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二章:共助/共犯

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 太陽も沈み、月が昇り、星空は街の灯りにかき消されている。車を運転しながら、徐々に街の灯りから遠ざかると、星空の灯りは次第に強くなっていく。それでも街から遠く離れない限り星空を眺めることは叶わず、ユーマは自動運転機能を使ってまっすぐ続く道をただひたすら、早くもなく遅くもない速度で走っていた。
 ハチは眠っているだろうか。その方が都合はいいが、彼のことだから寝ていないだろうとも思う。そもそもナノボットの影響が彼の場合どこまであるのかがわからない。
 そのことも考えると思わず溜息が漏れた。

 ナノボットは現在社会では一番話題の技術だ。国際社会的にも注目されている技術であり、その実験はすでに行われてきていた。もちろん非合法的な手段であっても、表立っての発表は合法的なものとしてだ。そして、組織――ハデウスはまさにその最先端を行く組織であり、企業であった。
 ユーマ自身もナノボットの被験者として適合したので実験に参加はした。だがハチのような身体的な強化は得られなかった。あれは誰でも得られる、というものでもないらしい。らしいというのは、この段階でもやはりまだ多くの実験と改良の段階だったためだ。
 結果的にユーマは何もないまま実験体としての用途はなくなってしまった。だが代わりに別の実験にと手招かれたのが、想起催眠の実験だった。
 
 想起催眠とは、その名の如く「前に体験したことを思い出させる催眠」である。だがそれには何かしらのトリガーが必要であり、常にそのトリガーを与えれば思い出せるように催眠状態であることをこの場合は指す。
 ナノボットでの身体強化は得られなかった。その代わりに、神経細胞に影響を及ぼすように細工を施して想起催眠が使い物にならないかと実験をした。その被験者がユーマだった。
 現在この技術自体は組織の中で一般化されている。が、一般化した想起催眠は、厳密にいえば抑制催眠ともいえる。これは一定の行動を行った場合に、一定の精神状態になるというものになっているためだ。
 例えば、殺し屋が仕事をする前にトリガーとなる行動。祈りや瞑想といった精神の集中行為や、手遊び、得意な武器を使った臨戦態勢を取ることなどで、一定時間感情の起伏を無くすというようなものだ。これにより殺し屋は速やかに仕事を行えるようになり、命乞いをされようとも、自らの肉親であろうと、恋人であろうと、誰であろうと殺すことに躊躇しなくなるというものだ。
 もちろん仕事が終わり、催眠が解けてしまえば全て思い出すことになる。だからその前に記憶を処理するのが医療部の役目であり、ターゲットによっては出立前にあらかじめ記憶処理の手順を仕込むとうことも可能になっているらしいとユーマは聞いていた。彼自身はこの用途では使用したことがないから、詳しいことはミナトからも聞いていない。
 ユーマに実験として行われた想起催眠は、殆どミナトの好奇心かつ私欲だった。

 思い返している内に殆ど街から離れていて、空の星が少し近くなっている。
 あと少しすればハチのセーフハウスであるモーテルに戻ることになる。ここまでの道のりも、その場所も、ロスには伝わるだろう。それが外部に漏れないという確信は正直なところない。だがロスだけは信頼できるし、したいと思う。
 深呼吸をしてユーマはハチに何と問うべきか。それとも、何も問わないべきか。
 残り少ない道のりを、もう少しだけ伸ばすために速度を落として走行しながら考えることにした。
 行き交う車は殆どないのは、こんな時にありがたかった。
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