59 / 118
【59】遊園地ですのね
しおりを挟む「はぁー……つ、疲れ……た……」
私は寝室のクッションにぼふんと身を預けた。
この人をダメにするクッションは相変わらず殺人的に心地よい。その心地よさが、私の心労を優しく解きほぐしていく。
――アムルちゃんのご両親が来訪してから、数時間。
城の案内やら、身の上話やらですっかり気力、体力を使ってしまった。
いろんな意味で強い。強すぎるあのご家族……。
ようやく解放された私はヒビキとともに自室に戻っていた。アムルちゃんたちの帰還はディル君に任せている。
横になりながら、今日のことをぼんやり考えていた。
……すぐ寝付けないってことは、相当疲れてたんだな。私。
すでに寝息を立て始めたヒビキの髪をゆっくり撫でながら、私はひとりつぶやく。
「これからどうなるかなあ」
「なにかお悩みですか、お姉様」
「うん。私、あんまりご近所付き合いって得意じゃなくてね――っておい」
ぐるりと寝返りをうつ。
すぐそばにニコニコ顔のアムルちゃんが添い寝していた。
「お姉様、わたくしたちに遠慮は無用ですわ。どうぞ普段着のように使い倒してくださいな」
「こんなに自己主張の強い普段着を私は知らない」
「まあ、照れてしまいますわ」
「よく聞いてね。褒めてないよ?」
ヒビキを起こさないように静かに身体を起こす。アムルちゃんも倣った。
寝床に無断侵入したのはこの際、置いておこう。
「……帰ったんじゃないの、アムルちゃん」
「ディルお兄様が『気の済むまでここにいていい』とおっしゃったので」
そんなこったろうと思いましたよ。
ディル君の姿は部屋にない。怒られると思って退散したのかあのわんこ。
「それにしたって何時間も……何もすることないでしょうに」
「え? こんな広いお城、たった一日では回りきれませんよ」
「ウチは遊園地じゃないのよ」
「ゆうえんち?」
「遊具とか、イベントとか、皆が楽しめる広い遊び場のことよ」
アムルちゃんが指を折って数える。
「歩くお城、古今東西の魔法書が集まる書庫、伝説の武具があちこちで見つかる地下通路、そこで繰り広げられたお姉様の武勇伝」
にぱっと笑顔が返ってきた。
「お城は遊園地ですのね! 素敵ですわ!」
「ごめん私が悪かった。忘れて私のツッコミ。お願い」
「……?」
可愛らしく小首を傾げたアムルちゃん。
ふと、何かを思い出したように手を叩いた。
「そうだ。わたくし、お姉様にご提案があったのです」
「……なにかな?」
「お姉様、お酒になりませんか?」
……?
……??
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~
ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」
聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。
その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。
ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。
王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。
「では、そう仰るならそう致しましょう」
だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。
言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、
森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。
これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜
トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦
ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが
突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして
子供の身代わりに車にはねられてしまう

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい
咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。
新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。
「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」
イルザは悪びれず私に言い放った。
でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ?
※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる