上 下
14 / 61
二章:共助/共犯

しおりを挟む
「俺は組織の中でばかり仕事してるから、ここから先はお前に任せるよ」
 ベッドに座って顎をさすっていたハチは顔を上げた。
「そう? まぁ俺を雇うんだしそうなるか」
 ハチもあった時とは少し異なる服を身に纏っていた。Tシャツに柄物のシャツを羽織にジーパンという、ユーマの姿に合わせたようなラフなコーディネートになっている。似合っているのを見る限り、おそらく彼はなんでも着こなせるタイプなんだろうと思った。それにおそらく、彼はそういったファッションを楽しむタイプでもあるとユーマは感じていた。

 様々な手段、伝手は確かにある。だがどれも組織の息がかかったものだ。仕事を始めたときからずっと組織の中にいたから、今さらそれ意外の手段を得るには時間が掛る。だったら最初から伝手のあるハチに全て任せた方が賢明だと判断した。
 ふと脱ぎ散らかした服の近くに置いたままの銃が目にはいる。
「銃も、新しいのほしいんだけど。手に入る場所ある?」
「あるよ。全部新調する?」
 ハチの問いにユーマは頷いて答えた。そのつもりだ。スマートフォンを破棄すると同時に全部捨てる。それでもタイムリミットは近づいてくるだろうが、少しぐらいは延ばす事が出来るはずと踏んでいる。
 立ち上がってハチはユーマのスマートフォンを手に取ると行こうと言った。あとの服などはオーナーに処理を頼めば良いという。そこまでしてもらっていいのだろうかと不安になった。それにもしオーナーが組織との繋がりが少しでもあった場合、ここからバレる可能性だってある。もしくは、匿ったとして危険が及ぶのではないか。
 先に部屋を出ようとしたハチを呼び止めて、ユーマは考えたことを口にした。
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫だよ。俺の仕事相手は基本組織ってもんが大嫌いだから。今回のユーマを連れてこいって仕事は、超久しぶりの組織案件ってとこ。俺は個人間の仕事がメインだからね」
「納得はできる気はするけど……、まぁいいや。今は納得しとく」
「そうしといて」
 ハチは手にしたスマートフォンをヒラヒラさせながら歩きだした。その後ろをついてユーマも部屋を後にした。

 外に出るとすぐにハチはスマートフォンをコンクリートの上に落とした。派手な音を立てて落ちた端末をそのまま踏み抜き破壊する。ガラス部分が粉々になってコンクリートの上にキラキラと光る。そんなたった一つの破壊で全てが切れるわけではないが、なんだか少しだけスッとする気分でユーマは残骸を見つめていた。
 道のど真ん中にあるのは邪魔だと言わんばかりに、ハチは端末を蹴り飛ばして建物の壁に激突させる。それでまた破壊音と共に端末は分解されていく。
「さて、先に銃かな」
「あ……うん。その後、俺の知り合いのところに行って、組織のデータ見られるようにアタリをつけたい」
「その知り合いのところ行って大丈夫なの? さっきのと矛盾しない?」
 その指摘にユーマは笑った。
「確かに矛盾する。でもアイツは大丈夫。ただそこには俺だけで行かないといけないから。先に武器と足と。あとは今日の宿というか……当面の活動拠点があれば嬉しい」
「拠点といっても、使い捨てても良い場所って感じの場所はいくつかあてはある」
「じゃ、それで大丈夫ならお願いしたい」
 歩き始めたハチに着いて行く。裏から表通りへと向かうと、人通りはぐんと増えた。

 ホテルの近くは飲食店が多かったため、どこも昼の営業に向けてオープンしながらも仕込みの準備を続けているようだった。少し遅い朝食を楽しむ者もいて、どこもかしこも賑やかになりつつある。
 この街が静かな時間は殆どない。夜は夜で朝方まで活動する者も多いので、二十四時間殆どの時間に人は働き、遊び、活動している。
「コーヒーぐらい飲む?」
 ハチが言った言葉にユーマは首を横に振った。だがそれは飲みたくないというわけではない。
「俺、コーヒー苦手なんだよね」
「そうなの?」
「そうなの。まぁラテとかならいけるけど」
「じゃあソレ」
 と、ハチはユーマの手を取ると一軒のカフェへと向かう。
「あそこ使った日は、ここのコーヒーが俺の好きな組み合わせ。目覚めるんだよねぇ。それに、ラテとかもおいしいから」
 そう言って連れてこられたカフェに入ると、手は離された。店員は軽くハチに挨拶してすぐにオーダーを取ってテキパキと用意して行く。エプロンを着けた女性が独りで全てをこなし、無駄なく二人分の注文を出すとレジも済ませる。滞在時間はほんの数分で二人は紙カップを手に店を出ていた。
「んで、こっち」
 そう言ってハチはまた自由な方の手でユーマの手を取ると歩き出した。
 手をいちいち繋ぐな、と言いたかった。だが彼の行動する範囲、方向は自分の範囲外である。それにいつも活動する時にはナビがあったし、決められた範囲内での行動が殆どだった。
 大人になってから自由に街を歩いたことはない。だからある意味、ハチが手を取り歩くというのはナビシステムと同じだと思えば仕方がないと思えた。
 文句を飲み込むためにカフェラテの飲み口に口をつけて、少しだけ啜ってみた。ミルクフォームの生ぬるさが丁度よく液体を冷やしてくれていた。
「飲める?」
「うん」
 ミルクの甘さが、苦手なコーヒーやエスプレッソ特有の苦さを上書きしてくれている。案外美味いと思いながらもう一口飲みながら、二人は程よく混んでいる街の中を歩いて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。 アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。 それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。 救済のために神は神官を抱くのか。 それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。 神×神官の許された神秘的な夜の話。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

処理中です...