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それでも手に入れたかったもの SIDE 碧斗

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 その後、一嘩とは仲を深めるために定期的に顔を合わせるようになる。

 見合いの場ではなんとか隠し通した彼女の本性を知るのに、それほど時間はかからなかった。

 約束した時間通りに迎えに行くが、いつも玄関で待たされる。
 ようやく顔を出した彼女が、俺に遅刻を謝罪したことは一度もなかった。

『碧斗さん。いつもすみません。もうすぐ来ると思うんですが……』

 待たされるばかりの俺を見かねたのか、妹の音羽が顔をのぞかせて申し訳なさそうに謝罪する。

 音羽は控えめだが、他人に配慮のできる優しい子だ。
 そんな彼女と接していると、待たされる苛立ちを忘れて穏やかな気持ちになれた。

 姉や母親が近くにいると、音羽は途端に委縮してしまう。その原因は、すぐに判明した。

 母親は、勉強はできるらしい一嘩ばかりを常に持ち上げて、それより劣る音羽を俺の前であっても貶めす。
 そんな姿を見続けてきただろう一嘩も、音羽に対してずいぶん高圧的な態度を取っていた。
 母親と一嘩が、音羽から自信を奪っているのは明白だった。

 不快な状況が気に食わなかったが、婚約者になったばかりの俺が家庭内の問題に口出しするのは憚られる。
 せめてもと、音羽がひとりでいるときに気に掛けるくらいしかできなかった。

『音羽ちゃんが謝る必要はないよ。そうだ、翔から聞いたけど吹奏楽部に入っているんだって?』

『はい。クラリネットを担当しているんですよ』

 はにかみつつ瞳を輝かせて話す音羽がかわいらしくて、目を奪われた。
 彼女が本当の妹だったならこんな状況からも庇ってやれたのにと、らしくない感情を抱く。

 一嘩の遅刻癖のおかげというわけではないが、音羽と話す機会はそれなりにあった。
 少しずつ警戒心を解いた音羽は、俺に対して次第に自然な笑みを見せるようになっていく。

『ちょっと音羽。人の婚約者になに色目を使ってるのよ』

 そんな妹を、一嘩が見当違いな解釈で責めた。
 さすがに見過ごせずに咎めたが、彼女には伝わらない。一嘩の怒りはしばらく収まらず、乗り込んだ車内の空気が重苦しい。
 なんだかどうでもよくなってしまい、慰める気力もわかなかった。

 この婚約は失敗だったと、早々に気づいていた。
 いくら祖父が強く望んでいるとはいえ、さすがに一嘩の言動は目に余るものがあり、受け入れられそうにない。このまま結婚したとしても、上手くいかないのは目に見えている。

 政略結婚に対する覚悟はあったはずなのに、こうもあっさり考えを覆してしまえるほど、一嘩との相性は最悪だった。
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