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番外編6.執事になる!
106.カゴの外に出たい!
しおりを挟むフィッイルは魔法が苦手。しょっちゅう失敗してる。昔オーフィザン様に魔法を封じられた後遺症らしい。
だからちょっと心配……それに勝手について行くのは執事じゃない気がする。そんなことしたらオーフィザン様にお仕置きされちゃうし、セリューに殺される。
「……やっぱり僕、ちゃんと自分でオーフィザン様に頼んでみるよ。お願いしたら、いいよって言ってくれるかもしれないし、執事じゃなくても、お供くらいさせてもらえるかも……」
「させてくれるわけないでしょ。バカなの? ますますバカになったの?」
「……ば、バカじゃないもん……」
「バカでしょ。とにかく、僕がちょうどいい魔法をかけてあげるから」
「ええ……いいよ……怖いもん……」
「怖いってなんだよ! なんで僕の魔法が怖いのっ?! いいから大人しくして!!」
フィッイルが強引に僕の腕をつかむ。うわあああん!! フィッイルを怒らせちゃったよう!!
彼が握った手に力を入れると、僕の体が、かあって熱くなった。
え? え? 何? 魔法? ふわあああ!! 熱いっ!!
なんだかお腹の中が焼けるみたい。怖くて、そこをおさえてうずくまっちゃう。じーっと目を瞑っていたら、だんだん熱いのがなくなっていって、僕はゆっくり目を覚ました。
んんん? なにこれ。なんだかフィッイルが大きいよ? あれれれ? 僕、小さくなってる? でもなんだかふわふわ……え? え? 僕の手、いつもと違う……これ、肉球? しかも、普通の肉球じゃなくて、ぬいぐるみのだよ?
僕は、小さな体で窓のところまで走っていった。ピカピカの窓に映っていたのは、僕が一番大事にしている狼のぬいぐるみ!! ふわあああ! 僕が僕のぬいぐるみになっちゃった!!
「ふ、フィッイル? なに? これ?」
彼を見上げながら聞くと、彼はちょっと不機嫌そうに答える。
「……お、お前のぬいぐるみ……ぬいぐるみなら馬車に乗ってても、ふ、不自然じゃないから……」
「…………そうかなあ? 僕のぬいぐるみが勝手に馬車に乗ってたら、すごく不自然だと思うけど……」
「うるさーい!! バカのくせに、ムカつく反論するな!! バカ猫!!」
「えええっ!?」
フィッイルにまでバカ猫って言われちゃった……ううう……ひどい! だって僕、変なこと言ってないのに!
フィッイルに飛びかかろうとしたけど、あっさり避けられ、胴体を鷲掴みにされたうえ、フィッイルが魔法で出したカゴに突っ込まれちゃう。上から蓋を閉められて、ついでにかちゃんって鍵をかける音がした。
え?? え? カゴに閉じ込められた?? うわあああん!! フィッイルひどいよ!!
「フィッイルー!! 開けて!! フィッイルーーっ!!!」
必死に叫びながらカゴを引っ掻く。それでもふたは開かないし、フィッイルも開けてくれない。
うえええん!! なんでこんなに怒ってるの?? ひどいいいいいっ!!!
うわわわわ!! いきなりカゴがグラって揺れた!!
カゴの隙間から外を覗き見ると、周りの景色がどんどん後ろに走って行く。僕のカゴをフィッイルが運んでいるんだ!!
え? え? どこに連れて行かれちゃうの!? お城から出ちゃったよ!?
「フィッイルーーっ! ごめんー! 謝るから出してよー!! フィッイルー!!」
うわあああん!! 泣いても叫んでも出してくれない!! そんなに怒ったの!?
僕のカゴはグラグラ揺れて、なんだか目が回ってきた。フラフラしていると、乱暴にどこかにカゴが着地する。
ふああああ……怖かったよう……ううう、気持ち悪い……
フラフラしながら、カゴの外を覗く。うわあ。ここ、馬車の中だ!! カゴ、馬車の中に置かれちゃったんだ!!
カゴの隙間から外を覗くと、腕を組んだフィッイルがカゴを見下ろしているのが見えた。
「じゃあ、クラジュ。執事の仕事、頑張ってね」
ええん……フィッイル、怒ってる。だけど、こんなことしたら、またオーフィザン様にお仕置きされちゃうし、フィッイルだって怒られちゃう!!
「フィッイルー! 開けてーー!! フィッイルーーっっ!!
必死に叫んでも、フィッイルは僕に手を振り背を向けてお城の方に帰って行っちゃう。
ううう……意地悪。
どうしよう。こんなところをオーフィザン様に見つかったら……いや、オーフィザン様にならまだいい。セリューとかにバレたら、カゴごと微塵切りにされるか、カゴごと燃やされる。
うわあああん! なんとかしなきゃ!!
必死にカゴを引っ掻きまくるけど、ふかふか肉球じゃ、カゴはビクともしない。もう手が痛い……
運良く助けてくれそうな人が一番に馬車に近づいて来ないかな? ダンドとかシーニュだったら、何やってるんだって言いながら助けてくれそう。
そんな都合のいいことを考えちゃうけど、そんなにうまくは行かないんだ。
カゴの隙間から、外を覗いていたら、遠くから大きなバスケットを抱えて馬車に走ってくるセリューが見えた。
うわあああ!! 一番怖い人が来た!!
セリューは、僕が入っているカゴを奥に置きなおして、自分が持ってきたバスケットをその横に積み込む。
僕がいるってことはバレずに済んだみたいだけど……ば、バレないようにしなきゃ……バレたらみじん切りか炭だ!!
息を殺して外を見張っていると、セリューの後ろから誰か来る。
あ! ダンドだ!! 嬉しくて、つい尻尾を振っちゃう。いけないいけない。あんまりパタパタ音を立てたら、僕がいる事がばれちゃう。
尻尾を両手で押さえてとめて、外を覗き見ると、大きなカゴを抱えて歩いてくるダンドの姿が見えた。
「セリュー、荷物、全部積み込んだ?」
「ああ。お前……それはなんだ?」
セリューが聞くと、ダンドは持ってきたカゴの蓋を開く。中に入っていたのは、カゴいっぱいのドーナツだ!!
うわあああ! 美味しそう!! ドーナツ食べたい!!
「お弁当だよ。道すがら食べようと思って」
「だからと言ってそんなに……」
「だってセリュー、最近忙しくておやつもらいにこないじゃん。だから今日はいっぱい作ったよ!! 甘さ控えめ!!」
ダンドが持っているカゴからは、ふわふわふわふわ美味しそうな匂いがする湯気が上がっている。きっと揚げたてなんだ!!
セリューがドーナツ好きなんて、初めて知った。ドーナツ、僕にもくれないかなあ? だめかなあ?
うう……カゴから出たい。あんなに美味しそうなドーナツがそばにあるのに!!
一生懸命、カゴから出ようと蓋を叩いてみるけど、全然開かない!!
うー!! ドーナツーーっ!! 誰か開けて!!
つい、叫びそうになる。だけど今はダメだ。今はセリューがいる。セリューにこんなところを見つかったら、僕は殺されちゃうかもしれない。なんとかダンドだけになってくれないかな?
じーっとカゴの中から外の様子をうかがっていると、二人の向こうから、今度はオーフィザン様が歩いてきた。
「セリュー、ダンド。用意はできたか?」
「はい。すぐにでも出発できます」
セリューが答えるのを聞いてびっくりした。すぐに出発しちゃうの? このまま黙ってついていったら、後でいっぱい怒られる!
すっごく焦る僕の前で、オーフィザン様はドーナツのカゴに手を伸ばして、一番上のチョコレートのドーナツをパクって口に入れちゃう。すかさずダンドがカゴのふたを閉めた。
「オーフィザン様! つまみ食いはだめです!!」
「うまいじゃないか」
「もう!」
いいなあ。オーフィザン様……僕もドーナツ食べたい。
オーフィザン様はつまみ食いされて怒るダンドを無視して、馬車に乗り込んで来る。
「行くぞ。ダンド。セリュー」
ダンドはブツブツ言いながらオーフィザン様の向かいに座り、セリューは御者台に座った。車輪が回る音がして、ガタガタ馬車が揺れだす。ううう……結局出発しちゃったよ。
カゴの隙間からそっと外の様子を伺うと、すぐそばにオーフィザン様が座っていた。どうせなら、抱っこされたいなあ。ドーナツも欲しい。こんなにオーフィザン様のそばにいるのに寂しいよ。
もう、オーフィザン様を呼んじゃおうかな? 今なら、セリューは御者台にいるから、僕がいるのを知った途端、切りかかって来ることはない。勝手についてきて、オーフィザン様には怒られちゃうけど、ずーっとカゴの中にいるよりいい。
「お、オーフィザン様! オーフィザン様!!」
あ、あれ? 一生懸命呼んでいるのに、オーフィザン様、気づいてくれないよ? 聞こえないのかな?
さっきより大きな声でいっぱい叫んでも、やっぱりオーフィザン様は気づいてくれない。
なんでだろう……あ、カゴの蓋が少し光ってる。まさか、このカゴ、フィッイルの魔法がかかってるの?? だからオーフィザン様に声が届かないんだ……フィッイルの意地悪……どうしよう……
もうこうなったらいっぱい叫ぶ!!
「オーフィザン様!! 開けてーーっっ!!」
ううう、開けてくれない。なんとかしなきゃ!!
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