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四章
20.お前に会いに来てやったんだよ
しおりを挟む部屋に閉じ込められてしまったイウリュースは、クレッジの突然の行動に、ポカンとしていた。
(クレッジ……どうしたんだろう……? そんなに心配させちゃったのかな……?)
きっと、イウリュースの身を案じてこうしたのだろうと思った。
クレッジが優しい男だということはわかっている。しかし、相手は魔物と戦うことが苦手なパティシニル。戦い慣れしているイウリュースやクレッジを相手にするには、あまりに不利だということは、分かっているはずだ。それなのに、こんなに心配するなんて。
(やっぱり……クレッジは優しい……)
ベッドを見て、すごいことを考えていたと言い出した時は、彼らしくない積極的さだと思ったが、それも可愛い。彼がひどく悔いているようだったから、好きだと告げたが、聞こえていただろうか。
(つい言っちゃったけど、聞こえてたよな? 答えてくれなかったけど……でも、そんなこと考えるってことは、俺のこと……好き? って……ことだよな??)
そう思い込んでしまうと、自然と笑顔になっていく。恥ずかしいくらいだ。あんなに赤くなっていたクレッジが可愛い。
(抱きしめて……キスくらいすればよかったかな……だけど、いきなりそんなことしたら、クレッジがびっくりするか…………以前付き合ってた奴とは手をつなぐくらいしかしてなかったみたいだし…………)
彼が自分以外の男と手を繋ぐところを思い浮かべたら、握った手に力が入りそうだった。
早く、クレッジに会いたい。屋敷には結界が張られていて、罠があちこちに仕掛けられている。早く探してあげなくては。
魔法をかけると、扉の鍵はすぐに外れる。彼もずいぶん魔力の使い方が上手くなったが、強化の仕方が甘い。焦っていたのか、イウリュース相手で、無意識に力を緩めてしまったのか。どちらであっても、ゾクゾクする。
(俺を監禁なんて、すごいじゃないか……)
彼が魔法をかけたドアに触れる。微かに冷たくて、まだ彼の魔力が残っている。
頬に当てると、ますます冷たく感じた。
「クレッジ……」
まずはクレッジを探さなくては。それに、ヴィルイとパティシニルにも、話をつけなくてはならない。ヴィルイには、クレッジに手を出すのをやめさせ、パティシニルにも、クレッジを害さないように言わなくては。ヴィルイに強引に護衛とするように迫ったのはイウリュースで、普段からパティシニルを蔑ろにしたのはヴィルイ。クレッジに怒りが向かうのは、お門違いと言ったところだろう。
彼を追って部屋を出ようとすると、誰かが部屋に飛び込んできた。
「うわっ……!!」
飛び込んできた男とぶつかりそうになるが、すんでのところで避けた。すると男は、部屋の中に倒れてしまう。ヴィルイだった。
「……何してるんだ? お前」
ヴィルイは、本来屋敷にいるはずのない男を見上げて、声を張り上げる。
「き、貴様こそ、ここで何をしている!? ここは私の屋敷だぞ!!」
「……うるさいな……お前に会いにきてやったんだよ」
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