27 / 174
27.お礼言わなきゃ!
しおりを挟む朝になって、オーフィザン様のふかふかのベッドの上で目を覚ました僕は、これからどうしようか考えていた。
……ど、どうしよう……僕、オーフィザン様との約束を破って、気絶したんだ。結局僕、全然オーフィザン様に満足してもらえてない!! だって僕は、オーフィザン様の性奴隷なのに、一回も抱かれてない!!
部屋には僕しかいない。きっと、オーフィザン様、先に起きてどこか行っちゃったんだ。
絶対後で怒られる……まずいなあ……ううう……辛いの嫌だ……うん。後のことはなるべく考えないようにして、今は寝よう!! このベッド、気持ちいいし!!
ずーっと寝ていたいのに、なんだか外が騒がしい。何かあったのかな?
窓から外をうかがうと、果樹園の方から、たくさんの果物を入れたカゴを持った人たちが、城の方に向かって走って来ている。
あ、ペロケもいる! 大きなカゴを抱えて、すごく忙しそう。多分、ご馳走の準備をしているんだ。もしかして、誰か来たのかな?
えーっと、僕は何かしなくていいのかな? もう少し、布団の中にいたいけど……なんだかさっきから頭とお尻がムズムズする。
あ、頭、何かついてるのかな? あれ? 猫耳、いつもと触り心地が違う。なんだろう?
鏡に駆け寄ってみた。え……え?
「み、耳ーーっ!!」
ひとりなのに、叫んじゃった。だって、いつもは猫の耳があるところに、狼の耳が生えている。お、お尻にも、狐の尻尾、生えてる!!
狼の耳に、狐の尻尾……元の僕だ!! でも、なんでいきなり耳と尻尾が戻ってきたんだろう……? もしかして、オーフィザン様が魔法を解いてくれたから!? それなら、オーフィザン様にお礼言わなきゃ!!
僕は部屋を飛び出した。
城の中は、いろんな人がバタバタ行き交っていて、本当に忙しそうだった。いつもは朝からこんなに慌ただしくない。朝の挨拶だって、会う人みんながするのに、今日はそれどころじゃないみたい。掃除をしている人はいつもより念入りだし、食材やテーブルクロス、新しいカーテンを運ぶ人も、みんな駆け足だ。
やっぱり誰か来るんだ。多分、いつもとは違う、特別な人なんだろう。
だけど、僕はそれより、とにかくオーフィザン様に会いたくて、城の中を走った。たまにいつもと違う僕を見てびっくりする人もいたけど、今はそれを気にしている場合じゃない。
オーフィザン様、どこだろう……
キョロキョロしながら走っていると、前の方から、驚く声がした。
「く、クラジュ!?」
「あ、ぺ……ペロケ……」
廊下の真ん中に立ったペロケは、大きなスイカを持って、僕を見て目を丸くしていた。
「クラジュ……それ……」
「あの、ペロケ、オーフィザン様、どこにいるか、知りませんか?」
「オーフィザン様なら広間に……そ、それより、クラジュ、その耳……」
「これ、本当の僕の耳なんだ!!」
彼に笑顔で言って、広間へ急いだ。
広間に近づくごとに、廊下を忙しそうに走る人も増えていく。彼らにぶつからないように注意しながら走って、やっと広間の扉が見えてきた。
あれ? 扉の前に、見覚えのない人たちがいる。兵士みたいな格好をしてる。もしかして、あの人たちがお客さん?
僕は扉に近づこうとしたけど、扉の横に並んだ兵士さん達に止められた。
「待て。何の用だ?」
何の用だって……僕はここに住んでいて、ここで働いているのに、なんでお客さんに通せんぼされなきゃいけないの?
「あ、あの……オーフィザン様に会いたいんです! どいてください!」
「オーフィザンに何の用だ?」
「え……み、耳のことを報告したくて……」
「耳?」
兵士さんが首をかしげると、隣にいた兵士さんが、僕の耳をつまんで言った。
「お前……狐妖狼族か?」
「はい……み、耳、触らないでください」
「オーフィザンは今、陛下と話をしている。用なら後にしろ」
「え……へ、へいかって……」
何を言っているのかわからなくて、たずねようとしたところで、後ろからシーニュの怒鳴り声がした。
「クラジューーーーっっ! このばか!!」
「いた!」
痛い……なんでいきなり後ろから頭殴るの!?
振り返ろうとしたけど、それより先にシーニュは、僕の頭を無理やり床におさえつけ、彼自身もその場にひれ伏した。
「申し訳ございません!! こいつ、ものすごいバカで……今からこいつが剥製になって詫びるので、どうかお許しください!!」
「し、シーニュ……痛い……」
一体、シーニュ、どうしたの?
聞きたいけど、シーニュはそれどころじゃないみたい。こんなに焦るシーニュは初めてだ。
どうしていいか分からないでいると、唐突に、広間の扉が開いた。
そこには、オーフィザン様と、もう一人、知らない人が立っている。オーフィザン様と同じくらいの背丈で、すごく綺麗な格好をしていた。
この人がお客さん? 初めて見る人だ。
その人は、扉のわきで跪いている兵士さんにたずねた。
「騒がしいぞ。なんの騒ぎだ?」
「申し訳ございません。この者が広間に入りたいと申しておりまして、それを止めておりました」
それを聞いて、オーフィザン様が僕の方を見下ろす。僕がいることに気づかなかったのか、ちょっとびっくりしているみたいだった。
「クラジュ? お前、何をしている?」
「え、えっと……あの、み、耳が……」
僕は耳を触って見せた。だけどオーフィザン様は何も言ってくれない。
今度は、お客さんが僕の耳と尻尾を見て言った。
「オーフィザン、これが例の狐妖狼か?」
「ああ。クラジュだ」
「……猫耳はどうした?」
ぼ、僕に聞いているのかな?
「あ、あれは朝起きたらなくて……」
戸惑いながら答える僕だけど、今度はオーフィザン様のそばに控えていたセリューに、すごい勢いで頭をおさえつけられた。
「この無礼者!! …………貴様、陛下に対してなんという口を……」
え、へ、陛下? え? え? この人、もしかして、この国の王様!?
なにがなんだか分からなくて、セリューに頭をおさえられたままでいると、オーフィザン様がセリューを止めてくれた。
「セリュー、離してやれ」
「し、しかし……」
「構わん。そいつに話がある」
「……」
納得はしてないみたいだけど、やっとセリューは僕から離れてくれた。だけど、僕はますますどうしていいか分からない。だって相手は王様だ。
へ、変な態度とったら殺されちゃうのかな……?
王様は僕を見下ろして、不思議そうに言った。
「耳は元に戻ったのか? 尻尾もあるな……」
え? え? も、戻ったらダメだった?
慌てて手で耳を隠す。
だけど、そばにいたオーフィザン様は満足そうに答える。
「ああ。魔法を解いた。まだ完全ではないが、その影響だろう。後は向こうで話そう。こい、クラジュ」
「は、はい!!」
10
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる