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28.協力してもらえるか?
しおりを挟む客間に連れてこられた僕は、ソファでオーフィザン様の隣に座らされた。
えーっと……僕、何してればいいのかな……? ど、どんな風に座っていればいいの?
テーブルを挟んで、向こう側のソファには、王様が座っている。
僕のこの座り方、失礼じゃないよね……? シーニュにマナーを教わっておけばよかった!!
客間は広くて、調度品がいっぱい置いてあって、僕はそれだけで怖い。
向こうの角に置いてある大きな壺は、僕が壊したら、直すことができるのかな? 壁にかけてある大きな額に入った絵は? ソファとソファの間にあるテーブルは、黄金色に光っているけど、僕が引っ掻いても傷がついたりしないよね? こんなにいろいろ壊しちゃいけないものがある部屋に、僕を連れて来ないでよ!!
セリューが、華奢なティーカップとティーポットをテーブルに並べている。
そんな、いかにも僕が割りそうなものを僕の前に置かないでー!!
セリューもいつもとは違い、僕を睨んだりしない。それどころじゃないんだろう。だって、この国の王様が来てるんだもん!!
絶対に何も壊しちゃダメだ。もうソファから動かないでいる!!
足を抱えて座り直し、僕はオーフィザン様と談笑する王様を盗み見た。
王様って、こんな人だったんだ。初めてあったけど、優しそうな人だなあ……意地悪顔のオーフィザン様の隣にいると、ますますそう見える。
王様は紅茶を一口飲んでから、オーフィザン様にきいた。
「それで、クラジュの魔法は解けたのか?」
「後少しで完全に解ける」
「まだなのか……お前が手こずるとは珍しい。何かあったのか?」
「魔法の正体が分からなかった。だから解くのに手間取っただけだ。なにか罠でもあるのかと思っていたが、単にかけ方がめちゃくちゃなだけだ。相手が本当に魔法使いなのかも怪しい」
「魔法使いでなくても、魔法をかけられるのか?」
「ああ。道具を使えばできる。それにしてもかけ方が雑すぎる。かけた奴の顔を見てみたい」
「すぐに全て捕らえてみせる。では、クラジュは盗賊の一味ではないのか?」
「ああ」
え、え? と、盗賊って、なに? そんなものだと思われてたの? 僕。
びっくりしてオーフィザン様を見上げるけど、オーフィザン様は王様との話に夢中みたいだ。
「クラジュの言っていることに嘘はない。一年前、森で変な奴らに捕まって、猫耳を魔法でつけられ、怖くて逃げたら道に迷った、それだけだ。初めてここへ来た時に、嘘を見抜く魔法を使って聞き出した。こいつにかけられた魔法も、盗みを働くためのものではない」
「そうか……だが……」
王様が手を叩くと、部屋のドアを開けて、一人の男の人と兵士さん、それと、なぜかシーニュが入って来る。シーニュは少し戸惑った顔をしていて、彼のことも気になるけど、それより、彼と一緒に入ってきた男の人、狼の耳と尻尾がある。まさか、狐妖狼族?
兵士さんは頭を下げて出て行き、狐妖狼族の男の人と、シーニュが残った。
狐妖狼の人が、僕に駆け寄ってきて、笑顔でたずねてくる。
「あなたがクラジュさんですか?」
「え……は、はい……あ、あなたは?」
「僕はパトといいます。近くの森に住んでいる狐妖狼の群れの長です。お会いできて光栄です」
「は、はい……ぼ、僕もすごく嬉しいです!」
ここへ逃げ込んできて以来、仲間に会ったのは初めてだ。群れの仲間ではないけど、それでも嬉しい。
パトさんは僕と握手をしてから、真剣な顔をして、きいてきた。
「クラジュさん、あなたを襲った奴らのことを、もう少し詳しく教えてもらえませんか?」
「え?」
急にきかれて、戸惑い、聞き返す僕に、オーフィザン様が答えてくれた。
「最近、森で狐妖狼を捕らえる奴らがいるらしい。そいつらは、狐妖狼を使って、あの実を狙っている」
「え……あ! ま、魔法の道具の材料になるって言ってた、あの実ですか?」
「ああ。お前の例を見て、あの木に登れるのは狐妖狼だと考えたらしい。うまくはいっていないようだが」
「え……ぼ、僕があの木に登れたのって、狐妖狼だからなんですか?」
「いいや。お前にかけられた魔法のせいだ。一切快楽を感じないせいで、木に登ってもなんともなかったんだ」
「……」
えー……それって、オーフィザン様が変な魔法で木に登れなくしてたから、僕が登れちゃったってこと?
やっぱり木を守るなら、他の魔法にしたほうがいい。絶対。
王様も、呆れ顔で言った。
「……オーフィザン……木を守るなら、他の魔法はないのか?」
「いいじゃないか。気持ちいい上にエロい」
「……相変わらずお前の使う魔法は……いや、なんでもない。クラジュに登られて別の魔法に変えたのだろう?」
「より強力なものと、それとは別の魔法をかけた」
「……そうか……そちらの警備はお前に任せる。クラジュ、お前に魔法をかけた奴らのことを教えてもらおう。そいつらが、最近の狐妖狼の誘拐に関して、何か知っているはずだ。今回の一味にも、魔法を操る奴がいるらしいからな」
え……え? そうなの? 僕を捕まえた人達、今はそんなことしてるの?
オーフィザン様の大事な魔法の実を盗むための道具にするなんて……狐妖狼をそんな風に利用するなんて許せない。
それに、群れのみんなが心配だ。捕まってないといいんだけど……
パトさんは、その現状をよく知っているらしく、俯いて言った。
「僕の群れでも、最初は、水を取りに行った仲間が帰ってこなくなって……それから、群れを離れて水を取りに行ったり、食料を取りに行った人達が、次々にいなくなっちゃったんです……そして奴らは、ついに群れを探し当てて、仲間をほとんど連れて行って……難を逃れたのは、僕と、数人の仲間だけです。それで、城下町の役場に助けを求めたんです……まさか、陛下が話を聞いてくださるなんて……思いませんでしたが……」
苦しそうなパトさんが顔を上げると、王様が、それに答えるように続ける。
「あの魔法の実が奪われることは脅威だ。その上、狐妖狼の誘拐が始まった頃から、城下町でも、金品の盗難が相次いでいる。恐らく、同じ盗賊たちの仕業だろう。早く捕らえたい。クラジュ、協力してもらえるか?」
「は、はい!」
「では、お前が捕らえられた時のことを話してくれ」
「…………えっと……ぼ、僕の群れは、みんなで十人の小さな群れで、川のほとりを縄張りにしていたんですけど、仲間と果物を取りに行った時に、僕だけはぐれちゃったんです。それで、耳と尻尾を使って、仲間の位置を探知しようとしたんですけど……仲間を探している途中で、いきなり五人くらいの男の人たちに囲まれて……そ、それで……狐妖狼が珍しかったみたいで、連れて行くって言われて……逃げようとしたけど、無理で、森の中にある小屋に連れていかれました。僕、逃げられないように鎖で繋がれて……それで、僕を捕まえた人たちが酒盛りを始めたんです。みんな酔ってて、隅っこで震えてる僕を見て、耳と尻尾があると、仲間の位置を探知するし、こ、この耳が気に入らないって言い出して、じゃあ、別のをやるって言われて……み、耳と尻尾、千切られて……そこにいた、帽子をかぶった魔法使いに、新しく猫の耳をつけられたんです……ぼ、僕、すごく痛くて怖くて……ずっと泣き叫んでいたのに、そこにいた人たちは楽しそうで……………………」
思い出したら、涙が出てきた……怖かったことと、辛かったこと、全部が頭に蘇ってきて、体が勝手にガタガタ震える。ちゃんと話さなきゃいけないのに……怖くて怖くて、唇まで震えてる。これじゃ話せないよ……
だけど、不意に、隣にいたオーフィザン様が僕の肩を抱いて、引き寄せた。え? え? 急に、何?
びっくりして見上げると、オーフィザン様は真剣な顔をして言った。
「お前はもう、俺のものだ」
「……え?」
「他の奴が手を出すことは俺が許さない。もう怯えるな」
「……オーフィザン様……」
……わ……い、いつも意地悪なオーフィザン様が、意地悪じゃないこと言った……うわわ……なんだか……すごく嬉しい! それに、頼もしい。
珍しく優しいオーフィザン様に包まれて、僕の体は、ピクンって一回震えた。こんなにそばに来られて、ドキドキするけど、恐怖は僕の体から消えていく。これなら話せそう!
「え、えっと……そ、それで、みんなが寝静まってから逃げたんです。でも、耳と尻尾がないと、みんなの位置が分からなくて、それで、何日も森をさまよって……か、柿を見つけたんです……」
これでいいのかな……? 狐妖狼を捕まえているやつらを探す手がかりになるかな?
僕が口を閉じると、一息置いて、王様が僕に言った。
「そうか……では、お前を捕まえたものたちが、どんななりをしていたか、教えてくれるか?」
「は、はい!」
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