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あなたの隣に立ちたくて

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* * *

「大丈夫か?」

 そう尋ねられるのは、もう何回目になるだろうか。
 碧斗さんの運転で姉に会いに向かっているのだが、私の表情はかなり強張っている自覚がある。

「う、うん」

 姉と話をするのは、少し怖い。彼女に対するよい印象はなく、きっとまた辛らつなことを言われるんじゃないかと思うと、胃がシクシクと痛みだす。

「俺が話をつけるから、音羽は心配いらない」

 隣からギュッと手を握られる。
 彼の手はすぐにハンドルに戻されたものの、それだけで勇気をもらえた気がした。

 父が姉には二度と敷居を跨がせないと宣言した通り、彼女は実家に帰っているわけではなかった。
 姉は相手の男性と破局してから、ひとり暮らしをはじめているらしい。

 込み入った話になる上に、姉がどんな態度に出るのかがわからない。
 けれど実家で会うこともできないため、今日の面会はこちらから個室のある店を指定した。

 今回のことを小野寺側に明かせば、さすがにお義父さんも許してくれないだろう。
 それを懸念した碧斗さんの意向もあり、母や姉と会った事実は私たちと翔君しか知らない。

 姉が碧斗さんや私に単独で接触したのを、母が把握しているかは不明だ。まして父は、ふたりの言動をまったく関知していないのではないだろうか。

 店には少し早めに到着したため、姉はまだ来ていなかった。
 なにも口にする気になれなかったが、とりあえずコーヒーをオーダーした。

 隣の席に座る碧斗さんに緊張した様子はなく、それどころか足を組んですっかりリラックスしている。
 私とは反対側にある肘置きに身を預けて距離を取っているのは、おそらく意図的なのだろう。

 約束より五分ほど遅れて、姉がやってきた。
 相変わらず人を待たせることに罪悪感はないようで、謝罪の言葉はない。

「あら、音羽までいるの」

 不快な表情を隠す気のない横柄な態度の姉から、目を背けたくなる。
 これまでは逃げることで彼女との関係をやり過ごしてきたが、今日はしっかりと向き合うと決めてきた。碧斗さんを守りたい一心で同席をお願いしたのは自分なのだと、自身を奮い立たせる。

 姉は遠慮のない様子で、向かいの席に座った。
 そうして私と碧斗さんに視線を走らせて、なにかを思案する。この場がなんのために設けられたのか、碧斗さんの意図を掴もうとしているのかもしれない。
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