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番外編2.出張中の執事(三人称です)
71.決行
しおりを挟むフィッイルに案内され、セリューとダンドは大きな扉の前に来た。ドアノブに手をかけるが、やはり、鍵がかかっている。セリューは鍵を開けようとしたが、扉は開かない。伯爵の部屋だけあって、鍵も強固なようだ。ダンドがセリューの手元を覗き込んで言った。
「セリュー、開かない?」
「ああ……もう扉を壊すしか無いか……」
しかし、そんなことをすれば、大きな音を立ててしまう。セリューは後ろに立っているフィッイルを見つけて言った。
「おい。魔法で鍵を開けられないのか?」
「え? え? 僕? 開くかな……僕、魔法下手だもん……」
「それでも魔法使いだろう。頼む。早く開かないと、誰か来る」
「う、うん……」
フィッイルは前に出て、扉に触れる。すると、扉はざあっと音を立てて、砂になってしまった。フィッイルは涙を浮かべながら振り返る。
「うううー……ごめんなさい……やっぱり失敗しちゃった……」
「開けばいい。探すぞ。ダンド」
「はーい」
「僕も探す!」
ダンドがコリュムを見張っている間に、セリューはフィッイルと一緒に、何か銀竜につながる証拠がないか、探し始めた。鍵がかかった引き出しや、ものを隠せそうな家具の下を探すが、何も出てこない。
しばらくして、フィッイルが地図ときらびやかな箱を掲げて、セリューのところに持って来た。
「見て! 地図!」
「地図? 今度は何の地図だ?」
「伯爵は僕たちを集めて、銀竜の巣を探させたんだ。その地図だよ」
「なるほど……そちらの箱は……」
「綺麗な箱!!」
セリューはその箱に見覚えがあった。カバンから銀竜が落としていった鍵を取り出してみる。間違いない。
「……この鍵の箱だ……」
少し離れたところからダンドが聞いてくる。
「え? セリュー? なに?」
「これは、この鍵で開くはずだ」
「そうなの?」
「ああ。中には確か、魔力を探知するための香炉が入っていたはず……」
鍵穴に鍵を入れると、箱はすぐに開いた。しかし、中に入っているのは香炉ではなく、腕輪だった。
「……腕輪……銀竜の巣に行くためのものか……竜の文字がある……」
「え? それ、字なの?」
ダンドはセリューの指したところを見て、首をかしげる。竜族が使う独特な字を読める者はまずいない。セリューも、先輩の執事に徹底的に教え込まれていなければ、それを文字だとすら思わなかっただろう。
「見ろ。書いてあるのは伯爵の名前だ。銀竜が伯爵に渡したもので間違いない」
「証拠、見つけたね。伯爵は銀竜とつながっている」
「しかし、そうなると、こっちの腕輪は誰のものだ?」
セリューはフィッイルに渡された腕輪を取り出した。フィッイルがその腕輪の内側を指して言った。
「それにも、名前が書いてあるよ。僕、その名前知ってる」
「誰だ?」
「少し離れたところにいる狐妖狼の群れに、そんな名前の奴がいたよ。多分、そいつが落としたものを、この屋敷の人が拾ったんだよ」
「なるほどな…………」
セリューが腕輪を見つめ、考え込んでいると、ダンドが首を傾げてきいてくる。
「どうしたの? セリュー」
「…………いや。城下町に、銀竜がいただろう」
「うん。あれも、伯爵が?」
「そうだとしたら、伯爵は城にいるんだ。オーフィザン様を領地に集めた銀竜に襲わせるつもりなら、町に出た銀竜は陛下を狙っているのかもしれない」
「……伯爵が城から出ないのは、陛下を狙うチャンスが来るのを待っているのか……」
「一度失敗しているからな。今度は失敗したくないのだろう」
「じゃあ、早く陛下に全部話して、俺たちはオーフィザン様のところへ急ごう!!」
「落ち着け。ダンド。オーフィザン様のことが心配なのは分かるが、こちらで事件を解決することが、オーフィザン様からのご命令だ。まずはオーフィザン様に連絡を取る」
セリューはオーフィザンと連絡するためのガラス玉を取り出した。すぐに床にできた水溜りから声がする。
『そうか……やはり伯爵と銀竜は手を組んでいたか』
「聞いておられたのですか?」
『ああ』
聞こえてくるオーフィザンの声は、落ち着いていた。ダンドが水溜りに向かって叫ぶ。
「オーフィザン様!! そっちは大丈夫ですか!? 伯爵は銀竜と組んでるんです! 銀竜も、周りの奴らもみんな敵だ!! 早くそこから逃げてください!!」
『逃げろ? なぜだ? 私はここの奴らにふざけた真似をしてくれた礼をしてから、そちらに向かう。お前たちは陛下を守れ。伯爵の狙いは私と王だ。トライメトもそうだろうと言っている』
「そんなことより、早く逃げてください!! 周りの銀竜、みんなオーフィザン様を狙ってるんですよ!!」
『たかが銀竜が群れごときに、私が負けるはずがないだろう。ダンド、セリュー、そちらを頼んだぞ。二度と伯爵が私を狙わないようにしてこい』
「待ってください!」
ダンドが叫んでも、もうオーフィザンの声は聞こえない。水溜りもガラス玉に戻ってしまった。セリューはそれを拾い、立ち上がった。
「行くぞ。ダンド」
「でも、オーフィザン様は?」
「あの方のことなら心配いらない」
「……でも、俺らが行って問い詰めたところで、伯爵が全部話すかな?」
「いいや。伯爵の手強さはコリュムの比ではない。私たちがどれだけ証拠を集めようが、どれだけ調査を進めようが、自白はあり得ない。これからあの銀竜を探す。銀竜の方が今回の作戦を降りれば、伯爵の作戦は失敗する」
「なるほど……あれ?」
ダンドが窓に駆け寄る。彼は窓の外を指して言った。
「あれは……銀竜……」
「なに?」
セリューも窓に近づいた。夜空を横切って飛んで行くのは、確かに銀竜だ。向かう先には城がある。ダンドが呟いた。
「作戦決行か……困ったね……」
「行くぞ。城へ向かう!! 外に出れば馬小屋があるはずだ!!」
「分かった!!」
セリューとダンドは、フィッイルを連れ、部屋を出た。
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