうなあ」
3人でそんな事を言いながらしばらくセミの声を聞いていたが、暑くなってきたので、我に返った。
「送って下さって、ありがとうございました」
「いや、こちらこそありがとうな」
「また明日、どうだったか聞かせてください。それと、何かあったらいつでも電話して下さい」
「わかった。じゃあ、勉強しっかりな」
先生は言って、車をスタートさせた。
僕と直はそれを見送ってビルの中に入りながら、今後について相談する。
「まあ一応、前の所有者が事故を起こしてないかは調べるにしても、ないだろうな」
「ここにいるって、何だろうねえ?」
「監禁?遭難?
あ。前の所有者、事故でなくとも、災害とかレジャーで遭難したとかじゃないだろうな」
「ああ。それなら、ここにいる、もわかるねえ」
「でも、なあ」
「うん。ずーっと思念がついているわけじゃないんだよねえ」
「変だよなあ」
唸りながら歩いていたが、すれ違った生徒が、監禁と聞いてギョッとしていた。
翌朝、どうなったか気になっていたら、先生から電話があった。
「手形が2つついてたよ」
増えたらしかった。
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