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後日談
117.今日は引き分け
しおりを挟む「いずれまぐれで勝てるかもな」
ロヴァウク殿下にそう言われても、ますます悔しくなるだけだ。
「まぐれなんかじゃ嬉しくありません。さっき、魔法の道具の剣を一瞬で打ち消したディロヤルもだし、残党をすぐに見つけて握りつぶしたランギュヌにだって……多分、僕は遠く及ばないんです。ライイーレ殿下に至っては、比べることも考えられないって言うか……」
「ディロヤルと貴様とでは、魔法について学んだ時間も、詰め込んだ知識も違いすぎる。ランギュヌの魔法の道具に関する執着とその技術は、世界でも一目置かれるほどのものだ。それらに今勝てなくても、恥じることはない」
「だけど、彼らに勝てなかったら、ロヴァウク殿下に勝つなんて、絶対に無理ですよね? 僕、そんなの嫌です。僕はロヴァウク殿下に勝ちたいんです」
「……」
顔を上げて目を合わせると、彼は少し面食らったようだ。
本気で僕が勝つことはないって思ってるな……そうかもしれないけど、僕はそんなの嫌だ。
「……僕、今は誰にも敵わないけど、もっと腕を磨いて、荒野の城まで辿り着きます。討伐隊に参加するのも、殿下に勝つのも僕です」
「…………それでこそ貴様だ」
そう言って、ロヴァウク殿下は僕に微笑む。
余裕な態度で笑う彼が好きだ。僕より圧倒的な魔法を使う彼が好きだ。
だけど、彼に勝ちたい。
だからだろうか。こうして見上げているのも、なんか好き。
歩き出して、買って来たものが入っている紙袋を見下ろす。
殿下と勝敗を競うのは好き。そして、彼は僕の好きな人だ……!
せっかくのチャンスなんだからやっぱり誘いたいっ……! クロウデライたちだって、協力してくれたんだから。
「あ、あのっ…………ロヴァウク殿下!」
「どうした?」
「あのっ…………実は……き、今日、一緒に飲めないかなって思って……あ、嫌だったら嫌って言ってもらっていいんです…………ただ、殿下と……二人で飲みたくて……」
「レクレット……」
「や、夜食をいっぱい買ったので……ビールもっ……! 美味しい夜食が買える店をみんなが教えてくれてっ……! あ、えっと……みんなとも、今度飲もうって…………っっ!!??」
段々恥ずかしくなってきて、早口になっていく僕を、殿下は突然強く抱きしめた。
彼の胸に僕の頬が当たってる。熱いくらいの体温を感じる。大きな腕とその身体で捕まえるようにされて、微動だにできない。
「で、殿下っ……!??」
「……俺を誘ったことは褒めてやろう。だが、そんな時に他の男の話をするとは、どういうつもりだ?」
「そ、そんな……僕はただ……っ!」
僕はただ、殿下を誘いたかっただけだ。
それなのに、なんでこんなことになってるんだ。
殿下は僕を離してくれそうにない。背中に彼の手が回って、痛いくらいに抱き寄せられて、無理矢理顎を上げられて。抵抗も許されずに、キスされてしまう。誘うように唇を咥えられて、油断したが最後、彼の深いキスに酔わされていく。
彼の唇が離れていく頃には、すっかり体に力が入らなくなっていた。
「でんか……」
「貴様はまだ分かっていない。貴様のそばにいるのは俺だ。他の男を見るな」
「な、何言ってるんですか……僕、そんな気は……」
「なくても妬ける」
そう言って、彼はまた僕にキスしてくる。そして「俺の方が先に誘いたかった」と囁いた。
「殿下……」
「せっかくだ。ライイーレには別の部屋を用意して、二人で飲むぞ」
「えっ……!?」
「あの二人部屋に、俺と貴様の二人だ。朝まで片時も離してやる気はないから、覚悟しておけ」
「あ、朝までって……」
「貴様…………いやらしいことを考えているだろう」
「はあっ!!?? な、何言ってるんですか!! 考えてません!!」
「抱かれると思ったんじゃないのか?」
「そっ……そそそんなことっ……!!!!」
「安心しろ。何もしない」
「……え?」
「そうして怯えるうちは、何もしない。そういう顔をする貴様にはそそられるが、怯えさせたいわけではないからな」
「…………何言ってるんですか……」
殿下は僕を見下ろしてニヤニヤ笑っている。
なんだか悔しい……
安心は……確かにしたけど、ちょっとお預けされた気分だ……
僕の方にも、ちょっと攻撃的なものが湧き上がってくる。
「…………じ、じゃあ、殿下は僕と同じ部屋にいても、何もしないつもりだったんですか?」
「………………」
返事がない。それに目を合わせてくれない。
……どうしたんだろう……
殿下はずっと無言だ。
もしかして、変なこと言って不快な気分にさせたのか?
だって僕ばっかり慌ててるみたいで、ちょっと悔しかったんだ。
「あ、あのっ……殿下っ……僕っ……!」
「黙れ。こっち見るな……」
「え?」
「…………貴様を誘うところまでしか考えてなかった……」
「…………」
なんだよそれ……なんでそんな顔するんだ。
殿下も今日、僕のことを誘うことを考えてくれてたのか……
じゃあ、僕と同じこと考えてたんじゃないか。
だったら、僕の方が先に誘ったんだから、僕の勝ちか?
だけど……
照れたような彼の顔を見ると、勝敗なんて考えられない。
僕までドキドキしてきて、真っ赤になった顔を、慌てて隠した。
今日は、引き分けでいいか……
*後日談*完
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