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二章
14.手出しさせない
しおりを挟むイウリュースは、自分自身に落ち着くように言い聞かせて、クレッジに向き直った。
「クレッジ、俺……大丈夫だよ? あんなの、ヴィルイが見栄で言ってるだけ。クレッジ、自分でそう言ってたじゃないか」
「そうですけど…………それでも、心配なんで……俺も、一緒に行きます」
真剣な目で言われて、気持ちが揺らぐ。
(俺のこと……そんなに心配してくれているんだ……可愛いな……じゃなくて、追い返さなきゃいけないんだ! だいたい、ここはヴィルイの屋敷。そんなところにクレッジを入れてたまるか!!)
しかし、困った。
クレッジは引き下がってくれそうにない。そもそも、普段面倒ごとを嫌う彼が、ここまでついてきたのだ。ちょっと言ったくらいでは、帰らないだろう。
しかし、さっきと同じように突き放すことはしたくない。クレッジに嫌われては、元も子もなくなる。
(俺のことを心配して来てくれたんだ……もう、ひどい言い方で追い返したくない…………この際、今日は引き下がるか……? だけど……)
ここは一旦引き下がったほうが得策かと思ったが、首を横に振った。
一度約束を反故にすれば、ヴィルイも警戒する。
ヴィルイは魔法使いだ。こちらの手の内を読んで、魔法を妨害する結界くらい、張るかもしれない。そうなれば、ヴィルイを尋問する間、屋敷全体にかける予定の睡眠の魔法が効かなくなるかもしれない。そうなれば面倒だ。相手が油断している今のうちにやってしまいたい。やはり、なんとかしてクレッジを追い返さなくては。
しかし、どう切り出そうか。
イウリュースは、悩んでいた。
(いっそのこと、今は時間が早過ぎたとか、そんな感じの言い訳をつけて、一度帰ろうか……クレッジを連れて帰って、そして後でまた、ここへくればいい)
「そうだね。クレッジの言うとおりだ。一回帰って……」
「え? 困ります」
即座に言ったのは、門の前に立つパティシニル。
「お約束があって来てくれたんですよね? さっき、自分でそう言ったじゃないですか」
「言ったけど……だけど、まだ早いから。また後で来るよ」
「今すぐどうぞ。ヴィルイ様もお待ちです」
「だけど……」
「ヴィルイ様もお待ちです。使い魔ですでに連絡もしているので、中に入ってください」
「……」
パティシニルは、引き下がりそうにない。そして案の定、クレッジも「やっぱり……俺も行きます……」と言い出してしまう。
まずい。これでは計画が台無しになる。
「だけど、クレッジは約束がないだろ? 今日は、諦めたほうがいいよ」
「別にいいですよ」
あっさり言ったのはパティシニル。
「別に約束なんかなくてもいいです。せっかく来たんだし、入ってください」
あっさりと言われて、イウリュースは、頭を抱えたくなった。
(そんなに簡単に入れるなよ……警備はどうなっているんだ……)
だが、ここで動揺しては、ますます怪しまれてしまいそうだ。
イウリュースは、グッと堪えて、何とか笑顔を作った。
パティシニルが門を開いて、二人を招き入れる。
「どうぞ。お二人とも、歓迎します」
もう後には引けない。イウリュースは、覚悟を決めて、彼と共に屋敷に足を踏み入れた。
クレッジに悟られてはいけない。彼のことはうまく誤魔化して、先に帰ってもらわなくては。
二人が案内されたのは、美しく装飾された豪華なソファと、魔力で編まれたのであろう絨毯が敷かれた応接室だった。
そこのソファに、二人で並んで座ると、パティシニルは、お茶を用意してきます、と言って出て行った。
応接室にはイウリュースとクレッジの二人だけ。
そしてイウリュースは、頭を抱えたい思いでいた。
(……何でこうなったんだ……)
隣には、クレッジが座っている。彼も、どう切り出していいか分からないのか、目を合わせないようにしていた。
(……こんなところへ来るの、クレッジだって嫌だったはずだ……俺が、何とかする。俺は、クレッジにとって、優しい勇者なんだし…………クレッジには、これ以上絶対に手出しさせない……)
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