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【63】温度差
しおりを挟む私は枯れ木人形とアムルちゃんの間に割り込んだ。
「ちょっと待って皆! この魔物たちの話を――って、どわああっ!?」
お母様が振り下ろした大剣を、間一髪で受け止める。
表面がバチバチしてる。
それはそれは立派な見た目の剣。
あのさ、これもしかしてお城の地下からくすねてきたんじゃあるまいな?
「おお! さすがです聖女様! 城の地下にあった聖剣を、こうも簡単に受け止めるとは!」
「いやもう隠す気ないのね!? それ、一応ウチで保管してるモノですからね!? 泥棒さんですよお母様!?」
「聖女様の剣となれるなら、このくらいの罪は背負って生きる所存です!」
「その剣が私に向いていることを少しは顧みてくださいませんかホント!」
お母様が下がる。
大きく息を吐いた私に、アムルちゃん一家が声を揃える。
「さすが聖女カナデ様!」
「やかましいです」
こんな雑な持ち上げ方いらない。
――気を取り直し、私は魔物たちに向き直る。
哀れ、すっかり怯えた様子で固まっている。
『私は無害な木です……どうか、路傍の石と同じように扱ってください……』
心からの懇願だった。
背中からは、アムルちゃん一家(と、ディル君)の期待に満ちた視線を感じる。
カナデ様はいったいどんな一撃を見せてくれるのだろう――という期待だ。
正直、どっちが魔物なのかわからなくなる。
私は勇気(と贖罪の気持ち)を持って枯れ木人形に触れた。びくりと身を竦ませる魔物の身体をゆっくりと撫でる。
ささくれが手に痛かったが、カナディア様の手のひらの皮膚は丈夫だった。あの方の苦労を再認識し、私は表情を改める。
「怖い思いをさせてごめんなさい。私たちは、あなたたちを害するつもりはないの」
えー、という声が聞こえ、私は背後を睨んだ。
枯れ木人形がふるふると震えながら言った。
『で、では、私の話を聞いて下さると……?』
「うん。元はと言えば、話を聞こうとせずに襲いかかった私たちが悪いから」
また背後で、えー、と。私は完全無視した。
「よければ、お話聞かせてもらっていいかな。あなたとなら、話してみたい」
『ああ……なんと素晴らしい! あなたこそ聖女と呼ばれる方……!』
「さすが聖女カナデ様! 魔物まで手懐けるとは素晴らしいです!」
今日このときほど、魔物と身内の温度差を感じたことはなかった。
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