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二章:共助/共犯

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 ロスの言葉と与えられた情報を飲み込むのにしばらく時間がかかった。しかしユーマは自らの意識を慌てて呼び戻すと、首を横に振ってロスを見上げた。
「でも、俺は知らない」
「多分、時期が微妙にずれてるんだよ。そこまで詳細は流石に手に入らなかったんだけど。むしろ、組織のデータベースを直接叩けば見られるかもね。消してるとはいえ表面的だと思うし、権限を持った上層部には見られる情報があるだろうし。なにより一番トップの人間は知らないはずがない」
 それは確かにロスの言うとおりでユーマは困惑していた。知っているとすれば、どうして彼をターゲットとしたのか。そしてどうして組織の外へ彼は出られているのか。

「組織っていうのはさぁ、一度入ったら簡単には抜けられない。だけど抜けられてるってことは、何かしら意味があるってことか。それとも何かをしたから。それは悪いことか、良いことかはわからないけど。どちらにしても組織にとって不利益にはならないから、彼は外に出られたんだろうね」
 ロスの言葉は今ユーマが必死に考えていることをまとめてくれていて、思わず頷いた。
「俺も別に組織のことを全て把握してるわけじゃない。そんな権限は俺にないし。ただ俺はミナトの……ボスの、側にいたってだけだから。だから、そんな人がいるなんて知らなかった」
 そしてその事実は今のユーマにとって希望でもある。
 だが反面で、ハチがターゲットになっていたということは、やはり彼が必要ということになったのか。それとも最初から、いつか引き戻すことを前提に自由にしたのか。
 何のために。
 そう考えるとやはり一つ浮かぶのは、ハチがナノボットの実験体ということだ。だがしかし、別に組織の人間だったからという絶対条件ではない。あれは全国民から募った実験だったと聞いている。老若男女問わず募集し、適合した者にナノボットを入れた。別にそれを入れて死ぬことはない。何もないものは何もなく、その場合は最低限の協力金が支払われた。
 それは市井の人々からすればそこそこの金額だったが、組織からすれば金の卵を見つけるためなのだから安い投資だったという。
 それでも導入した人間の中で成功――この場合、何かしらの良性変異が見つかった者はほんの僅かだった、という。
 だがしかし、実験はハデウスだけがやったものではない。もちろんライバル企業であるキュリアも行ったし、他の中規模組織も同じだ。だからハチが必ずしもハデウスに居たから、ハデウスでナノボットを入れた、というわけではないかもしれない。だとすれば組織を出た後に別の組織の実験に協力し、あの治癒能力を得たのかもしれない。

「あーらら。考え込んじゃった?」
「え、あ、ごめん。とにかく今の俺に出来るのは……アイツが何者なのかを、当人に聞くことぐらいかな」
「本当に帰るの? 聞くの? ただじゃすまないかもよ。これからのことだって、ユーマが考えている通りにいかないかもしれない」
「最初から全部思い通りにいくとは思ってないよ。だからまぁ、また本当にやばくなったら助けてよ」
 そう言ったものの、ロスはすぐにイイとは言わなかった。ならば最初から共に逃げればいい。ユーマだって分かっていた。
「ありがとう、いろいろ。隠れるっていうなら、ここを出るんだろうし。なんていうか全然代金分も、なにもしてあげられてないけど」
「ずっと、できる限り見ておくよ、ユーマのこと。イヤかもしれないけど、できる限りは。だからこれ、あげる」
 そう言ってポケットからスマートフォンを取り出すとユーマに差し出した。通信端末は新しいものを手に入れたいとは思っていた。何かとあれば便利だが、足がつく可能性は否定できない。だがそれがロスから与えられるものならば、無駄な心配はしなくてすむかもしれない。
 おずおずと受け取ると、ユーマは礼を言った。
「位置情報だけ取得するようにしてある。ただそっちから操作すれば、音声も飛ばせるようになる。あまり何度も使うもんじゃないから、本当にやばいって思った時だけ使って」
 そう言うとロック画面を見せた。その解除する際、あるパスコードを入れればそれは起動するといいながら操作を教える。いくつかの組み合わせで、違う機能が使えるようになっていると言いながら、いくつかの数字を教えた。

「使えそう?」
「全然……いいの、こんなの貰って」
「いいよ。その代わりまた会えるって約束してくれるなら」
 ロスの言葉にユーマは少しだけ迷った。また会えるなら。会いたいという気持ちはもちろんユーマにだってある。
 だがそれはロスに迷惑を掛けるだけな気がしてならない。だから素直に頷くことはできないでいる。だがしかし、会いたいというのはユーマだって同じだ。全てが万事解決したならば、その時は会えればいいと思う。
 だからその願いを持ってユーマは頷いた。
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