42 / 113
それでも手に入れたかったもの SIDE 碧斗
3
しおりを挟む
波川社長には、歳の近い姉妹がいる。
ふたりはまだ学生で、顔を合せた際に挨拶をした程度のため、人となりはまったくわからない。
何回か波川家へお邪魔している父も、同じようなものだった。
引退しているとはいえ、祖父の発言力は大きい。
それに父も、親友の娘と自身の息子が一緒になるのを内心では歓迎しているのを感じた。
ふたりの意を汲んで承諾すると、話はすぐさま波川へ持ち掛けられた。
波川屋はこちらが把握していた以上に現状を危惧しており、様々な方策を練っていたようだ。だが今一歩、決め手に欠けていた。
そこに持ち込まれた小野寺との業務提携の話に、感謝をされるほどだった。
縁談について、波川社長は感謝しつつも控えめに受け止めたようだ。しかし、彼の妻は乗り気なのを隠しきれていなかったと父から聞いている。
あの様子なら話はこのまま進められるだろうと言われて、問題がないのならそれでかまわないと返しておいた。
見合いの場で初めて顔を合わせた波川一嘩は、華やかな外見をした女性だった。目鼻立ちがはっきりとしており、客観的に見て美人だと思う。
彼女の話しぶりを聞いている限り、それなりに頭の回転がよいのもわかった。少々勝気な様子は気になったが、初対面でいろいろと決めつけるのはよくないだろう。
問題はなにもなく、俺たちの婚約はその場で正式に結ばれた。
後にしてみれば、もう少し相手を見極めるべきだったと思う。
ただ積年の思いが叶えられることに、祖父も父も少々浮ついていたのだろう。待ったをかけなかった自分が、彼らに文句を言える立場にない。
こんな言い方は好きではないが、今回はうちが援助する側になる。
もちろん、過去に受けた恩は決して忘れない。けれど、逆の立場になるのだ。当然、波川側もそれを理解してこの場にいるものだと信じて疑わなかった。
重要な話がすむと、その場は砕けた雰囲気になる。
婚約者となった一嘩は、大人の交わす話にそこまで興味がなかったらしい。母親同士が話をする傍で、相槌を打つ素振りを見せながら意識は違う方に向いていたように感じた。
弟は相手の妹がクラスメイトだと知り、ふたりで連絡先の交換などをしていた。
翔との話を終えた彼女は、その後なぜか父らと俺が交わす仕事の話に耳を傾けはじめた。
意見こそ口にしなかったものの、内容にはしっかりついてきているようだと、ころころ変わる彼女の表情からわかった。
波川屋の後継者は別の人間だと聞いているが、それでも実家が経営する会社なだけに心配をしていたのだろう。
姉とは対照的な彼女の様子が、妙に印象深かった。
ふたりはまだ学生で、顔を合せた際に挨拶をした程度のため、人となりはまったくわからない。
何回か波川家へお邪魔している父も、同じようなものだった。
引退しているとはいえ、祖父の発言力は大きい。
それに父も、親友の娘と自身の息子が一緒になるのを内心では歓迎しているのを感じた。
ふたりの意を汲んで承諾すると、話はすぐさま波川へ持ち掛けられた。
波川屋はこちらが把握していた以上に現状を危惧しており、様々な方策を練っていたようだ。だが今一歩、決め手に欠けていた。
そこに持ち込まれた小野寺との業務提携の話に、感謝をされるほどだった。
縁談について、波川社長は感謝しつつも控えめに受け止めたようだ。しかし、彼の妻は乗り気なのを隠しきれていなかったと父から聞いている。
あの様子なら話はこのまま進められるだろうと言われて、問題がないのならそれでかまわないと返しておいた。
見合いの場で初めて顔を合わせた波川一嘩は、華やかな外見をした女性だった。目鼻立ちがはっきりとしており、客観的に見て美人だと思う。
彼女の話しぶりを聞いている限り、それなりに頭の回転がよいのもわかった。少々勝気な様子は気になったが、初対面でいろいろと決めつけるのはよくないだろう。
問題はなにもなく、俺たちの婚約はその場で正式に結ばれた。
後にしてみれば、もう少し相手を見極めるべきだったと思う。
ただ積年の思いが叶えられることに、祖父も父も少々浮ついていたのだろう。待ったをかけなかった自分が、彼らに文句を言える立場にない。
こんな言い方は好きではないが、今回はうちが援助する側になる。
もちろん、過去に受けた恩は決して忘れない。けれど、逆の立場になるのだ。当然、波川側もそれを理解してこの場にいるものだと信じて疑わなかった。
重要な話がすむと、その場は砕けた雰囲気になる。
婚約者となった一嘩は、大人の交わす話にそこまで興味がなかったらしい。母親同士が話をする傍で、相槌を打つ素振りを見せながら意識は違う方に向いていたように感じた。
弟は相手の妹がクラスメイトだと知り、ふたりで連絡先の交換などをしていた。
翔との話を終えた彼女は、その後なぜか父らと俺が交わす仕事の話に耳を傾けはじめた。
意見こそ口にしなかったものの、内容にはしっかりついてきているようだと、ころころ変わる彼女の表情からわかった。
波川屋の後継者は別の人間だと聞いているが、それでも実家が経営する会社なだけに心配をしていたのだろう。
姉とは対照的な彼女の様子が、妙に印象深かった。
12
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
再会ロマンス~幼なじみの甘い溺愛~
松本ユミ
恋愛
夏木美桜(なつきみお)は幼なじみの鳴海哲平(なるみてっぺい)に淡い恋心を抱いていた。
しかし、小学校の卒業式で起こったある出来事により二人はすれ違い、両親の離婚により美桜は引っ越して哲平と疎遠になった。
約十二年後、偶然にも美桜は哲平と再会した。
過去の出来事から二度と会いたくないと思っていた哲平と、美桜は酔った勢いで一夜を共にしてしまう。
美桜が初めてだと知った哲平は『責任をとる、結婚しよう』と言ってきて、好きという気持ちを全面に出して甘やかしてくる。
そんな中、美桜がストーカー被害に遭っていることを知った哲平が一緒に住むことを提案してきて……。
幼なじみとの再会ラブ。
*他サイト様でも公開中ですが、こちらは加筆修正した完全版になります。
性描写も予告なしに入りますので、苦手な人はご注意してください。
初色に囲われた秘書は、蜜色の秘処を暴かれる
ささゆき細雪
恋愛
樹理にはかつてひとまわり年上の婚約者がいた。けれど樹理は彼ではなく彼についてくる母親違いの弟の方に恋をしていた。
だが、高校一年生のときにとつぜん幼い頃からの婚約を破棄され、兄弟と逢うこともなくなってしまう。
あれから十年、中小企業の社長をしている父親の秘書として結婚から逃げるように働いていた樹理のもとにあらわれたのは……
幼馴染で初恋の彼が新社長になって、専属秘書にご指名ですか!?
これは、両片想いでゆるふわオフィスラブなひしょひしょばなし。
※ムーンライトノベルズで開催された「昼と夜の勝負服企画」参加作品です。他サイトにも掲載中。
「Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―」で当て馬だった紡の弟が今回のヒーローです(未読でもぜんぜん問題ないです)。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
二人の甘い夜は終わらない
藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい*
年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる