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あなたの隣に立ちたくて

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 彼女がオーダーしたドリンクが運ばれた後に、姉が明るい笑みを浮かべた。
 それから、私と碧斗さんの間に空いた距離を一瞥して、がおもむろに口を開く。

「ああ、そういうことね」

 ご機嫌な声でそう言いながら、パチリと手を叩いた。

「音羽も一緒にいれば、話す手間が省けるものね。それなら離婚届も取ってこればよかったわ。それとも、もう用意してあるのかしら」

 自身の中で思考が完結しているのか、姉はひとりで納得した。

 足の上で組み合わせていた碧斗さんの手に、力がこもるのを視界の端に捉える。
 姉の横暴な発言に怒りを感じたのは、私だけではないようだ。

 感情に流されないように、小さく息を吐き出してゆっくりと口を開く。

「碧斗さんと離婚する気はないから」

「なにを言ってるのよ。あなたに小野寺の次期社長夫人なんて、務まるわけがないじゃない」

 意を決して言った言葉は、姉によってすぐさま否定される。

 碧斗さんが小さく身じろぎする。
 口を挟みたいのだろうけれど、ここはまずは私が話したいと事前にお願いしてあったため、ひとまず見届けてくれるようだ。

「姉さんは、自分から碧斗さんとの婚約を破棄したのよ。そんな勝手をしておいて今さら元に戻るなんて許されるわけないじゃない」

「はあ。ばかねぇ、音羽。碧斗さんに必要なのは、能力も見栄えも優れた妻なのよ」

 そう言いながら、姉は心底あきれた目で私を見つめた。

 自分の容姿が、姉に比べて劣っているとわかっている。成績だって決して悪いわけではないものの、姉には一歩及ばない結果ばかりだった。

「音羽にそれがあるかしら?」

 碧斗さんがなにも言わないのをいいことに、姉が自信ありげにそう言い放つ。

「じゃあ、姉さんにはなにがあるっていうの? たしかに美人かもしれないけれど、ずっと碧斗さんを裏切り続けて、いざ結婚となったらほかの人のところに行ってしまったじゃない。そんなあなたを、誰が信頼するっていうの」

 あくまで冷静に、けれど溜まっていた鬱憤を晴らすようにストレートに言い放った。
 こんなふうに姉に楯突いた経験はなく、テーブルの下で握り合わせていた手は小さく震えている。

「言ってくれるわね」

 姉が一瞬見せた気まずい表情は、自分に非があるとさすがに感じているのだろう。けれど彼女は、微塵も怯まなかった。
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