不自由で自由な僕たちの世界。

広崎之斗

文字の大きさ
26 / 61
二章:共助/共犯

16

しおりを挟む
 太陽も沈み、月が昇り、星空は街の灯りにかき消されている。車を運転しながら、徐々に街の灯りから遠ざかると、星空の灯りは次第に強くなっていく。それでも街から遠く離れない限り星空を眺めることは叶わず、ユーマは自動運転機能を使ってまっすぐ続く道をただひたすら、早くもなく遅くもない速度で走っていた。
 ハチは眠っているだろうか。その方が都合はいいが、彼のことだから寝ていないだろうとも思う。そもそもナノボットの影響が彼の場合どこまであるのかがわからない。
 そのことも考えると思わず溜息が漏れた。

 ナノボットは現在社会では一番話題の技術だ。国際社会的にも注目されている技術であり、その実験はすでに行われてきていた。もちろん非合法的な手段であっても、表立っての発表は合法的なものとしてだ。そして、組織――ハデウスはまさにその最先端を行く組織であり、企業であった。
 ユーマ自身もナノボットの被験者として適合したので実験に参加はした。だがハチのような身体的な強化は得られなかった。あれは誰でも得られる、というものでもないらしい。らしいというのは、この段階でもやはりまだ多くの実験と改良の段階だったためだ。
 結果的にユーマは何もないまま実験体としての用途はなくなってしまった。だが代わりに別の実験にと手招かれたのが、想起催眠の実験だった。
 
 想起催眠とは、その名の如く「前に体験したことを思い出させる催眠」である。だがそれには何かしらのトリガーが必要であり、常にそのトリガーを与えれば思い出せるように催眠状態であることをこの場合は指す。
 ナノボットでの身体強化は得られなかった。その代わりに、神経細胞に影響を及ぼすように細工を施して想起催眠が使い物にならないかと実験をした。その被験者がユーマだった。
 現在この技術自体は組織の中で一般化されている。が、一般化した想起催眠は、厳密にいえば抑制催眠ともいえる。これは一定の行動を行った場合に、一定の精神状態になるというものになっているためだ。
 例えば、殺し屋が仕事をする前にトリガーとなる行動。祈りや瞑想といった精神の集中行為や、手遊び、得意な武器を使った臨戦態勢を取ることなどで、一定時間感情の起伏を無くすというようなものだ。これにより殺し屋は速やかに仕事を行えるようになり、命乞いをされようとも、自らの肉親であろうと、恋人であろうと、誰であろうと殺すことに躊躇しなくなるというものだ。
 もちろん仕事が終わり、催眠が解けてしまえば全て思い出すことになる。だからその前に記憶を処理するのが医療部の役目であり、ターゲットによっては出立前にあらかじめ記憶処理の手順を仕込むとうことも可能になっているらしいとユーマは聞いていた。彼自身はこの用途では使用したことがないから、詳しいことはミナトからも聞いていない。
 ユーマに実験として行われた想起催眠は、殆どミナトの好奇心かつ私欲だった。

 思い返している内に殆ど街から離れていて、空の星が少し近くなっている。
 あと少しすればハチのセーフハウスであるモーテルに戻ることになる。ここまでの道のりも、その場所も、ロスには伝わるだろう。それが外部に漏れないという確信は正直なところない。だがロスだけは信頼できるし、したいと思う。
 深呼吸をしてユーマはハチに何と問うべきか。それとも、何も問わないべきか。
 残り少ない道のりを、もう少しだけ伸ばすために速度を落として走行しながら考えることにした。
 行き交う車は殆どないのは、こんな時にありがたかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

契約満了につき

makase
BL
仮初めの恋人として契約を結んだ二人の、最後の夜。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...