H･I･M･E ーactressー

第10章 日常４：彼のベッド

６

　コンコン……なんてもんじゃない、ドンドンとバスルームのドアが叩かれて……

　「は、は、は、はいっ！」

　返事をする声が思わずひっくり返ってしまう。

　「タオルと着替え、ここ置いとくから……」
　「あ、あ、あ、う、うん……」

　言われても、返事をするだけで精一杯で……

　僕は桜木くんが早くその場から立ち去ってくれるのを、フルマックス状態のアイツを握り、腰をビクビクと震わせながら願った。


　だってこんな姿、桜木くんには見せらんないもん。
　絶対軽蔑されるもん。

　だから……、だから早く行って！


　降り注ぐシャワーを浴びながら、心の奥で強く願っっていると、背後でパタンとドアが閉まる音が聞こえた。

　「良かった……」

　桜木くんに恥ずかしい姿を見られずに済んだ安堵感に、僕はホッと息を吐き出した……のも束の間。

　「んんっ……、んくっ……！」

　ずっと溜め込んでいたモノが一気に解放されて……

　「あ……、はぁ……っ……」

　脱力してバスルームの床にヘナヘナと崩れた僕の目の前で、点々と出来た白い染みで汚れた鏡が揺れていた。

　「はあ……、僕、一体何やってんだろ……」


　他人の家で、しかも桜木くんのこと想像して、鏡まで汚しちゃって……
　最悪じゃん……


　とんでもない罪悪感が、ドスーンと僕の肩にのしかかってきて、僕はシャワーを鏡に向かって浴びせると、僕が汚してしまった部分を綺麗に洗い流した。
　そしてノロノロと立ち上がると、シャワーヘッドを元の位置に戻し、バスルームを出た。

　桜木くんが用意してくれたタオルで身体を拭き、桜木くんが用意してくれた下着を手に取る……けど……


　ちょっと待って？
　これって桜木くん……の、だよね？

　うん、確かに「俺の」って言ってたし……

　てっきり新品を用意してくれてるもんだとばかり思ってたけど、これって使用済み……だよね？


　僕は手にしたショッキングピンクパンツを、そっと鼻先に近付けクンと匂いを嗅いだ。


　あ、決して変な趣味じゃないからね？